第27話 新しい子供が来たようです

 聖地へ行き、世界樹への魔法が日課となってから更に半月後。すっかり雨期は明け、毎日晴天が続いている。


「今日そろそろ残りの畑に種を蒔こうかな。腐葉土も土に馴染んだ頃だろうし。午後から種蒔きするかぁ!」


 毎日聖地の世界樹へ行くので、子供達も水遊びが日課となった以外は、三日に一度小麦畑に魔法を使うだけで変わらない日々を送っていた。

 ただこの半月の間に、アインス達は大分羽ばたきを訓練するようになり、アーシュからも今朝、明後日からは高い場所からの滑空の訓練をする、と言われていた。それからツヴァイはずっと興奮しっぱなしだ。


『イツキ、皆来たけど、聖地に行かないの?』

「ああ、そうだな。じゃあ聖地へ行くか!皆ー!聖地へ行くぞーー!」


 この半月でクー・シーの子供にまじってかなりしっかり歩くようになって来たロトムを抱き上げ、寄って来たサシャと一緒に花畑を歩いて行く。

 サシャはあれから、花畑を歩きながら元気のない花がないか見て歩いている。そして見つけると俺に言いに来るので、元気になるように魔法を掛けている。

 だからか、この半月で緑の魔法をかなりスムーズに発動できるようになった。


『おらおら行くぞーー!泉の岩場が俺を待っているぜ!』

『わははははーーー!行くよーーーー!』


 いつもは子供達をきちんと面倒見てくれているのに、アインスもツヴァイも、今日は浮かれて歩くスピードが速い。

 泉の近くに大きな岩があり、そこから羽ばたいて滑空し泉へ着水、が最近の訓練だ。泉へ着水するので着地の心配はないから、思い切って羽ばたけるので、三人とも夢中になっているのだ。


「こーら!アインス、ツヴァイも落ち着けって!俺が世界樹への日課が終わるまでは、皆のことを見ていてくれよ!俺の日課が終わったら、羽を傷めない程度に訓練してていいから!」

『『おう!分かったー!』』


 俺の声に、走り出していたアインスも戻って来て、やっといつものようにケットシーとクー・シーの子供達を連れて一緒に歩き出した。



『お、こちらへ来ていたのですか。でも、丁度良かったです。この間伝えた通り、あれからすぐに一族の子が生まれましたので、連れて来ました。この子の子守りもお願いします』


 丁度もう少しで泉へと到着する、という時だった。先に気づいた隣のドライが止まり、それに気づいた俺が止まって見たのは。

 あの日見た、白銀に輝く優美なフォルムの体に額に長く美しい角、幻獣ユニコーンの姿だった。そしてその足元に、生まれて歩き出したばかりと思われる小さな子供のユニコーンがいる。


 まだ小さすぎるからか真っ白な身体に、小さな角、そしてくりっとした碧い目がきょどきょどと落ち着きなく辺りを見回していた。


 ふ、ふおおおおぉおおおっ!ユニコーンの子供っ!め、めっちゃかわいいんですけどっ!なんというつぶらな瞳!


 おもわずわなわなと震えながらじーっと見つめてしまった。


『イツキ……。もうユニコーンの子供に夢中なのは分かるけど、とりあえず返事をしないと』

「あっ!ああ、ええと、その。……あの、俺、子守りといっても何が出来るか分からないし、それに、こんな小さな子を昼間の間とはいえ預けるのは、親御さんは心良く了承しているのでしょうか?」


 この子は、この恐らくユニコーンの長の子ではなく、一族の子、といった。だからこの子の両親と俺は、一度も面識もない。そんな俺に、こんな小さな、一族にとっても大事な子を預けるというのは、内心快く思っていないのではないか、と思うのだが。


『ああ、私がきちんと、誠意をもって説得しました。これまで幾人もの子供が生まれましたが、最近ではほとんど成獣することがない現状をこれ以上続ける訳にはいかないのです。あなたはただ、他の子と同じようにこの子を見守ってくれるだけでいいのです』


 どうしてそんなに俺にこだわるのかは、さっぱり分からないけれど、確かにアインス達はすくすくと育ってくれている。

 まあ、それが俺がいたからだ、なんて思わないけどさ。でも、ここにはたくさんの子供達が集まって来るから、子供同士で一緒に過ごすのは、確かにいい事だと思うんだよな。


 ここに連れて来られて、最初はかなりとまどっていたケットシーとクー・シーの子供達も、今では元気に聖地を駆け回っている。子供達皆で笑って喧嘩して、そして競い合うことは、心の成長にもなっているだろう。

 シンクさんにも確認したら、子供達の発育はとてもいいと言われたしな。


「……分かりました。では、この子が嫌がらなければ、預かりますね。この子の呼び名はありますか?」

『はい。私が両親から説明して預かって来ました。セランです』

「セラン……」


 ゆっくりとセランの元へと進み、手前でしゃがんで目線を合わせる。そしてそっと手を差し出した。

 キョトンとその手を見つめたセランは、そっと鼻をよせ、スンスンと匂いを噛んでからそっとすり寄ってくれた。


「セラン、どうかな?今日から昼間は俺達と一緒にここで過ごして大丈夫かな?ああ、この子はオルトロスの子供のロトムだよ。ここで一番小さい子だったんだけど、これからはセランのが一番小さい子になるのかな」


 腕の中で大人しくじっとセランを見つめていたロトムに気づいたセランが、くりっとした瞳で見つめ合う。


『クォ!』『キュ?』

『ヒン?』


 小首を傾げた後は、一声鳴くと、そっとお互い顔を寄せ合って匂いを嗅ぎ合った後は、ペロリとお互いの顔を舐め合った。

 俺はその間息を潜めて見つめていたぞ!顔を舐めあった時など、何故か涙が溢れそうになってしまった。


『ふふふ。セランも大丈夫そうですね。セラン、日暮れには迎えに来ますから、それまで皆と仲良く過ごすのです』

『ヒン!』


 パタパタと振られたユニコーンの尻尾がセランのまだ小さな尻尾と少しだけ絡み、そしてセランはこちらへと一歩を踏み出し、俺の隣へと並んだ。


『そういえば、今、世界樹へ魔法を掛けるのを日課にしているのでしたか?』

「そうです。アーシュに言われてから、毎日の日課にしています。今から丁度いくところなんです。その間子供達は水辺で遊んでいますが、アインスとツヴァイ、それに精霊達が見ていてくれていますから、危ないことはないですよ」


 今では泉のウィンディーネ達も、俺達が行くのを毎日心待ちにしていてくれているのだ。


『……では、せっかくなので私も一緒に行きましょう』

「え、ええっ!あ、あの。魔法を掛ける、といっても俺の魔力はたいしたことはないので、あまり期待しないで下さいね」




 そうして皆にセランを紹介し、お互い自己紹介をしてから再び世界樹へ向かった。


「ええと、では始めますね」


 いつものようにドライ、それにロトム、そして今回はユニコーンにセランが見守る中、世界樹の根に手を振れて魔力を注ぐ。

 ただ緊張していたからか、イメージに集中するのにいつもよりも時間が掛かってしまった。


『ほう……。確かにあなた、イツキはこの地に来るべくして来たのかもしれませんね。良い物を見させていただきました。では、私からも祝福を送りましょう』


 俺の魔法が終わると、世界樹の幹を通る水がうっすらとキラキラと輝くのを見つめていたユニコーンがそう言った後、俺の隣へ進んで世界樹の根へと頭を下げて角を当てた。


『世界への守護への感謝と、守護の誓いを……』


 その声と同時に、角から白銀の光が世界樹へと流れ込む。

 キラキラと輝きながら幹を伝い、上へと登って行く光をじっと見ほれつつ見送った。


「……フウ。凄いですね!やっぱり俺の魔法は、全く効果なんてないように思うのですが」


 そう、今の光に比べたら、俺の光なんて全然たいしたことがない。


『フフフ。貴方と私では、世界樹へ与える質が違うのですよ。とりあえず理解できなくてもいいですが、日課をこれからも続けて下さいね』

「ああ、勿論だよ。俺が出来るのは、子守りとこれくらいだからな!これでお返しになるのなら、いくらでも毎日来るよ。それにここへ来ると、とってもすがすがしい心地がするしな!」


 毎日魔力を注ぐたびに、俺の身体を清涼な何かが通り過ぎて行くのだ。それがとてもすがすがしく、神聖な感じがして、いつも役得だなと思ったりもする。


 恐らく世界樹の力の一部なんだろうけどな。凡人の俺は、ただ感じるがままに受け入れるだけで精一杯なのだ。


 そうしてユニコーンは自分の守護地へと戻って行き、俺達はいつものように泉で水遊びに興じたのだった。




****

蒸し暑くて休日でもぐったりでした。そういえばいつも毎日投稿しているのは冬だな、と気づいて自分の夏の弱さを思い出したり。できるだけ頑張って毎日投稿します!(たまに抜けると思いますが)


あと、ここで一足先に宣伝です。他社ですが、来月に一冊書籍が出ます。(改稿作業が無事に終わりました!)

アマゾンで予約がもう始まっていたので、明日Twitterで書籍名を告知しますので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>(詳細は後日になりますが)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る