第28話 のんびり皆で水遊びをしてみました

『ヒン?』

「ん?セラン、どうしたの?ああ、水に入るのが怖いかな?ほら、この水を飲んでごらん?世界樹から注がれる水が泉となっているから、とても凄い水なんだよ。それにウィンディーネ達がいるから、ここでは溺れないよ」




 世界樹へ力を注いだユニコーンが戻ると、目を輝かせたセランに顔を舐めまわされた。

 ヒンヒンとちょっとした興奮状態だったから、ドライに通訳できないか聞いてみると。


『うん……うん、そうか。イツキ、セランはイツキが世界樹へ使った魔法がとてもすごかったって。キレイだったって言っているみたいだよ』

「ええ?ユニコーンじゃなく、俺か?ユニコーンの方がキレイだっただろう?」


 座る俺に圧し掛かるように顔を舐めるセランにそうなんとか伝えると、「ヒヒン!」と首を振ってまた舐められた。

 ドライに目を向けると。


『んー、ユニコーンのとは違う、ってさ。僕も、魔力の質がイツキとユニコーンは違うと思ったけど、セランが何を感じたかは分からないな』


 んー?まあ、ユニコーンのは白銀の光だったし、そういえばユニコーンにも違うものだって言われたもんな。何が違うんだ?魔法の質か?……まあ、いいか。とりあえず毎日日課にしろ、と言われるだけの何かがあるんだろう。俺にはさっぱり分からないけどな!



 そうしたやり取りの後で泉にいったが、短時間の間にすっかりセランには懐かれたぞ。子供特有の柔らかそうな毛並みをそっと撫でたが、アインス達の雛の時とはまた違ったふわっふわな産毛のような感触だったぞ!たまらず頬ずりしてしまった。


「なら、一緒に入るか?俺も水浴びしたいしな」

『ヒン!』


 最初は恐れ多いと思っていたのだが、子供達が楽しそうに遊ぶ姿や、ウィンディーネ達が泉の水を常にキレイに維持していると聞いて、思い切って入ってみたのだ。

 そうしたら、普通の水とは違ってさっぱりとした清涼感があって、とても気持ち良かった。なので、風呂は造って貰ったが、水を大量に汲むのは大変だから、アインス達に温めて貰ったお湯をかぶって身体を洗うくらいしか今は使っていない。その分ここで水浴びをしている。


 服を脱いで下着姿になると、岸で待っていたセランと一緒にゆっくりと泉の中に入る。

 最初は水に入るのを少し怖がっていたセランも、泉の水を飲ませて少しずつ入ると、気持ちよさそうにピチャピチャ遊びだした。


『クウ!』『キャウウ!』

「お、ロトム、お前も水の中に入りたいのか?どれ、一人じゃまだ危ないからな。支えるからバチャバチャするか?」


 ロトムは身体は大きくはなってきたが、双頭だからかバランスがとりずらいのか転ぶことも多い。抱っこして体を支えて水の中へと浸けると、楽しそうにバチャバチャやり出した。

 その後は子猫や子犬たちも加わり、岸部の脚がつく浅瀬でバチャバチャしながら走っていたぞ。


『よーーーーーし!いっくぞーーーーー!』


 アインスの声に顔を上げると、岩から飛んだアインスが羽を動かし、羽ばたきながら滑空して来た。

 以前から少しの高さから滑空はしていたが、その姿は身体も引き締まり、もう雛の面影はあまりない。


『次は俺だーーーーっ!!危ないからどいてろよっ!!』


 思わず雛の頃を思い出し、その成長に浸っていると、今度はドライが飛んで来た。羽の動かし方が、アインスよりも力強い。ただその分風に乗る、というより力業でアインスよりも少し手前に着水していた。


 バシャーーーンッ!!という凄い水しぶきと共にツヴァイが着水すると、ウィンディーネ達が楽しそうに水から跳ねながら手を叩いて喜んでいる。


『アインス、ツヴァイ!さっさとどいて!どかないと僕が飛べないでしょ!』


 そこにドライの声が響き、水の中でバチャバチャ戯れていたアインスとツヴァイがこちらの方へと泳いで来る。

 そう、なぜかアインス達は泳げたのだ。フェニックス、火の鳥なのに。最初に見た時に驚いて聞いてみたが、別に水が苦手な訳じゃないし、仲がいいシルフ達にも風で押して貰って進んでいるようだ。

 まあ深い泉じゃないから、アインス達は中心じゃなければ立てるんだけどな!


 また再度頭上を過る影に見上げると、優美に空を飛ぶドライの姿があった。ツヴァイのように羽を動かすことなく、しっかりと足を上げて風に乗っている。羽を動かすのは、高度を落とし過ぎないようにだろうか。

 ドライはアインス達よりも遠く、向こう岸に近い場所で着水した。


「ああ……。子供の成長はやっぱり早いなぁ。アインス達も、もうそれ程かからず飛べるようになるんだろうな」


 そう思うと、ちょっとだけ寂しく、しんみりとしてしまった。

 それから俺も少しだけ泳いで気晴らしをし、何度も滑空して疲れたアインス達が気が済むと泉からあがって一休みするとここで昼食を食べることにした。

 いつもは家に戻ってから食べ、その後皆を家で昼寝させるのだが、今日はユニコーンとのやり取りで少しだけ遅くなってしまった。

 それにアインス達がいつもよりも頑張って訓練していたので、その分遅れたのもある。


 子供達の昼食はまとめて朝預かってマジックバッグに入れてあるから、それぞれに手渡しで渡していく。

 ケットシーとクー・シーの子供達には果物を、ロトムにはアーシュ達と同じように焼肉だ。


 最初は生肉だったんだけど、アーシュ達が俺が焼いた肉を食べているから食べたがり、一度焼いて食べさせたらロトムも焼肉を食べるようになっていた。

 セランは別れ際にユニコーンに確認すると、この聖地の草でいいと言われたので、セランにここの草を食べられるか聞いてみると、泉の岸に生えていた草を美味しそうに食べ始めた。


 アーシュ達にも焼いて入れておいた焼肉を出すと、疲れたのかいつも以上にバクバクと食べだした。

 マジックバッグは状態維持の魔法が掛かっているから、焼いた時に入れておけば、取り出しても温かいままだ。


 ここまでの歩きと水遊びで疲れた子供達は、ぱくぱくと凄い勢いで食べると、その場でうつらうつらし出した。それをドライに手伝って貰いつつ岩の陰へと移動してそっと横たえると、ケットシーの子供達もクー・シーの子供達ももぞもぞと動いて寄り添うと、すーすーと寝息をたてだす。


 このもふもふの毛玉状態で寝ている姿が、もうかわいくてたまらないよなっ!あああ、ケットシーの子供のお腹に顔を埋めたい!……まあ、さすがにそこまではしていないけどなっ!


 その様子を見ていたアインス達も、いつの間にか寄り添って居眠りをしていた。まあ、今日は訓練を頑張ってたからな。


 先ほどのはしゃぎようが嘘のように静かになった湖畔を、シルフ達がそっとそよ風を送り、スプライトやノーム達も顔を出して見守っている。


 顔を上げると空まで届くかのような雄大な世界樹が目に入り、空を仰ぐとかすかに世界樹の葉が空へと広がっているのが見えた。


 ああ……。本当に、夢のようだよな。死んだ筈の俺が、こんな場所でのんびり世界樹を見上げているなんて。しかもフェニックスの子供や、オルトロス、それにユニコーンやケットシーにクー・シーの子供達も一緒なんだぜ?精霊達も気さくに色々手伝ってくれるしな。


 燦燦と陽光が降り注ぐ空を見上げ、少しだけ実家のことを思い出して郷愁の念を抱いていたのだった。





****

夕方Twitterで書籍名などを告知しました。もふもふの幼女主人公な話ですので、よろしくお願いします<(_ _)>

(書籍の詳細は今月末になります)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る