第24話 魔法の適性が判明したようです?

『おお、今日は多いのだな』

『そうだな。遊び相手がいっぱいでよかったな、ロトム』


 たくさんのケットシーとクー・シーの子供達に早々にアインスは逃げ出し、ツヴァイは外で少し大きな子達と遊び始め、俺に付き合ってずっと羽クッションをやらされていたドライの視線に、さすがにそろそろ別の遊びにするか、と思い出した頃、オルトロスが子供を連れてやって来た。


 ケットシーとクー・シーの子供達は、全員揃うとそれぞれ十人程もいて、名前を中々覚えきれていないのだが、オルトロスの子供はアインス達と一緒で成獣するまで親はつけないそうだが、一人だけ名前がないは寂しいから、呼び名をつけさせて貰った。


 いや、オルトロスだからロトムなんて安直な……と言わないで欲しい。アインス達の続きのフィーアで無かっただけ良かっただろ!


「ロトム、おいで。今日は晴れたし皆もいるから、聖地へピクニックに行こうか」


 オルトロスの頭上で鳴くロトムを抱き取り、そっと頭を撫でる。

 あれから約一月ほど経ち、ロトムもしっかりと目があき、這わずに少しずつ歩けるようになって来た。そんなロトムをオルトロスはうれしそうに見つめていたが、犬として考えると成長速度はそれなりだ。


 幻獣や神獣の成長速度は、当然向こうの世界の犬や鳥とは違うのだろうけどさ。でも、なんとなくそれを質問はしない方が自分の為のような気がするんだよな……。


 なんといっても、こんな処で託児所まがいなことをやることになったのは、神獣フェニックスであるアーシュが俺をアインス達の子守りにと一本釣りしたからだ。

 そんなアインス達は。生まれた時から親の知識は受け継がれているとドライに聞かされたし、普通の子守りな筈はないのだ。



「おーーい、皆!俺の見えない処へ行くなよー!アインス、ツヴァイ、ドライ!もし何か近づいて来たらお願いな!」

『おーーー、分かってるぞ、イツキーーー!ちょっと偵察がてら、俺は周囲を走って来るぞーーーっ』

『おう!ここら辺に出る動物くらいなら、俺にまかせておけよ!あっという間におやつにしてやるからな!』


 守護地の見回りへ戻るオルトロスを見送り、皆を引き連れて聖地へとやって来た。

 家のある広場の方が安全なのだが、さすがに世界樹が目の前という聖地の奥地へは、大型の動物なども侵入することはない。せいぜい小動物や、虫型の魔物くらいなので、アインス達の狩りの練習がてら晴れた日はこうして聖地の花畑へと来るのだ。


 初めて見た時に、とても幻想的に見えた花畑は、改めて見ても陽ざしに煌めく真っ白の花弁はとても神秘的だ。

 その中を楽しそうに走り回るケットシーとクー・シーの子供達を見守っていると、腕に抱いたロトムがぺちぺちと腕を叩いた。


「ん?なんだ、ロトム。ロトムも歩きたいのか?」

『キャンッ!』『クゥ!』


 可愛らしい鳴き声と、ふりふりと小さな尻尾を振って返答され、あまりの可愛さにぎゅっと抱きしめてから足元へ下す。

 するとテシテシ、ペチペチと半分歩いて、半分這いながら少しずつ花の間を進んで行く。

 そんなロトムを見下ろしつつ、辺りの様子を見ながら歩いていると、少し先にクー・シーの子がしゃがんで何かを見つめていた。


「ん?どうしたんだ、サシャ。何かあったか?」

『クゥ……これ、折れてる』

「ん?あれ、本当だな?」


 サシャはクー・シーの集落の子で、身長五十センチくらいで二本足で立ちあがり、少しずつ会話も出来るようになって来ている子だ。

 クー・シーも、ケットシーも、生まれたばかりの頃はまんま子猫と子犬なのだが、成長するにつれて二本足で立てるようになり、そしてその頃から話せるようになって来るのだ。


 大きくなってくると親の手伝いなどをするようになるから預けられる子は子猫や子犬の子が多いが、二本足でぽてぽて歩く姿がまた可愛らしくて悶えてしまう。


 サシャに指さされていたのは、一本の花だった。聖地に咲くこの花は、この場所でしか咲かない花で、一年を通して咲き続ける、という神秘の花なのだが、その分少しくらい葉が折れたり、倒れたりしても次の日には回復している強い花でもある。


 最初、この花畑を歩くのも躊躇っていた俺にオルトロスがそう教えてくれたのだ。

 それなのにこの花は、根から二つ目の葉の処でぽっきりと折れたまま、しょんぼりと下がった花も力なくしおれてしまっている。


「うーん。もしかしたら、寿命なのかな?でも、周りの花は元気だし、この花だけなのは悲しいよな……」


 サシャの隣にしゃがみ、じっと花を見つめるサシャの頭をそっと撫でると、折れた花に手を伸ばした。

 指先で折れた箇所をなぞり、しおれかかった花を手の平で触れる。


「元気になぁれ。なんてな。さすがにそれで元気になんて、無理だろうけどさ。サシャ、恐らくこの花は寿命なんだよ。寂しいけど、見守っていてあげよう?」

『……花、開いた』


 俯く顔を覗き込むと、さっきまで寂しそうだった顔に驚きをはりつけてピンクの肉球のある手で俺の手の平の花を指さす。


 んん?花が、開いた?え?


 サシャの指先を辿って自分の手の平を見てみると、確かに先ほどしぼんでしおれかかっていた花が、俺の手の平の上で丸まっていた花びらをピンと伸ばしていた。


「えええっ!げ、元気になぁれ、って言ったからか?げ、元気になぁれ、元気になぁれ!が、頑張れ!」


 その変化に驚きつつ、つい興奮して折れた茎と花を撫でながら応援してしまっていた。


「『あ!』」


 体の中から何かが引き出される感覚と共に、どんどん花が元気になっていき、花が開いたと同時に次は折れていた茎が力強く立ち上がっていく。


『な、治った!』

「な、治った、な!な、何が……ん?あれ?何か力が……」


 そうして完全に花が周囲の花と区別がつかなくなるくらいに元気になった同時に、俺は力が抜けて尻もちをついてしまった。


『イツキ?どうかしましたか?』

「ドライ……。なんか枯れそうな花を撫でて、元気になぁれ、って言ってたら花は元気になったんだけど、力が抜けたんだよ」


 うーん。言ってて何だが、自分でも何言っているか分からないぞ。


『ああ、イツキ、魔力を無意識に使ったんじゃないですか?もしかしたらイツキは、緑の魔法に適正があるのかもしれないですね。元々攻撃に使えそうな魔法は、無理そうでしたし』

「魔法を?無意識に俺が使ってたっていうのか?……でも、そういえば何かが抜けて行くような感じがしてたけど。でも俺、魔法なんてかなり意識しないと使えないのに」


 今では使いなれて来た着火の魔法でも、それなりに集中しないと今だに発動しないのだ。


『適性があるのとないのと、発動にも差が出るらしいからね。丁度雨期が終わったら畑を広げるんでしょ?その時試したらいいんじゃないの?』

「そ、そうだな……。後でドライアードにも話を聞いてみるよ」


 緑の魔法が俺の適性、か……。なんとなく、攻撃魔法には全く才能はないとは思っていたけれど。やっぱり自分には自分の身を守ることもできなさそうだ。


 そう思うと情けなさに落ち込みそうになるが、それでも自分にも使える魔法がある、と思うと、やっぱり心は浮き立ったのだった。





****

名前は……いつもその場のフィーリングです!(イツキさえも書き始めてから名前を決めました( ´艸`)

次か次には新しい子が出さるかな?どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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