第二章 森の中の託児所が始まったようです

第22話 新しい日常が始まったようです

 朝。喧しくさえずる鳥の鳴き声にもめげずに、温かいふわふわな温もりに擦り寄り、心地よいまどろみを堪能する。


 だが、その朝のまどろみは鋭い痛みによって一瞬で消失した。


『イツキー、イツキー!お腹減ったぞー!ご飯にしてくれーーーー!』

『そうだ、イツキ。腹減ったから、肉をくれ!』


 ふわふわな温もりから叩き落され、バシバシと羽で顔を叩かれつつ背中を嘴でつつかれる。


「痛いっ!痛いからっ!こら、アインス、ツヴァイ、毎朝痛い起こし方は止めてくれって言っているだろう!」

『だってイツキ、ゆすっても起きないんだぞーーーー?ゆすって起こしている時にイツキが起きてくれれば、痛いことはいないからなー!』

『そうそう、ほら、だからもう俺たちのお腹は限界なんだって!肉!肉を焼いてくれよ!』


 ハアーーーーーッ。

 ゆさゆさと乱暴にツヴァイに羽で揺すられ、大きなため息をつくとしぶしぶ起き上がった。

 立ち上がるとすぐに朝日が目に入り、その眩しさに今日は晴れていることに気づく。


「おお、今日はやっと晴れたか!食事が終わったら、洗濯とかしないとな!」


 寝床にしている衝立式の壁の影から出て階段を下りて行くと、それでも昨日までの雨で地面には池のような水たまりがあった。

 幸い台所にしている竈がある場所は高く盛っているので、階段の途中から木板を渡してその上を通って竈へと行く。


「お、ドライ、こっちにいたのか。おはよう。ここを乾かしてくれたんだな。助かるよ」

『どうせそろそろ空腹に耐えられなくなったアインスとツヴァイに起こされる頃だろうと思って準備していました。毎朝イツキは懲りないですね』

「アハハハハ……。確かに暗くなったら寝てるから、寝るのは早いけどさ。でも、起きる時間としては早朝すぎるんだって」


 恐らく今の時間は、明け方の五時半くらいだろう。

 ドライが火であぶって乾かしておいてくれたので、そのまま濡れることなく竈の前まで行き、マジックバックから薪を取り出して竈の中へ入れた。


「……着火!……フウ。今日は一回でついたな。もうちょっと使える魔法が増えたらいいんだけどなぁ」


 目を閉じて体内の魔力を意識して、火をつけるイメージで「着火」と唱え、指先に灯ったまさしくチャッカマンのような火で手元に用意した小枝に火を付け、それを竈の中へ入れて今度は風を魔法で送って火を大きくする。


 崖の巣にいた時から、毎日少しずつ頑張っていた魔法が、最近やっと少しだけ使えるようになって来た。

 まあ、使えるといっても、今みたいな火をつけるだけの「着火」、うちわで扇いだくらいの「送風」、そして盥に水と洗濯物を入れてぐるぐる回す「洗濯機」と名付けた魔法しか今のところは使えないのだが。


『イツキ!早く、早く!腹減ったって!』

「あーもう、分かったよ!急いで焼くから!」


 竈の火を眺めながら魔法について考えていたら、途端に催促が来てしまった。

 マジックバックにしまっておいた台を取り出し、そこにドンと肉の塊を乗せ、まな板とナイフを取り出してドンドン分厚いステーキに切り分ける。

 竈の上に置いた鉄板が十分に熱せられたら、そこにドカドカ並べた。そうして焼き目がついたらフライ返しでドンドンひっくり返して行く。


 この鉄板もフライ返しも、家を建てる時に仲良くなったドワーフ達に頼んで作って貰った物だ。他にも鍋や包丁などの鉄の道具類も、どういう風に使うかを説明して依頼した。

 ドワーフ達は地下や洞窟で石や鉱石で様々な物を作るのが楽しいそうで、俺が異世界から来たことが分かると、夢中になって色々聞かれたのだ。


 それで意気投合して、とりあえず簡単に作れる物から先に作って貰い、出来上がると持って来てくれるのだ。お礼は異世界の知識(といっても製鉄とか機械の知識は小説で読んだりテレビで見たなんちゃって知識しかないが)と、アインス達やここに預けられる子供達の抜け毛などの素材、それに今試行錯誤して作っている果実酒だ。


 当然アインス達や子供達の抜け毛などを貰ってドワーフ達に渡すことは、親たちにも説明して許可を得ているぞ!無断でそんなことしたら、俺がどうなるか分からないからな!!


「ほら、一回目の肉が焼けたぞーー。すぐに次も焼くから、喧嘩しないで食べてろよ」

『『『分かった!!』』』


 もう一つマジックバックから取り出した低めのテーブルに、ドン!と木の板を置いてその上に肉を並べておく。そうして一斉に食べだすアインス達をちらりと見てから、また竈へ戻って次の肉を焼いた。


 肉は、この家に住むようになってから、アーシュが纏めて獲物を狩って置いて行ってくれるようになったから、それを解体してマジックバックへ入れている。

 勿論、アインス達の様子を見に何度か顔を出しに来るが、聖地とこの場所を連結したので、色々と見回りと間引き作業があって忙しいみたいだ。


 まあ、その間引いた獲物がこうしてアインス達の食事になっているんだけどね。


 肉を焼き続けること十回目になって、やっとアインス達のお腹はいっぱいになったようだ。

 毎回焼いてて思うけど、一体何十キロの肉を食べているんだろうな……。まあ、体も俺も見上げるようになったから二メートルは越えたし、大分首のくびれはできてきてがっちりとしてきたけどな。


 最近では、大分羽もしっかりとして来て、たまに高い場所から羽ばたいて滑空のように飛び降りたりをし始めている。

 飛行訓練まではまだかかりそうだが、そんな姿を見ているととても感慨深い。まだ俺がこの世界に来てから半年も経ってないと思うが、最初はまんま雛のフォルムだったアインス達の成長が眩しい。


 アインス達の食事が終わったので、ひなたで三匹固まってうつらうつらしている姿を見てなごみながら、次は自分の朝食の支度にとりかかる。

 崖の上の草原に植えた芋は移植し、ここの広場の隅に作られた畑へと植え替えた。畑にはそれ以外にも、ケットシーとクー・シーの集落から持ち寄ってくれた野菜の種がまかれ、最近少しずつ芽を出している。

 他にも、この森にある食べられる野草も少しずつ植え替えており、とりあえず木の板を渡して畑へ行くと、その野草を少しだけ切った。


「畑も水浸しだな……。せっかく芽が出てきたから、種が流れていないといいけど。雨期には雨が降るって聞いてはいたけど、これだけ降るとは思ってなかったからなぁ」


 雨期が来るから、と急いで家を建てて貰ったが、それを待っていたかのように三日後から雨期に入ったようで、そこから五日間、毎日雨が降り続けた。それからもたまに今日のように晴れ間がのぞく日もあったが、ほとんど雨が降り続けており、あと半月は雨期が続くようだ。


「お前たち、雨に負けずに、元気に育ってくれよぉ!俺はいい加減野菜を食べたいんだよ」


 思わずしゃがんだ姿勢のまま、泥にまみれた芽を撫でてしまった。


「よし!さっさと朝食を作って食べたら、洗濯をしないとな!せっかくの晴れ間だ!」

「そうそう、せっかくの晴れ間ですからなぁ。我らも色々やることが多いので、今日は全員連れて来てしまいましてなぁ。どうぞ、よろしく頼みますなぁ」

「わあ!今日は早いですね!ちょっと待って下さいね!まだ朝食を食べてなくて。おーい、ドライ!ちょっとケットシーの子供達を見ていてくれないか!」


 気合を入れて立ち上がったところに、今日は早朝から子供達を引き連れて預けに来たケットシーのシンクさんの声に慌てて摘み取った野草を手に台所へと引き返した。


 だから、野草の影からぴょこんと顔を出したスプライトが、小首をかしげてさっき俺が撫でた新芽が、瞬く間に若葉を一枚増やしたのを見ていたことには気づかなかったのだった。





****

子猫まみれまで、たどり着かなった……Σ( ̄ロ ̄lll)ガーンもふもふが……

まあ、羽布団で!

次こそは子猫や子犬がわさわさ出る、筈……!

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>


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