第26話 日課が課せられたようです?

 結局休んで魔力を回復させつつ、夕方までに種を蒔いた小麦畑を全て発芽させた。この結果に一番驚いたのは、勿論当の本人である俺だったのは間違いない。



 翌日の朝、獲物を届けに来たアーシュが前日には無かった小麦畑を見て質問して来た。


「なんか俺は緑の魔法の適性があったみたいなんだよ。ノームも良く協力してくれるし、土にも親和性があるみたいだから、こういう畑とか農業に向いているみたいだ。まあ、結局攻撃魔法はさっぱりだったってことだな!」

『ほほう。では、この畑を一日で発芽させたのはイツキなのか。まあ、スプライトとノームたちの協力もあっただろうが……。ふむ。お前は、来るべくしてこの地に来たのかもしれんな』

「はあ?どういうことだよ」


 来るべくして、って、俺が日本で死んだのは列車事故に乗り合わせたからだし、ここにイツキとしているのは、何故か魂のまま転がり落ちて来たからだし。これが俺の運命っていうのはさすがに無理があるんじゃないか?


『……お前に子守り以外に役目、いや日課だな。日課を課そう。毎日聖地まで行き、世界樹の根元でその力を使うんだ』

「はあ?世界樹はもうあれだけ巨大な木だろ?俺の魔法なんて、意味ないんじゃないのか?」


 あれ以上育つのかもしれないけど、俺が魔法を使ったからといって、なんの足しにもならないだろう。


『いいからやれ。毎日だぞ。ああ、発芽させるイメージじゃなくて、枝を伸ばして葉が茂るイメージだ』


 ふむ。根から水分を吸って、葉っぱで光合成することをイメージすればいいのか?枝の伸び方なんて知らないし。まあ、毎日畑にこの魔法を使うのは止めた方がいいとシェロ達にも言われているし、他に魔法を使うこともほとんどないから別にいいか。


「分かったよ。じゃあ、今日から子守りがてら皆で世界樹まで散歩して、魔法を使ってみるよ。結果が出なくても、何も言うなよ?俺くらいの魔力じゃ、一年毎日やったってほとんど影響なんて出ないと思うからな?」

『ああ、それでいい。きちんと毎日、だぞ?そうだな。その褒美は、お前が望んだ時に、一度だけ人の住む場所へ乗せて連れて行ってやる。ああ、当然連れて戻るからな』


 お、おおおおおっ!何度も考えたけど、この世界の常識を知らないと何があるか分からないから一度も言い出さなかったが、ケットシーやオルトロスの話を聞いて学べば、いつかはこの世界の人とも交流できるかもしれないよな!


「分かった。まあ、連れて行って貰うにしても当分先のことになりそうだけど、その時はお願いするよ。そろそろ雨期も終わりだし、頑張って毎日世界樹の元へ通うな」

『よし。では、そろそろ戻るから、子供達のこと、頼んだぞ』


 俺の隣に並ぶアインス達の顔を一人ずつ見つめた後、アーシュは空へと飛び去って行った。

 その姿を見送る三人の姿に、空への憧れが見て取れる。


「……やっぱりアインス達も早く空を飛びたいか?」

『そりゃあ飛びたいさーーー!だって、空はどこまでも自由だからねーー!だから、早く飛べるように、頑張ってご飯食べて力をつけるぞ!だから、イツキ、肉焼いてくれ!腹減ったーー!』

『ふん。俺はすぐにでも飛べるようになるぜ!だから、そうだな、今は肉だな。イツキ、早く肉だ!』

『そうだね。まあ、今無理したら羽に負担がかかりすぎるから、もう少し成長してからだね。でも、僕もお腹減っているから、今はご飯なのは賛成だね!』


 そう元気で応える三人の姿に、もう出会った頃のかわいい雛の面影は見当たらず、体だけでない成長を感じた。

 まあ、お腹いっぱい肉を食べたらまどろむ姿はまだ変わらないけどな!……成長を見守れるのはうれしいけど、寂しくもあるものだな。こうしてアインス達の成長を見られることは、あの時捕獲してくれたアーシュに感謝だな。



 いつもよりも多めに焼いた肉をたらふく食べた三人が丸まってまどろんでいるのを横目に、手早く自分の朝食を準備して食べていると、今日は一番最初にオルトロスがロトムを伴ってやって来た。


「今日は早いんだな。ロトム、おはよう!」

『今日は、ちょっと遠出をしようと思ってな。早めに来たのだ』

『この子を宜しく頼む』


 オルトロスからロトムを受け取り、順調に重くなっているのを実感しつつ交互に頭を撫でる。


「ああ。あ、そうだ。今度、時間に余裕があったら色々この世界のことを教えてくれないか?」

『む?まあいいが、今さらどうしたんだ?』


 そこで先ほどのアーシュとのやり取りを話して、この世界に暮らす人の常識を知りたいから教えて欲しい、と改めて頼むと。


『ほほう。緑の魔法、か。確かにイツキは来るべくして、この地、聖地に来たのかもしれんな。我らからも頼む。是非毎日世界樹に通って、魔法を使ってくれ』

『我らも知っていることは、イツキが望むなら教えよう』

「ありがとう。早速皆が揃ったら行って来るよ。今日は少し暑くなりそうだし、水遊びもいいかもしれないしな」


 昨日に引き続き今日も晴天で、雨期が確実にもうすぐ明けるのだと思わせる。


『水浴びか。それは楽しそうだな。では、我らは行くぞ』


 オルトロスが尻尾を振りつつ聖地へと去って行くのを見送ると、いつものようにシンクさんがケットシーの子供達を連れて来た。

 急いで片付けて子猫達をなでつつ構っていると、クー・シーの子供たちも揃ったので、皆で聖地へ行くことにした。



「アインス、ツヴァイ、ドライ。今日も皆のこと、お願いな。泉についたら、溺れる子がいないか見てやってくれ。俺は先に世界樹の方へ行って来るよ」

『分かったぞーー!俺も水浴びして遊ぶから、見ているぞーー!』

『おう!俺も水浴びするぞ!任せておけ!』


 アインス達はフェニックスの子供だが、鳥だからか水浴びが好きだ。羽や羽毛は水弾きがいいから、ずぶ濡れになることもない。


「おう、お願いな!」

『じゃあ僕は、イツキについて行くよ。イツキを一人にしたら、なんか心配だし』

「……まあ、確かに俺も一人よりは心強いけどさ。じゃあ、ドライもお願いな!」


 聖地へ入り、花畑を皆ではしゃぎながら歩いて行くと水音がして来る。そしてしばらく歩くと、世界樹の根元にある、幻想的な泉が見えて来た。


 水面に跳ねるのは、水の精霊、ウィンディーネ達だ。そしてシルフが水面で戯れては、キラキラと飛沫が舞う。水はどこまでも透明で澄み渡り、皆底にはここにしか生えない水草と水中花が生い茂っている。

 この泉には魚などの生物は棲んでいないが、精霊達の憩いの場となっているようだ。


 子供達を深い場所へ行かないように言い聞かせて一番浅い場所で別れ、ウィンディーネにも子供達をお願いしてから世界樹の根元へとドライと一緒に向かった。


「根元でいいってアーシュが言ってたから、ここでいいかな?」

『いいんじゃない?どこでも根に触って使えばいいと思うよ』


 根元から見上げた世界樹は、一番したの枝でさえ遥か高く、かすかに葉が風に揺れているのが見えるだけだ。

 ただ日本でテレビで見た古木とは違い、どこか透明感さえある質感の緑ががかった茶色の根にそっと手を這わす。


 良かった。ちゃんと掴めた。なんだか近くで見ればみる程、幹の中を通る水が透けて見えるようだよな。


 根を通り、泉へと水が滴り落ちるのを目線で追ってから、目を閉じて脳裏にイメージを描く。


 水を枝の先端へと送り、葉で光合成して、枝が伸びて葉が生い茂る……。


 温かな太陽を思い浮かべた時、体から力が抜けて行く。


 この感覚にも慣れて来たな……。ほんの僅かだろうけど、どうか俺の力を受け取ってくれな。

 そう思いつつ力を込めると、一気に魔力が無くなってふらつき、手が根から離れた。


『イツキ、無茶するな!魔力が枯渇したら、死ぬこともあるんだぞ!』

「ふえ?ええええっ!枯渇すると、魔力が増えないのか。分かった。気を付けるよ!」


 確かにそういう設定の小説もあったが、そっちだったか!今まで魔法をほとんど使えなかったから、そんなの気にしてなかったが。


 ふう、と安堵の吐息を一つ吐き、頭上を改めて見上げると、幹を伝う水が先ほどよりもキラキラと煌めいているように見えた。


 まあ、さっきの俺の魔法のせいな訳はないけどな!でも、本当に凄いな。さすが世界樹だ。


 一しきり見回してからドライに声を掛け、子供達の元へと戻って行ったのだった。






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ついオリンピックを見ていて遅くなってしまいました( ´艸`)

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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