第35話 神獣、幻獣の成長過程を知ってしまいました

『あー……、イツキ。神獣、幻獣はですね』


 そう、しぶしぶドライが説明してくれたことは、今までの俺の疑問が解消する答えだった。


 1 子供は親の能力を引き継いで生まれる。でも、生まれながらその能力を全て使える訳ではない。

 2 種族の主属性にかかわらず全ての属性の力に親和性があり、それを使いこなすことができれば成長する。つまり、能力を使いこなすことが出来なければ成長し成獣することは出来ない。

 3 そして成獣しなければ一族で神獣、幻獣とは認められず、真名を授かることもない。


 と、いう、神獣、幻獣という世界で頂点に近い種族なのに、超厳しい現実だった。

 だから、代替わりが必要なのに次代がいない、子供が成長しない、というのは、本当に重大な問題だったのだ。

 俺としては子供が育つのは当たり前で、しかも動物のことを考えると、一年で大人になる、なんて当然のことだと思っていたから、これを聞いて本当に驚いた。


 そりゃあ神獣、幻獣なんだし、普通の動物と一緒には出来ないだろうから、成長に何年もかかるのかもな、とは思っていたけど、それだって成長しない、成獣になれない、などとは考えたことなどなかったのだ。


「……な、なあ。聞いていいのかは分からないけど、答えられたらでいいから聞くな。成獣できなかった神獣、幻獣の子供はどうなるんだ?」


 アーシュも最初、成獣しなくて困っている、と言っていた。だから、アインス達には兄や姉にあたる存在が過去には何人もいた筈なのだ。


 あの時は自分のことで精いっぱいで、「ふうん」なんて流しちゃったんだよな……。考えてみたら、すぐに分かりそうなことだったのに。


『ああ、成獣になるのが無理だと判断されたら、守護地から出されますね。恐らく、周囲の山に棲み着くことになると思いますよ?』

「ああ、そうか。別に死ぬ訳じゃあないもんな……。フウ、良かった」

『まあ、それでも成獣しないと子供は遺せませんので、自分一人で終わりですけどね』


 ……安心したところに、またっ!!そ、そうか。成獣しないと子供は作れないのか。まあ、ようするに身体が未発達、ってことだから、考えれば当然、なのか?


「……なんか、そう聞くとやっぱりなんで俺にそんな大事な子供を預けるのか、分からないな。だって俺、何も特別なことはやってないよな?」

『まあ、普通の子育てとは違いますからね。能力を使う訓練は親としないと無理ですしね。ただ、やみくもに訓練だけを進めても、身に付かないんですよ』

「え?だって、ドライ達だって、飛行訓練を頑張ったからこうして成長したんだろう?」


 思い返してみれば、確かに飛行訓練をし出してから、どんどん大きくなって行っていた。俺は成長期か、とかしか思ってなかったんだけどな!


『子供は生まれて来る時に親の能力を引き継ぎますが、それだけなんです。魂の器があるなら、親の能力だけでいっぱいいっぱいなので、そこに自我の容量はないのです。そこから育つ上で、器を拡張して自我を成長させていかないと、能力と人格を供えた成獣にはなれないのですよ』


 は?魂?器?……ちょっと待ってくれ。人で考えてみると、生まれながらになんでもできる能力を持った子供がいる、とすると。……ああ、それだと一番大変なのが心の成長、ということになるのか?勉強が出来ても頭が良い、ということとは違う、ってヤツか?


「ま、まあ、なんとなく言っていることが分かるような分からないような?」

『ふふふ。イツキはそれでいいんですよ。何故かイツキと一緒にいると、自己主張というか、自分が出て来たので』

『そうだよなーー。なんか、俺達三人をイツキがしっかり区別しながら接してくれた時、自分のことを自覚したっていうかーー』

『そうそう。俺は、俺だな!って思ったもんな!』

「お、おおう。そうなのか?だって、雛の時だって最初から三人はそれぞれ違っていたぞ?」


 うん。確かに初日はなんとなくしか分からなかったけど、二日目にはきちんと区別ついたもんな。特にドライなんて、アインスとツヴァイとは全然反応が違ったからな!


『うん、そこだよ。イツキは皆ときちんと個別して向き合っているからな。それだけでいいんだよ』

「へ?それだけでいいのか?……んー、まあ、良く分からないけど。ドライがそれでいいっていうなら、それでいいのか?」

『ギャウーギャウ!』

『フフフ。キキリもそれでいい、って言ってますよ?キキリはイツキを一目見た時から、気に入ったそうですからね?』


 んーー?でも魂に関することなら、確かに自分は普通とは違うのだろうしな。実際になんで俺がこうしてこの世界にいるのかも分かってないし。まあ、そんなもんか。今、いくら考えたって分かる訳ないもんな!


「分かったよ。俺は、じゃあ、皆をこれまで通りに可愛がればいいってことだな!」


 もふもふするのは得意だからな!



 そうして朝食が終わり、今日の午後の麦の収穫について打ち合わせをしていると、タタタッという軽い足音ともに近づいて来たクオンが飛びついて来た。


『キャウッ!き、今日、お泊り!』

「おお、今日はクオンは泊まって行くのか。ちゃんとお母さんに許可は貰ったのか?」

『キャンッ!』


 うれしそうにブンブン尻尾を振っているクオンに、目線を離れたところにいる母親の九尾の狐の方へ向けると、コクリと頷いた。


「分かりました。では、今日はお子さんをお預かりしますね。明日の夕方に迎えに来て下さい」


 そうしっかりと目線を合わせて言うと、一言鳴いて聖地の方へと優雅に九本の尻尾を振って去って行った。


「よーし、よし、クオン。今日は昼寝したら皆で畑の麦を収穫するからなぁ。手伝い、頼んだぞ?」

『クゥンッ!が、がんばる!』


 最近少しずつ片言で話し出したクオンを抱きしめて、思いっきり頭と身体をもふもふすると、キャッキャと楽しそうに笑った。


 うん、こうしていることが、この子の成長に繋がるなら、いくらでももふもふして可愛がるぞ!


 そうこうしている内に子供達が揃い、いつものように聖地で日課をこなした。

 家に戻って子供達が昼寝をしている内に、小麦を脱穀する為に作った木に杭を立てた板を用意する。これは稲の脱穀機を思い出して、鍋を持って来てくらたドワーフ達に頼んで作って貰った物だ。


 麦は稲と違って食べるまでの工程が多くて大変なんだよな……。でも、これも俺が穀物を食べる為だ!頑張るぞ!


 昼寝から目覚めた子供達とわいわい騒ぎながら小麦を収穫する様子を思い描き、三日に一度魔法を掛けて早く成長させた、黄金色の小麦畑を見回したのだった。







****

また収穫まで行きませんでした……。(長くなりそうなので、ここで切ります)

一応ちょこちょこ出てましたが、神獣、幻獣の成長に関することを纏めました。

何故イツキ?というのはもうちょっと話が進むのをお待ち下さいね!

どうぞよろしくお願いします!


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