第37話 冬の準備を始めるようです

 麦の収穫を終えて子供達を見送った後は、片付けをして夕食の準備にかかった。


「クオンは肉食べるかー?アインス達とキキリには焼くけど、クオンも焼いた肉を食べてみるか?」

『キャンッ!た、食べる!にく、焼いて!』


 今日はクオンの初めてのお泊りなので、皆が帰って辺りが暗くなってもこの場所にいることに興奮しているのか、さっきからはしゃいで飛び跳ね回っている。


「よし、分かった。今から支度するから、クオンはいい子でキキリとアインス達と待っていてくれな」

『キュウアッ!』

『ギャウッ!』


 俺の言葉を聞いて、キキリがクオンと一緒にあちこち案内し出したのを見送り、いつものように肉の準備にかかる。

 クオンは狐なだけに雑食で、果物も肉も何でも食べる。お昼は母親に持たされた果物が多いが、皆が肉を食べるからクオンも肉がいいだろうと聞いてみたのだ。


『キャウゥ?』

『ギャギャウ!』


 台床で二人のやり取りするかわいい鳴き声を聞きつつ、どんどん肉を焼いて行く。

 するといつしか鳴き声が聞こえなくなり、後ろを振り返るとアインス達も含めて全員が涎をたらさんばかりに並んで待っていた。


「今日は新しいことをしたからお腹減ったか?おかわりはあるから、存分に食べてな!」

『待ってたぞ、イツキーーー!お腹減ったぞーー!』

『おうっ!早く肉くれ!』


 前のめりになるアインスとツヴァイを押しのけて、いつものように台に大きな皿を乗せ、その上にどんどん焼いた肉をおいた。


「キキリとクオンはこっちな。ちょっと小さく切っておいたから、おかわりの時は言ってな!」

『キャウッ!』『ギャウッ!』


 二人そろった鳴き声の返事に、思わず笑ってしまった。

 それからもどんどん肉を焼き、最近少なくなっていた肉の量も、今日は以前と同じくらい焼き続けたのだった。



 皆が満足するまで肉を食べ終えた後、自分の夕食を用意して食べていると、お腹いっぱいになって眠くなったのか、寝ぼけまなこのクオンが俺の足をテシテシと叩いた。


「お?眠いのか?先に寝ていてもいいぞ?」

『う、ううん。膝!膝でちょっと眠る……』


 膝に乗りたいのか?そう思って少しだけ大きくなったクオンを抱き上げて膝にのせると、のそのそといい場所を探してくるくる回ったあと、丸くなって尻尾に鼻をうずめると、すぐにスースーと寝息を立てだした。


 うおおおぉおっ!か、可愛すぎるやろぉおおっ!な、なんだ、これ。これは、何て天国ですかっ!


 思わずフゥフゥ吐息をもらしつつ、目を見開いて膝の上のクオンの姿を凝視してしまった。


『……イツキ。さすがにそれはダメだ。変態だよ、変態。アインスかツヴァイに言って、ちょっと背中に乗せて崖下まで駆け下りようか?そうすれば頭も冷えるだろうし』

「……すいません、止めて下さい。俺が悪かった!クオンがあまりにも可愛くて、つい……」

『キキリ、頭に乗っていいですよ。で、クオンに怪しい目を向けたら頭を叩いてやりなさい』

『ギャオッ!』


 キキリの返事のすぐあとに、肩と頭にずっしりとした重みがかかる。

 ……なんか俺の扱い、ひどくないか?いや、確かにさっきはちょっと変態っぽかったと、自分でも思うけど。


 結局そのままご飯を食べ、しばらくクオンを寝せてから身体を濡らした布でふき、皆で一緒に寝たのだった。

 因みにクオンは俺の腕の中がいい!と言って、俺の腕の中で寝たぞ!朝起きた時には、何故か俺の頭の上にお腹があったけどな!




 翌日は子供達と石臼を交互に回し、小麦粉を引いた。小麦粉は、ドライの乾燥が丁度良かったのか、うどんっぽい物を手探りで作って食べてみたが、美味しかったぞ!

 それから二週間後に自然乾燥させた小麦も脱穀して粉にし、しっかりとマジックバッグへと入れた。


 その間にもどんどん気温は低くなり、たまにポツポツ雨が降る日などは、ローブとマントを纏っても寒いくらいだった。

 子供達は自前の毛皮があるからか、元気に走り回っていたけどな!


 このまま冬を迎えたら、家も風通しが良すぎるしどうしようか、と思っていたある日、ドワーフ達が大勢で訪れた。


「ええ?今日はどうしたんだ?」

『このまま冬になったらさすがに寒いだろう?家の壁を塞ぎに来たんだよ!だから木を出してくれ!』

「ええっ!冬支度の為に来てくれたんですか!ありがとうございますっ!!木は冬の薪にしてもいいかと、森を歩いて見つけるたびに回収していたのでありますよ」


 日課の聖地へ行き、子供達が昼寝から目覚めた後、アインス達がいる時は森へ散歩へ行くのだ。

 その時に果物を収穫したり、野草をとったりしながら薪用に乾いた枝や倒木もマジックバッグへとしまっておいたのだ。


 その木を広場に並べつつ、ドワーフ達一人一人にお礼を言うと、豪快に笑いながらまた美味い飯と面白い話を聞かせてくれ!と言った。


 ううう。本当に精霊達は皆優しいなぁ。なんか本当にありがたい。


 毎日の畑の世話もスプライトやノーム達が手伝ってくれているし、洗濯にはウィンディーネやシルフ達がそっと手を貸してくれている。

 俺のここでの生活に、精霊達の助けはなくてはならない物になっているのだ。


『おう、そうだっ!なんかケットシーどもが、どうしても布が手に入らないって言ってたからよ。俺達と小人達とで一緒に作った布も持ってきたぜ!あと毛皮も俺達の小人達に鞣して貰って来たからな!』

「ええええっ!布まで作って来てくれたんですか!あ、ありがとうございますっ!それに毛皮も。小人さん達には、後でお礼を用意しますから、持って行って下さい!」


 ケットシーのシンクさんに頼んでいた布の入手は難航し、結局村では手に入れることは出来なかったのだ。村では食べるのが精いっぱいで、布はとても貴重品なのだそうだ。


 ……俺はこの世界に来てすぐにアーシュに連れてこられたから、一度もこの世界の人と接したこともないし、暮らしぶりも知らないけど、文明は中世ヨーロッパよりも貧しい時代なのだろうな。シンクさんがちらっと村の近くの街で戦いがあったとか言ってたから、あちこちで戦争もしているのかもしれない。


 そんな話をシンクさんから聞いて、この世界で人は生きにくいのだろう、と予測している。ある意味、俺はアーシュにすぐに発見されたから、今もこうしてのんきに生きていられたのだろう。


 だから、そんな貴重な布を手に入れるのは断念して、最近ではかなりキレイに解体できるようになってきたから、毛皮を鞣してくれる人はいないかドワーフ達に頼んでいたのだ。

 そうしたらドワーフ達の住んでいる洞窟の近くで、やはり手先が器用な精霊の小人達が暮らしていると聞いたので、十枚渡して一枚鞣した毛皮を貰う、という取引を頼んで貰っていたのだ。


 なんといったって毛皮だけは山ほどあるからな!脂肪を剥がして水で良く洗うまでは出来たけど、肝心の鞣しがな……。マジックバッグが無かったら、腐るから廃棄するしか無かったし。


 うろ覚えの知識を引っ張り出しても、何かの木の実だか何かを浸した液を使うことだけ思い出したが、それ以上は無理だったのだ。


 毛皮でなんとか凍えずにすむように、コートか何か作らないとなぁ。あと半月もすると、雪がちらついてもおかしくないってアーシュにも言われたし。


 雪が降る期間は、ここがフェニックスであるアーシュの守護地なだけにそれ程長くはなく、積もることもあまりないと聞いたが、それでもここが高い山の上には違いがない。


 ……確か俺が落ちて来たのは、春になる前だったよな。もうそろそろ一年、か。早いような、遅かったような。


 ドワーフ達がわいわいと作業するのを見ながら、ぼんやりと今までのことを思い出していたのだった。






****

一年、と考えるとアインス達が成長しましたねー……。その理由ももうちょっとお待ちください!


どうぞよろしくお願いします<(_ _)> 


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