第30話 どんどん増えているようです
毎日聖地に通い、世界樹に魔力を注ぐ日課をこなして早三か月。アーシュによるアインス達の飛行訓練も、そろそろ崖へと移動となる。
広場の訓練では、最初は畑の手前までの横断しか出来なかった滑空は、半月後には羽を傾けてカーブしてぐるっと一周できるようになり、一月後には右に左に自由に進路をとれるようになっていた。
その後は地面から飛ぶ練習が始まり、これにはさすがに三人も少し手間取っていた。アインス達は身体が大きいから、風を上手く捕まえて飛び立たないと、ただのジャンプになってしまうのだ。
ただこの訓練も一月後には出来るようになり、飛ぶ距離も少しずつ伸ばしていた。そこで来週からは崖へ移動し、より上空を長い距離を飛ぶ訓練となるようだ。
他には、ユニコーンの子のセランの後に、一週間後にサンダーバードの子供のライが、その更に二週間後にペガサスの子供のフェイが、そして一月前にはー……。
『キュアーンッ!キュキュッ!!』
「おはよう!今日も元気だな、クオンは。ほら、ここかなー?それともここかーー?」
『アンッ!キュキュンッ!!クーーーン』
連れて来た親の元から一目散に駆け寄り、俺に飛びついて抱っこをねだったのは、九尾の狐の長の子のクオンだ!!
子供だから尻尾はまだ一本だが、すっごくもっふもふだし、毛並みもふかふかなもふもふなのだ!
そのクオンを抱きしめ、耳の後ろや頭、そして首の下を撫でまわす。すると甘えるように頭をすり寄せて来た。もう、かわいくてメロメロだったりする。
当然九尾の狐が正式なこの世界の神獣名ではない。ただ言語の自動変換で、俺が九尾の狐だと思っているからかそう変換されているようだ。当然俺も九尾の狐と親御さんを呼んでいるが、恐らく向こうも聞こえているのは九尾の狐ではなく、この世界での紹介された種族名になっているのだと思う。だから正式な種族名は俺は知らなかったりする。
まあ、俺としてはありがたいけどな!長いカタカナの種族名を全て覚えろ、と言われても無理なのは目に見えているし、かといって神獣や幻獣の種族名を間違って発言するのも……だしな!
クオンが一番甘えん坊だが、ライも生まれたばかりで鳩程の大きさだけど、俺の肩に乗るのが大好きだし、フェイは恐らくアインス達と同じくらいの年齢だからか落ち着いているが、自分より小さな同じ馬型のセランをそっと鼻でつついたり舐めたりする姿はとてもかわいらしい。
フェイはアーシュに集められたペガサスの長の子ではなくやはり一族の子で、あの時には生まれていたのだろうけど、預けるのは様子を見ていたっぽい。
まあ、親からしたら不安だよな。いきなり出て来た人に大事な我が子を預ける、だなんて。
実際に俺はこうしてたくさんの子供達を預かっているが、していることは抱っこしたりもふもふしたり、一緒に遊んだりもふもふしたり(大事なとこなので二回言いました!)しているだけだしな!毎日聖地に行っているから水遊びもしているけど、子供達を見てくれているのはウィンディーネ達だったりするし。
それでも何がいいのか、こうして子供が出来るとすぐに預けに来てくれたりしていて、どんどん子供の数は増えている。
サンダーバードのライは、生後なんと一週間くらいでここに来た。ライは同じ鳥型のアインス達もいるからか、最初から『ピィピィ』可愛く鳴いてはアインス達に寄って行っていた。その鳴き声を聞くとアインス達の雛の頃を思い出して微笑ましい。
『おーい、イツキーーー!聖地に行かないのかーーー?行かないなら俺達、飛んで行っちゃうぞーーー?』
「おー、アインス!行くよ、行くー。もう皆揃ったしな。さあ、皆!今日も聖地へ行くぞー!」
アインス達のアーシュによる訓練は三日に一度なので、訓練のない日は聖地まで子供達を連れて一緒に行ってくれているのだ。聖地へ着いたら飛行訓練だ!とあちこち飛び回っているけどな!
ドライに構って貰っていたライを肩に乗せ、まだ甘えているクオンを腕に、のんびり皆で聖地の泉を目指して歩いて行く。ライも滑空は出来るようになったが、まだ自由に飛び回れないのだ。
『イツキ、パチャパチャ!!』『キュ……水、泳ぐ!』
「お、ロトムは今日は泳ぐ練習をしたいのか?じゃあ、俺の日課が終わったら、一緒に泳ごうな!」
この三か月でロトムは小さめの大型犬くらいの大きさに成長し、言葉も少しずつ話せるようになって来た。もう抱っこするには厳しくて、ちょっと寂しい。オルトロスに聞いたところ、成長はかなり早いと喜んでいたから順調なのだろう。
『セラも!セラ、も、フェイと、泳ぐ!』
「おー、セランも泳ぐのか。フェイ、飛行訓練もしたいだろうけど、セランのことお願いな!」
『はい。では、セランと今日は泳ぎましょう』
フェイもペガサスの子供なだけあって、背中には大きな羽がある。因みにペガサスというと白毛のイメージだが、この世界では様々な色がいる。最初に挨拶したペガサスの長は白く輝く毛並みだったが、フェイは灰色っぽい銀の毛並みだ。羽は濃い色から白銀へとグラデーションになっていて、大きさはサラブレッドより一回り小さいくらいなのでとても美しい。
セランも最初は俺の腿までしか無かったのに、今では胸元まである。大きくなるのは早いな!
ケットシーやクー・シーの子供達も小さな子猫や子犬だったのに、今では普通の猫サイズに成長した。まあ、子供が生まれて新たに預けられた子もいるから、子猫と子犬もいるんだけどな!
因みにサンダーバードのライは朱金で、お腹が薄い黄色の羽毛で、九尾の狐のクオンは薄い金色で大きさは猫くらいだ。
皆で和気あいあいと歩き、泉に到着するとフェイとサシャに子供達を任せ、俺はいつものように世界樹へと向かう。
『一緒、行く!』
「お、セランも行くか?じゃあ、一緒に行こう!」
泉をぐるっと周り世界樹の根元に着くと、いつものように根に手を添えて目を閉じる。
そういえば、最近涼しくなって来たよな。暑くなって来たと思ったら、あっという間に秋っぽくなって。日本のように蒸し暑くならなかったから、暑くても過ごしやすかったから良かった。でも、もっと寒くなったら、水遊びも出来なくなるかもしれないなー。世界樹の泉に氷は張らないだろうから、スケートって訳にもいかないし。皆の遊びを考えておかなきゃな。
寒くなったら世界樹は紅葉するのかな、なんて思ったからだろうか、いつも思い描くのは光合成する青々とした緑の葉っぱなのに、黄色や紅に染まった紅葉した葉っぱをイメージしてしまった。
『んー?なんか、いつもと、違う』
「へ?」
セランの言葉に閉じていた目を開けると、いつもキラキラと輝いている光が、今日は赤く煌めいていた。
「おお。紅葉をイメージしたからかな?……大丈夫だよな、これ。アーシュに文句を言われる前に、明日来たら聞いてみるか?」
『いつもと、違うけど、キラキラキレイだよ!』
「おお、セラン。ありがとうな。セランは俺のこの日課を見るの、好きだもんな」
『うん!イツキ、魔力、好き!あったかい!』
んん?俺の魔力をセランが温かく感じて好き、ってことかな?……最初より魔力は増えたと思うけど、今だに魔力のことは分からないからな。まあ、好き、って言ってくれているからいいか。
「ありがとう。じゃあ、セラン、戻ろうか。フェイに泳ぎを教えて貰うんだろう?」
『うん!フェイと、泳ぐ!』
キャッキャと楽しそうに跳ねだしたセランを微笑みつつ見守り、のんびりと皆の元へと戻ったのだった。
****
単調になりそうだったので、時間を飛ばして纏めました。
イツキはなつかれているので、子狐だし尻尾もこっそりもふもふしていたりします。う、羨ましい!(キー!)
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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