第36話 皆で麦の収穫をしてみました

 麦の収穫の準備が終わり、家へ戻って寝ている子供達の姿をそっと見回す。

 何度見ても、子猫と子犬が毛玉になって寝ている姿は眼福だ。


 家の入り口のすぐ傍で寝ていたフェイが、俺の気配で目を開けたが、しーっと口に人差し指を持って行くと無言でそのまま目を閉じた。そのちょっとした動きで身じろぎしたセランが、すりっと隣のフェイのぬくもりを確認するようにすり寄ってそのまま寝息をたてるのが、とても愛おしい。


 そうしてクー・シーの傍で、お腹を仰向けにして脚をピクピク揺らしつつ、偶に尻尾をふりっと動かしつつ寝ているクオンの姿が目に入る。

 あまりの可愛さに、ついそっとそのもっふりとした尻尾をつついてしまったら、「ううーん」と寝言を言いつつコロンと寝がえりうち横に倒れてそのまま寝てしまった。


 くぅうううーーーーーーっ!か、可愛すぎないか、なあ、可愛すぎないかっ!もう、たまらないのだがっ!


 今すぐにでももふり倒したい!という欲望にぷるぷるする両手を抑えつつ、フルフル震えながら耐えていると背中にドライの冷たい視線が突き刺さった。


 うっ……。傍目から見たら、そりゃあ怪しいとは思うけど、でも、子供達が可愛いんだからしょうがないだろうっ!!


 ドライの冷たい視線に耐えかねて、そーっと入り口へ引き返すと、丁度広場へ入って来たシェロと目が合った。

 ゆっくりと階段を降り、広場の真ん中でシェロと挨拶を交わす。


「シェロ!もしかして、手伝いに来てくれたのか?」

『ええ。今日収穫すると、子供達に聞いたので。小麦は集落で作ったことがありませんので、参考になります』


 クー・シーの集落で食べられるのは、主に森の果物と芋、それに野草と少しの畑で作っている野菜だ。採食の精霊としては、小麦は気になるのかもしれない。


「小麦はなぁ。食べるまでが結構手間がかかるんだよ。でも、いつかはパンとか作りたくてな。芋もお腹にはたまるけど、いずれはパンかお米か食べたいからな」


 お米は元々地球でも自生していた植物だから、この世界にも似た作物はある筈だと思っているのだが、ケットシーのシンクに探すのを頼んであるけど、それ程様々な人と接している訳でもないし手がかりがないのだ。


 一応ドリアードに聞いたら、それっぽい植物はあるそうなんだけどな。ただ、ここいら一帯には自生していないみたいなんだよなぁ。


 さすがに近くに現物が無ければ、精霊に頼んでもどうにもならない。風に飛ぶような種で増えるなら無理してでもシルフに頼んでみてもいいが、稲は種籾が無ければ増えないからなぁ。


『そのパンという物は、確か小麦を粉にした物を加工して火で焼く、んでしたか?私達は火を使う習慣はありませんが、とりあえずどんな物か食べられる状態へ加工するのを見学させて貰います』

「ああ、俺も自分で粉にしたことがないから、手探りの作業だけどな!まあ、シェロが一緒だと心強いよ」


 そうして収穫の手順をシェロに話していると、子供達が皆起きてきた。

 ああ、シェロ達ケットシーの集落の人達にはキキリのことを紹介してあるよ。最初は跪いて顔を上げてくれなかったけど、今はなんとか慣れてくれている。

 まあ、俺の感覚が麻痺しているだけで、キキリは最古の古龍の子供だもんな。精霊達にとっては、崇める対象なのだ。



「じゃあ、小麦を刈って行くよ!根元から刈って、何本か束にして茎で縛ったのをここに並べてくれな!その後乾燥させてから、脱穀をして穂から実をとるんだ」


 皆の前で、とりあえずうろ覚えな記憶を頼りにやってみせてみる。今回は洗濯ものを干している物干し替わりの木の枝に束の真ん中から分けてかけて干すと完成だ。

 確かこのまま二週間くらい干してから脱穀するとテレビで見た時やってた気がするけど、今回は干し場もないし、三分の一はドライに乾燥を頼んでみるつもりだ。

 小麦の収穫について話した時に、乾燥なら火と風でできるからやれると言ってくれていたのだ。


 まあ、どうせ適切な実の水分量とか分からないしな!それにどのくらいが一番いいかの検証にもなるし、粉にしてみないと味に変化があるのかも分からないからな!


 粉にするには、石臼の構造を説明してこれもドワーフ達に作って貰っていた。石臼は田舎の実家の物置にあったから、なんとなく覚えていたのだ。

 石臼で全て粉にするのは重労働だから、全部一気には出来ない、って事情もあるけどな!


『『『『『はーいっ!』』』』


 念話と鳴き声、それぞれで応えてくれた子供達は、新しいことに目をキラキラと輝かせていた。

 ただ作業に参加できない、としょんぼりしているセランには、フェイと一緒に木の枝に干す時に他の子供達を背に乗せて貰えるか頼んでみた。


 いや、一応ダメだろうな、とは思ったんだよ?でも、何も参加できない、とセランが残念がるのは分かっていたし、風の魔法で刈り取るのもフェイなら出来そうだけどセランにはまだ無理そうだったからさ。

 そう思って小声で聞いてみたら、うれしそうにセランは「やる!」と言ってくれた。フェイもそんなセランを優しそうな目で見ると、しっかりと頷いてくれた。


 うん、本当に皆いい子達だよな!!


 それからは子供達が楽しそうに刈り取りを開始し、そんな子供達の声に寄って来たノームとスプライト達も手伝ってくれ、そしてシルフもそっと風で補助をしてくれた。俺とシェロ、それにドライで皆を補助しながらどんどん刈り取っては束にして干して行く。

 そのお陰で全部合わせるとそれなりの広さの畑の収穫は、夕方前には全て終わったのだった。

 因みにキキリもクオンも、皆と一緒に楽しそうに収穫をしていたぞ!ライも木の枝の干場で補助してくれたしな!



 ここからどうするのか、とキラキラと目を輝かせる子供達の前で、立つと三メートルくらいになったドライ達が座って皆の前で魔法を使ってくれることになった。


『じゃあ、危ないから手を出さずにそこで見ているんだよ?』

『『『『『はーい!』』』』』


 羽で身振り手振りで説明するドライに、子猫と子犬達、それに他の小さな子達も声を揃えて返事する姿がとってもかわいい。

 

 目の前に並べた小麦の束に向けて、ドライが「ピュイッ!」と鳴くと温かな風が吹きつけた。


 おおおおっ!火花とか火だけでなく、温風も出せるようになったのか!そ、それってとっても便利だよな!雨の日の洗濯物も乾かせるし……って、もしかして、泉で水遊びした子供達を乾かすのに元々覚えたのか?いつも乾かして貰っていたもんな!ドライはちょっと腹黒っぽいけど優しいよなー。


 遠巻きに囲むようにして並ぶ子供達に温風があたらないように火力を強めたのか、一気に小麦の色が変化して行く。


「うーん、もうそろそろ、かなぁ。確か茶色くなったくらいで良かったと思うんだよな」


 黄色だった茎が渇いて茶色になって来たところでドライに止めてもらう。触ると、乾燥しているがカピカピという程でもなく、丁度いい頃のように思える。


「よし、脱穀してみよう!」


 皆が見守る中、ドワーフ達に作って貰った脱穀用の板を立て掛け、下に布を引くとそこにしたから小麦の束を入れて引く。すると、少しずつ穂から実がぽろぽろとおちた。


『『『『『おおおおー。落ちたーー!』』』』』


 何回か繰り返すと、すっかり実が落ちた茎を横の地面へと置く。すると、子供達が一斉に「やりたい!」と言い出し、交代でやってみることになった。

 子猫と子犬達は一人では小麦の束は持てないので、大きな子と二、三人で組んで交代でやって貰う。そこにノームとスプライト達も手伝ってくれ、また皆でわいわいと作業を進めた。


 そうして親たちが迎えに来る頃には、木の枝に干されたたくさんの小麦の束と、実と茎に分かれた小麦の山ができあがったのだった。


 そしてその日はそこまでとなり、皆には粉にするのもやりたい!と言われて翌日にまた皆で作業をすることになり、俺とアインス達、それにキキリと今日はお泊りのクオンは楽しそうに帰る皆の姿を見送ったのだった。






****

クオンのお泊りまで書けませんでした……

次はもふもふ回かも?です。


どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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