第38話 雪がちらつき出したようです
ドワーフ達による家の改装は、二日で終了した。
寒くなり、大木の葉も落ち出したことから開いた隙間を、屋根の高さにある枝に隙間よりも少し長い壁を蔓で結んで枝を避けて下げることで、直接隙間風が入るのを防いでくれたのだ。
その分陽ざしが入らなくなって薄暗くなるので、明り取り小窓を天井近くに設置してくれた。これも窓に覆いをつけることで直接雨や風が入らないように工夫してくれている。
それと外の台所の竈とテーブルの場所に東屋のように柱を建てて屋根を付けてくれた。
雨期は室内の壁と床の間に小さな竈を組んで肉を焼いていたが、これなら大雨や大雪で無ければ外で肉が焼けそうだ。
今回もさすがドワーフだ!という職人仕事で、素晴らしい出来上がりだった。
改装工事が終わった後は、当然のように宴会となり、ドワーフ達へのお礼にと作っておいた果実酒を提供したらとても喜んで貰えた。
果実酒は、最近森でリンゴに良く似た味の果物が大量に実っているのを見つけたので、試しに仕込んでおいたのだ。
因みに最初はマジックバッグに入っていた空き瓶などを使っていたが、鍋などを持って来てくれる時にドワーフ達が樽を小さい物から大きい物まで持って来たので、今回はその小樽に仕込んだ物だ。
本当は定番の蒸留酒とか、ブランデーも作ってみたいが、蒸留するだけの酒を仕込めないので、そのことはドワーフ達には話していない。絶対騒ぎになりそうだからな!
そうこうして畑の外の野菜の収穫も一段落し、冬にも強い野菜の種をケットシー達に頼んで手に入れて貰い、種蒔きも無事に終わった頃、寒さに起き出すと雪がちらちら舞っていた。
「おお、寒いと思ったら初雪かー……。今日は、さすがに水遊びは無理だよなぁ。草原の方で遊んで待っていて貰うか」
のそのそと温かいアインス達の傍から出て、屋根がついた台所でいつものように肉を焼いた。
そうして朝食を食べ、いつものように子供達を待っていると。
「そっかぁ。サシャは卒業かぁ」
『うん。これから、頑張って家の手伝いするの』
「寂しくなるけど、いつでも遊びに来るんだぞ」
『うん!』
笑顔のサシャの頭を、名残惜しく思いながら撫でると、うれしそうに耳をぴぴぴと動かした。
それ以外にも、ケットシーの集落がある地はここより寒く、もう雪が積もり出しているそうで、春までここに子供を預けに来るのはお休みになるそうだ。
そんな話をシンクさんとしていると、クー・シーの集落から子供達が来た。
クー・シーの集落はここから近いので、雪が積もった時に来ないくらいかな、と思って付き添いで来たシェロに聞いてみると。
『冬は大人も森での作業が減るので、集落で家を新築したりするんです。だから、子供達も集落で面倒を見れるので、これ以上寒くなったらあまり預けに来ないかもしれません』
クー・シーの集落では、食べ物を交代で森へ採りに出たり、森を見回りしていたりしている。でもやはり雪がそれ程積もらなくても動物は冬眠に入るし、森の食べ物も少なくなるから出歩かなくなるそうだ。
「そっかぁ。寂しくなるけど、まあ、仕方ないよな。晴れた日とか、たまには遊びに子供達を連れて来てくれな!」
なんだか子供の子猫と子犬達がいるのが日常で、アインス達とキキリはずっと一緒なのに来なくなると思うと無性に寂しくなってしまった。
ただその後神獣、幻獣の子供達は訓練に休む日はあるけど、冬だからと休むことはない、と言われて安心してしまった。
なんだか最初は子供を預かるなんて、って思っていたけど、案外向いていたのかもしれないよなぁ。子供達とのんびり過ごす毎日は、日本で働いていた日々よりもとても充実していたのだ。
最後だからとサシャと仲良く手を繋いで聖地へ向かい、泉まで来ると今日は寒いから泉の周囲で遊んで待っていてくれるように頼んで世界樹へ向かう。
『最後だから、一緒に言ってもいい?』
「お、サシャ。勿論だよ。じゃあ、そこまで一緒に行こうか。ただ無理だと思ったらそこで待っているんだぞ」
『うん!』
ケットシーやクー・シーの子供達は、普段は世界樹は恐れ多いと近づかないのだ。俺には分からないが、世界樹からは後光のように輝くオーラが見えているらしいのだ。
だから無理していないか、とサシャの顔を伺ったが、顔の表情からは軽い興奮しか伺えなかった。
手を繋いで話しながらゆっくりと世界樹へ向かうと、サシャの足が鈍ったいつもの場所の手前で止まり、サシャにはそこで待って貰って一人で向かう。
世界樹の葉をいただいてから、魔力を注ぐ時にはいつも手に持つことにしている。その方が効率良く世界樹へ魔力を注げる気がしているからだ。
マジックバッグから取り出した世界樹の葉を手に、いつものように目を閉じる。
そこで思い描いたのは、雪が舞う中でも葉っぱを広げ、冬の曇天の隙間から注ぐ陽ざしで光合成をする世界樹の姿だ。
もうちらついた初雪は降ってはいないが、何故か心にその光景が浮かび上がったのだ。
ああ……。透けた幹に雪の白さが映って、とてもキレイだ。
自分のイメージした光景にぼんやりと見とれながら魔力を注いで目を開けると。
「うをっ!こ、今度は白いっ!!……けど、キレイだな」
世界樹の葉を貰った時のように激しくキラキラしてはいないが、ぼんやりとした白い淡い光が優しく輝いている。
心なしか世界樹の幹も、淡く光っているようだ。
思わず光が止むまでそんな光景に見とれてしまっていた。そうしてサシャの方を振り返ると。
「ええっ!サ、サシャ、どうしたんだっ?」
『……今、とても神聖な光がパアッて世界樹から放たれたの。その光が神々しくて、立ってはいられなかったの』
「え、えええっ!確かに今日は白っぽく輝いていたけど、そこまで強く光ってなかったし、キレイで見とれてしまっていたけど神々しいとはまた違ってた気がするんだけど」
そうして二人で見合い、お互いに見えた物を話し合ってみると。
どうやらサシャには俺が見ていたような光の煌めきは見えず、世界樹のオーラを視界でとらえて見えているらしい。
これも精霊との違いなんだろうな。セランやクオン、それにキキリには俺と同じ物が見えていたみたいだし、精霊だと世界樹の感じ方が違うんだろうな。
それがなんとなく気になって、皆の方へサシャと手を繋いで歩きながら聞いてみると。
「なあ、サシャ。アーシュに言われてこうして日課として世界樹に俺が魔力を注いでいるけど、精霊的にはどう感じているのかな?世界樹に不敬だ、とか思われていないか?」
『ううん。全然!お兄ちゃんが畑に掛けている魔法の魔力は、いつも心地いいってスプライト達も言っているよ?世界樹様だって、喜んでいるように見えたよ?』
「そうか。そう言って貰えると、うれしいな。じゃあ、これからも日課、頑張るよ」
これから迎える冬は、子供達が少なくて寂しいと思っていたけど、なんだか聖地へと通う日課に寒い中通うのも苦にはならなさそうだ、とそう思えたのだった。
****
サシャは今大人のケットシーの三分の二くらいの身長に成長しました。
そのくらいになるともう大人と一緒に仕事ができるので、卒業となりました。
子猫と子犬達が少なくなるのは寂しいですが、次回かその次に新しい子を出す、かも?です。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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