第25話 畑を広げるようです
「おお、今日はいい天気だな!これで雨期は明けたかな?」
『まだ降る日もあるだろうけどね。でも、これからは晴れの日が増えそうだね』
壁の隙間から差し込む強い日差しに、今日はすっきりと目が覚めた。夜明けの時間も早くなっているようだし、雨期は日本の梅雨と同じ様なものだったのかもしれない。
「なあ、もしかして雨期が明けたら暑くなって来るのか?」
『そうですね。ここは高地ですから、そこまで暑くはなりませんが、暑い時期になりますよ』
そのドライの答えに、どうやらこの世界にも四季らしきものがあるらしい、と思う。
そういえば、時間とか日付とか年間何日とか、そういう基本的なことを何も聞いてなかったな。最初はいくら神獣でも、そんな人の決めたことは知らないだろうと思ったんだけど、毎日過ごすうちにすっかりそんなことどうでも良くなってたしな。
毎日陽が昇れば起きて、沈めば寝る、そんな生活を送っていると、昼食もお腹が減った時に食べればいいし、時間に囚われる必要はなかったのだ。
でも……。せめて気候のことは後でオルトロスにでも聞いておくか。雪とか降るなら、どうにかして服も手に入れないとならないしな。
マジックバッグには、一通りの着替えが入ってはいたが、それだって何年も持つ物でもないし、防寒着は所謂ローブとマントしか入っていなかったのだ。
「そうか……。暑くなるならもっと着替えが欲しいけど、シンクさんに服を頼むにも物々交換する物が必要だしなぁ。この世界の物価も知らないからなぁ」
出来たら下着と服がもっと欲しいが、今は人との交流はケットシー頼みだ。そのケットシーたちも、馴染みの村があるというだけで、街へ出たりはしないらしい。
『とりあえず、僕らにはさすがに服の価値とかは分からないし、ケットシーに村で聞いて貰うしかないんじゃない?』
「そうだよな。よし!この前シンクさんが小麦の種や野菜の種と苗を届けてくれたし。今日はこれだけ晴れたら畑を開墾できるよな。さっさと朝食を食べてしまおう!」
『『そうそう、俺達、腹減ったしー』』
俺とドライの話をあまり興味なさそうに聞いていたのに、朝食となったらアインスとツヴァイが途端に首を突き出して来た。
その頭をガシガシと撫でると、外へ出ていつものように肉を焼いた。
「真ん中はアーシュが来た時に降りられるように開けておくだろ。そうなると、森との境をぐるっと畑にする感じかなー」
『そうですね。聖地の方は開けておいて、他は通路を残して畑にしてしまいましょうか』
以前から雨期が明けたら畑を開墾する、と伝えておいたからか、今日はクー・シーの集落からシェロが子供を預けながら手伝いに来てくれた。ケットシーの集落からも、サシャのお父さんのサーミさんが来てくれた。ありがたいな。
ちなみにサシャは茶色の毛並みでお腹と手足が白く、サーミさんは濃い茶色の虎柄だよ。クー・シーたちも様々な色の毛並みで、見ているだけで楽しい。
「じゃあ、土を柔らかくするのはサーミさんとノーム達にお願いします。大きな石は俺が集めるので、無理しないでゆっくりやって行きましょう!ロトムは今日は飽きるまではそこな。大人しくしていてくれよ?」
『クォン!』
今日は小さな子猫と子犬たちはドライにまかせ、アインスとツヴァイで大きな子達の遊び相手をして貰っている。ロトムだけはマジックバッグにあった麻袋を腰に縛った中に入れた。一番ロトムが小さいから、目を離すのが心配なのだ。
雨期に入ってからあまり見かけなかったノームやスプライトたちが今日は元気にわらわら寄って来てくれたので、手伝いをお願いした。
お陰で土魔法に適正のあるサーミさんとノーム達でどんどん土が耕されていく。シェロには通路の位置などの指定をお願いし、スプライトたちには雑草の根の処理をお願いする。
俺は耕された場所を追うように大きな石をノーム達に教えて貰いながらどけていく。
昼食にお礼に果物を皆に出して食べ、それからほどなく広場をぐるっと一周するように畑が耕された。
そこに森から枯れ葉を含む腐葉土を集めてきて、半分の畑には一緒に混ぜ合わせた。この畑はこのまましばらく馴染むのを待ってから野菜の種を蒔く予定だ。
「よーし!じゃあ、腐葉土を混ぜていない畑に小麦の種を蒔くよ!スプライトたち、お願いな!」
今ある畑が二つ、新しく作られた畑が十二だ。その内の半分、六つの畑を小麦用にし、三つを芋専用の畑にする予定だ。芋は保存ができるし、穀物も少しは欲しいからな!
小麦の種蒔きは、ノームが開けた穴にスプライトが種を植え、あっという間に終わった。
そうして井戸から水を汲み、皆で手分けして水をまく。この作業は面白がった子供達も一緒に手伝ってくれたぞ。あわや泥んこ遊びになりそうになって、慌てて止めたけどな!
「さて、ここからだな……」
『ここからどうするんですか?この小麦、というのは集落では作ったことないので分からないですが、種を蒔いてからする作業があるのですか?』
「ああ、シェロ。いや、俺がなんか緑の魔法に適正があるみたいなんだよ。だから、ちょっと魔法を使ってみようかなって思ってさ」
『緑の魔法ですか!それでスプライト達とも最初から相性が良かったのかもしれませんね』
そう言われてみれば、初めてアーシュの守護結界を抜けて入ってしまった時も、スプライトとノームは凄く歓迎してくれた。それを考えれば土にも適性が少しはあるのかもしれない。
日本では実家で母親がやってた家庭菜園の収穫を手伝ったくらいしかしたことなかったけど、農作業に向いているのかもしれないな。
『クー?』『キャンキャンッ』
「お、ロトム、降りたいか?よーし、じゃあ、俺が今からちょっと魔法を使ってみるから、近くで見ていてくれな!」
腰に巻いた麻袋からぴょこりと出ている双頭の頭を交互に撫で、そっとだっこして地面へと下す。
そして、今小麦の種を蒔いたばかりの畑に両手をついた。なんとなく、そうした方が魔力が伝わる気がしたのだ。
「ええと、体内の魔力を意識して、両手から土へ浸透させるイメージで……」
目を閉じて、自分の両手から放たれた魔力が波のように地面へと浸透し、蒔いた種にも伝わって行く、そんなことを脳裏に描きつつ体内の魔力を注いだ。
『これは凄いな……。イツキにも、取り柄があったんですね』
『クォンクォン!』『キャンッ』
『これは……素晴らしいです。ノームとスプライトたちも力を手助けしたようですが、ここまで魔法を使える者はクー・シーの集落にはいませんよ』
『サシャから聞いた時には耳を疑ったが、これ程までとは……。素晴らしい』
だんだんとこの間のように力が抜けて行くにつれて体がだるくなり、そろそろ限界か、というところで皆の声が聞こえて魔力を止めて目を開けると。
「な、な、な、なんじゃこりゃあっ!!こ、これ、本当に俺がやったのかっ!!」
目に入ったのは、発芽し、更に数センチ芽をだした小麦畑の姿だった。
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暑さが毎日酷いですね……。何年か前の四十度を超えるような暑さはないのですが、今年は身体に負担がかかる暑さです。
皆様も身体に気を付けて下さい。よろしくお願いします<(_ _)>
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