第32話 ついにとんでもない子が来たようです
「あーあ。とうとう行っちゃったなぁ。初日くらい、見守りたかったけど、子供達のことがあるからなぁ」
今日はとうとうアインス達が崖へ移動しての飛行訓練の初日だ。
先ほどアーシュが迎えに来て、目をキラキラと輝かせたアインス達は、意気揚々と飛んで崖へと移動して行った。
今までは一緒に聖地へ行かない日も、空を見上げればアインス達が飛んでいるところを見られたが、今日からはそれも見られないと思うと、寂しくなってしまった。
アインス達は順調に育ったからなぁ……。地上から飛べるようになった頃から更に体がシュッとして来たし、今では大きさはまだ半分程だが姿はアーシュとそっくりの体型になったしな。
あのぷっくらした雛の姿がなつかしい……。もっと育つのが遅いと思っていたのに、案外早かったなぁ。
巣立ちを思ってしんみりしてしまうが、当然今日は夕方前には三人とも戻ってくるし、飛行訓練もまだしばらく続くのだが。
思わずいつものように飛びついて来たクオンをギュギュっと抱きしめて首筋に鼻を埋めて思いっきり吸い込んでしまった。うん、おひさまのやさしい匂いがしました!
そうしていつものように子供達と聖地へ向けて歩いていると。
『おお、いたな!約束通り、子を作って大急ぎで孵化させてきたぞ!ホレ、我が子だ。かわいいじゃろ』
ゴオォーというもの凄い轟音と共に近づき、ドスンと着地したのはあの日のドラゴンだった。
キラキラと陽ざしに輝くプラチナの鱗が眩しい。
それまで楽しそうにはしゃいでいた子供達も、一歩下がって恐々とドラゴンを見上げている。
ああ、いや、子供の中でも大きな子供達は座り込んで……あれはひれ伏しているのか?まあ、相手は神獣の中でも特別っぽいしな。俺もひれ伏したい、というか、会いたくなかったんだが!いくら友好的でも、迫力だけで気絶しそうだしな!
「え……あ……あの、子供、ですか?」
ええーーーー……。アーシュにも代替わりも必要ないと言われた程のドラゴンなんだろ?その子供って、どれだけ貴重な子供なんだ?そうんなの預かって、本当に大丈夫なのか、俺。
キョロキョロとドラゴンの周囲を見回したが、その子供の姿は見えない。どこに……?と思っていると、ズシっといきなり頭に重さと衝撃が来た。
「うわぁっ!な、何が……!」
『おお、我が子よ。そなたも気に入ったか。それは良かった。そなたを急いで産んだ甲斐があったぞ』
いやいやいや。なんで俺に面倒をみさせるのが産み甲斐になるんだよ!もう、わけわかんねぇって!!
『ギュ、ギュウッ!!ギャウゥ!』
『ふむふむ。そこが居心地がいい、と。よし、では気が済むまでそなた、確か名前はイツキと言ったか?我もたまに我が子の顔を見に来るから、世話を頼むぞ』
「へ?え、ええええぇえっ!毎日連れて来るんじゃないんですかっ!他の子は、皆夜は家族と過ごしますよ!」
ドラゴンの鳴き声は想像通りだったな、なんてこんな状況でも一瞬逃避していたら、とんでもないことを言われていた。
慌てて遠慮している場合じゃない!と声を上げると、当の本人のドラゴンの子供は俺の頭の上で「ギャウギャウ」と大はしゃぎしている。
『ん?我ら古龍は、時間の感覚がないからな。時はいくらでもあるし、一度寝ると一月寝ていることもざらだぞ!今回は早くそなたに我が子を預けようとずっと寝ていなかったから、戻って寝たら何か月か寝ているかもしらんな』
「は、はあ!そ、そんな、こんな子供を俺なんかにずっと預けるなんて、それで大丈夫なんですか!」
頭の上に恐らく顔、頭の後ろにポコンとしたお腹。そして肩の上に後ろ脚が乗っている。だから恐らく体長は三十センチ程だろう。そんな生まれたばかりの子ドラゴンを預かって、俺はどう世話したらいいっていうんだ!
『ああ、大丈夫だ。竜の子は強い。最初の半月は我が魔力が必要だが、後は肉を食べていれば放っておいても育つ。それにここは聖地だ。尚更心配なぞいらん。何かあったらフェニックスに言えば、我を呼びに来るだろう』
え、ええええーーーーっ!こ、これってもしかして、一種の育児放棄、とか言わないよなっ!
そんなことを心の中で叫んでいたのが顔に出たのか。
『フム。まあ、そこまで心配なら、五日後に顔を出そう。長く寝るのはそなたが安心するまで我慢しよう』
と、恐らく譲歩してくれたのだろうが、なんだかそれも違う気がするんだけどっ!
ど、どうしたらいいんだ……、と一人頭の中が真っ白になってワタワタしていたら、羽音と共にアーシュが来てくれた。
『なんだ、やっぱりお前か。本当に急いで子供を作ったのか』
『そうだ。我は冗談は言わんぞ。ほれ、我が子はかわいいだろう?このまま預けてしばらく寝るかと思ったんだが、イツキが心配するでな。とりあえず五日後に様子を見に来るが、まあ、何かあったらそなた、我の寝床に起こしに来てくれ』
『お前な……。無理に子供なぞ作る必要はなかったではないか』
そう、そうだよなっ!なんでそこまで俺にこだわるんだよ!
『いや、イツキは面白い魂をしているし、今のこの世界には必要だろうと思ったからな。それに精霊樹のことまでとなったら、我が子は護衛にいいだろう?』
『ハア……。まあ、俺の子供達は、俺の後継になる為の修行もあるから、確かにずっと一緒という訳にはいかんからな。フン。まあ、いい。イツキには俺が言っておく』
って、ええええっ!そんな、決定なのか?俺の護衛?俺に護衛なんていらないだろうっ!ましてやドラゴンだぞ?し、しかも聞き間違いじゃなければ古龍って言ってたよな。最上位のドラゴンの子供を俺の護衛の為に産んだとか、何がなにやら……。
もう理解のキャパシティーを越えて、ただ茫然と立ち尽くす俺の頭上では、自分のことを言われているのに子ドラゴンは楽しそうに鳴きながら、腕の中にいるクオンと挨拶などのんきにしていたのだった。
****
まだ子供の顔も出てないですがここで。
本当はもうちょっと早く登場させるつもりだったんですが、もふもふではなく鱗?の子登場です!
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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