第21話 あっという間に完成したようです?

『おう、家はどんなのがいいんだ?』

「ええと、一階は天井も出来る限り高くした広いフロアだけで、全面の扉は大きくはめ込みで、取り外せるように出来たら一番いいと思うんですが。あとは、小さくていいので俺用の個室があればいいです」

『ほう、面白い。なら、床と柱を別にして独立させておくか』

「あ、あと地面の上でいいので、大きな竈と作業台のある台所と、出来たらお風呂、あの、水浴びできる場所があったらいいかな、と」

『台所はいいが、風呂……は確か湯に入るんだったか?水浴びなら聖地の泉へ行けばいいが、まあ、いい。とりあえず、水が溜められる場所だけ造るか』

「あ、ありがとうございます!」


 倒木を出来るだけ回収して戻ると、わーっと群がって来たドワーフに全て渡すとあっという間に製材が始まった。それを茫然と見ていると、要望を聞かれ、選んだ答えがそれだった。


 俺がここに住むことになって、アインス達はどうするのか、と思ったら、飛ぶ練習が始まれば崖の方へ行くようだが、通えばいいんじゃん?とツヴァイが言ってたから、一緒に住んでくれるようだ。


 なら、これからどんどん大きくなるアインス達も入れるように、ドライアードが広げてくれた枝いっぱいいっぱいに床を作って貰って、出入りも出来るように扉を大きな倉庫みたいな建物を思い浮かべたのだ。


 この場には水場はなかったが、聖地に湧く泉の水を引き込んで地下から汲み上げる井戸をドワーフ達があっという間に造ってくれたから水の心配はない。

 ただ風呂に入ろうと思ったら、水を汲んで、更にお湯にして、と手間を考えればまさに無駄なんだが、やっぱりそこは元日本人。毎日は諦めても、たまには風呂に入りたい。

 風呂の為に魔法の練習を頑張るつもりだし、魔法を覚えられなくてもアインス達に火で湯を沸かして貰えると思ってしまった。


 確かに聖地の泉に行けば水浴びはできるから、風呂は贅沢、って言われたらそうだけど、でも実は逆なんだよ!!聖地の泉は、世界樹から伝った水で出来た泉なのだ。だから、泉の水を一口飲めば疲れが吹き飛び、ちょっとした怪我なら治る!という、とんでもない水だったりしたのだ!!


 井戸を掘っている時にその話を聞いて、また気を失いそうになったよ!そんなに貴重な水で、水浴びなんて出来ないよな!!


 井戸の水もそこから引き込んでいるけど、地下を通している分地下水と混ざっているから、そこまでの効果はないそうだ。それを聞いて逆に安心したんだよな。まあ、それでも井戸から汲んだ水でも、疲れはあっという間に吹き飛んだけどな!



 その日はその場で皆で地面で雑魚寝して、翌日から本格的な作業になった。

 主な作業はドワーフ達が、そして俺やアインス達、それにクー・シーの集落の人達も毎日手伝いに来てくれ、精霊たちも皆協力してくれて一週間で、あっという間に完成した。

 もう、毎日手伝って作業していた俺もびっくりな、作業工程はこうだ。


 一日目は、二又に分けてくれた大木の幅いっぱいに床が張られた。枝がない場所は地面に支柱を建てて支えているが、広さはなんと、アーシュが上で丸まっても少し余裕がある程だった!畳にしたら……何畳分だろうな?


 二日目は床から少し離れた場所に、倒木をそのまま使った柱が四隅に建てられた。その柱に土台の木が渡され、そこに大木の木の枝を利用して、土台の木と木の枝の間にだけ壁をはめ込んだ。


 そして三日目は一番奥の床と壁の間に階段と支柱が建てられ、ロフトになる俺の部屋の床が渡された。元々ドライアードが雨除けに、と枝を広げてくれた天井まではかなりの高さがあるから、俺が立っても高さ的には十分だ。


 四日目にロフトが壁で仕切られて扉が作られて六畳より大き目の小部屋が出来上がると、壁の外側に、また倒木をそのまま使った柱が屋根用に建てられ、五日目は大木の広げられた枝を使い、枝から吊り下げるように屋根を造って行き、最後に昨日建てた柱に固定された。


 家としての形は、一階の床と壁の奥側は中二階のロフトで連結されているが、左右と前面は一メートルくらい開いている。そして屋根と壁の間にも木の枝があって、壁と連結されておらず、箱型の家ではなく、大木を包むように囲っただけの家となった。


 隙間風が入りそうだが、枝と葉が茂っているから、ほとんど入って来ず、以外と温かかったのには驚いた。それに枝の間から陽が差し込むから、窓が無くても十分明るかった。


 六日目は床と地面の間に幅広の階段が掛けられ、そしてほとんど壁がなく開け放たれている前面の壁用の移動出来る大きな衝立が作られ、七日目に土を盛って土台を上げた上に竈や作業台の設置をした。他にも俺の部屋の家具や井戸の傍に俺の要望で風呂桶が設置されて、全てが完成した。


 作業中は高い場所へ建材を運んだり、柱を建てる時にはシルフが風で支えてくれたり、スプライトたちが蔓を操ってくれたお陰で、かなり大きな建物でも、小さなドワーフ達でも短期間で建てられたのだ。



「おおおお!凄い!これなら、どんな子達が来ても、ここに入れるよな。皆、どうもありがとう!」


 完成した家を皆で見て回り、竈の前まで戻った処で大きな声でお礼を言った。

 これから、神獣や幻獣の子供達を預かる生活が始まると思うと不安だが、神獣、幻獣達が声を掛けたとはいえ、精霊達が俺の為に家を建ててくれたことには感謝しかない。


 頭を下げた俺に、皆笑顔でポンポンあちこちを叩いてくれた。そんな皆へのお礼に、少しずつ多めに採ってマジックバッグへ入れておいた果物を積み上げ、肉も食べられるというドワーフ達の為にアーシュに用意して貰った獲物を捌いて、今まで料理した中で一番美味しく出来た味付けで焼肉を焼いた。


 物を食べられない精霊もいるが、日々の糧としては必要なくても嗜好品として果物などは食べられる精霊も多かった。

 実体のあるクー・シーやケットシーは食事は必要だが、主食は木の実や果物、野菜で肉は食べないそうだ。

 ただ味付けには興味があるようだったから、ケットシーが持って来てくれた野菜を使って、塩や果物、香辛料を使った野菜料理を作ってみた。そうしたら最初は恐々手を出していたクー・シーたちも、次には笑顔で食べてくれたよ!


『フフフフフ。面白い家が出来上がったわね』

「ドライアード!あの、どこか痛かったり、痛めた処はないか?皆気を使って建ててくれたんだけど……。それに窮屈な場所があったら言ってくれ」


 壁も屋根も、大木とは蔓を結んで固定した。ただかなり大きな建物になったから、大木の三分の二くらいを覆ってしまっているのだ。


『大丈夫よ。根を痛めなければ、枯れることはないもの。それに聖地の泉から水を引き込んで来てくれたでしょう?あの水で一気に活性化したわよ。お陰でこの森は守護結界で守られているから強い魔物が入り込むことはないけど、魔物や動物が家に入らないように結界を張れたわ』


 井戸を掘る時にも、大木の根を傷つけないように場所を慎重に選んで掘ったけど、地中を通した分、ドライアードにも影響があったみたいだ。

 でも、俺がここへ来たことでドライアードに負担になるだけにならなくて良かった。けど結果的に結界を張ってくれたから、更に俺にとってありがたいことになったのは、実はアーシュがそこまで考えていてくれたのかもしれないな。


「ありがとう。俺は戦力は全くないし、何も出来ないかもしれないけど、精霊達に恩返しを出来ることがあったら全力で取り組むよ」

『ふふふ。そう、気張らないでいいわ。私達は、寿命の観念もないから気が長いのよ。これからよろしくね、イツキ』


 ドライアードのニッコリと微笑んだ妖艶な笑みに、また頭に血が昇りそうになったが、楽しそうにはしゃぐ精霊達を見ながら、これからの生活に思いを馳せたのだった。





****

これで拠点を手に入れたので、やっとイツキの能力が……出る、のかな?( ´艸`)

どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

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