第18話 俺が子守りをするのは確定のようです
『まあ、我には寿命というものはないからな。でも、子を持つ、というのも楽しそうだろう?』
『フウ……。まあ、いいが。俺があいつを最初に見つけたのだけは忘れるなよ。俺の守護地とこの地以外への移動はダメだ』
『この地で子守りをするなら問題ない。では、我も子供が出来たら連れて来よう。のう、そなた。それでいいな?』
ぼんやりと他人事のようにアーシュとドラゴンの会話を聞いていたが、急にドラゴンの視線が俺に向いたことで、話し掛けた相手が俺だと気が付いた。
「へ?え、ええと、その……。あの、別に俺が、その、子守りをしなくても……」
『決まりだな。では、じゃましたな。我の威圧に耐えられぬようだから、我は去ろう』
俺は「はい」とか肯定の返事をしたつもりは全くないのに、うむ、と一つ頷いたドラゴンは、聞き返す間も与えずにさっさと飛び去ってしまった。
ポカーンと口を開いたまま、世界樹と飛ぶドラゴン、というまるで童話の世界のような光景をただ見ていると、足元にもふっとした感触が触れた。
なんだ?と思って足元に目をやると、そこには小さな真っ黒な毛並みの子猫の姿があった。
「はわぁ……こ、子猫だぁ。かわいいなぁ……」
怖がらせないようにゆっくりしゃがみ、子猫の鼻先にそっと指を差し出した。
クンクン、と小さな鼻がひくひく動き、そしてするっと指先にすり寄る子猫の姿に我慢できずに手を伸ばした。
そっと頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めて手にすり寄る。その姿を見て、そっと抱き上げた。
「ミュー」
「おおお、ふわふわ、ほこほこだなぁ。ああ、かわいいなぁ。猫は家で飼ったことは無かったけど、良く野良猫に弄ばれていたんだよなぁ。まあ、そんなツンデレなとこも、猫の可愛さなんだけど」
機嫌が良くて寄って来ても、自分の好きなだけ足に纏わりつくと、頭を撫でようと伸ばした手をかわして歩き去るアパートの近くで見かける野良猫を、それでもいつかは撫でさせてくれる!と信じて毎回見かけると手を伸ばしていたものだ。
猫カフェに男一人で入る度胸が無くて、結局一度だけ彼女がいた時に付き合って貰って入っただけだったけど。あの時は天国だったんだよなぁ。
腕の中で気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らす子猫の喉元を、指でそっと撫でながら笑み崩れていると、じーっと注がれる視線に気が付いた。
ふと前を見ると、目の前には二本足で立つクー・シーと同じくらいの大きさの猫の姿が。
『あっという間に我が子を手なずける手並みは、聞きしに勝りますなぁ。フム。これなら、私どもが出掛ける時は、こちらで子供達を預けられるでしょうかなぁ』
その声を聞いて、どうやらこの子猫の父親らしいと気が付き、慌てて子猫を手渡そうとすると「ミューン」と当の子猫が嫌がったのを見て、「ニャフフ」と父親猫は笑ってそのまま抱いていてくれ、と言ってくれた。
手にすりすりと頬を擦り付けた子猫は、ふぁーあ、と欠伸をするとすーっと抱っこの体勢のままあっという間に寝てしまった。
その姿を見つつ父親と話してみると、ケットシーで間違いなかった。クー・シーと同じく精霊だけど実体があり、人里とも交流があるそうだ。
こことは違う守護結界に守られた地に集落があるそうだが、親たちが色々と活動しているので、子猫の面倒をみるのも大変だった、というのだ。
そこで俺の噂を聞いて、守護結界の主と一緒に特別に今回はこの聖地に入れて貰い、様子を見に来たそうだ。
いや、俺の噂って何だよ!どこまで神獣、幻獣界に響き渡っているの!
『……イツキって、時々とても大物だなって思うけど、まあ、一言でいえば変、なんだよね。ねえ、イツキ。ケットシーと和んでいるのはいいけど、今の状況は分かっているんだよね?』
そのドライの声に、ハッと顔を上げると、じーっと、それはもうじーっと早々たる神獣、幻獣の皆々様に見つめられていた。
……いやぁ、流石に忘れられる程図太くはないけど、現実逃避をしたいと思ったっていいじゃないか。それを変って言われるの、ひどくないか?
『……フム。本当に不思議な人ですね。話を聞いた時には、まさかと思いましたが来てみて良かったです。普通の人間とは違うようですが、どうしてそうなったのか。面白いですが、私達の一族ではここ何十年も子供が育たなくて、本当にどうしたらいいのかと思っていましたから助かりました。次に一族に子ができたらこの地へ連れて来ますので、子守りをお願いしますね』
そう言って進み出て来たのは、額に見事な長く美しい角のある白銀に輝く馬、ユニコーンだ。澄んだ碧い瞳に見つめられて、心の奥底まで覗き込まれたようで目がそらせなくなる。
『ああ、人には私の気も強すぎましたか。大丈夫ですか?』
何をした訳ではなく、全く目の前の光景に変化は無かったが、ユニコーンが纏っていた何かの気配が遠ざかり、ホッと息を吐き出す。瞳に魅入られているうちに、呼吸も止めていたようだ。
「ええと、あの……。なんか俺は、称号とスキルを持っているとアーシュには言われましたが、俺自身はこの世界のことを何も知りませんし、それに子育ても今までしたことないので、何も特別なことは出来ないと思うのですが……」
子を預ける、と言われるたびに毎回思うのだが、何故、皆俺に子供を預けようとするのか。
『ふふふ。普通の子育てとは違うのです。我ら神獣、幻獣、それに精霊は親の能力をそのまま子は引き継いで生まれます。だから人の子育てとは違うのですよ。一番大切な自我、心の生育に貴方の存在が有効なのです』
ふえ!?な、なんだ、それ!初めて何故か、の答えを貰った筈なのに、更に謎が深まったんだけど!俺って、本当に何なの?
その後も一応恐る恐る俺の世界に伝わる話としてユニコーンの生態についても聞いてみたが、所謂処女じゃなくても触ってもいいらしい。ただ、心が悪意に染まっていると、その穢れが移るから近づかないそうだ。
……うん、なんだか分からん!別に俺だって、聖人君子な訳じゃないから、今はそれどころじゃないから意識してなかったけど、性欲だって人並にはある。彼女だって最近はいなかったけどいたから、童貞って訳じゃないし、そういう店に会社の人に連れていかれたこともある。そんな俺でも大丈夫なのかと思っていると、笑われて大丈夫だと言われてしまった……。
いや、馬が笑った(会話じゃなくていななきだったんだ)ことに驚いたらいいのか、考えていたことを読まれたことを驚いたらいいのか分からずに、頭がまた真っ白になったよ。
もう、いいか。うん。だって、ここに居るのは神獣、幻獣、それに精霊なんだ。俺とは存在が違うんだから、ただの人の俺に理解できる訳がないんだって。
そう諦めて俺の隣に座っていたドライによりかかり、つい逃避してそのふわふわな羽毛をもふもふと味わっていると、ドライがとても呆れたため息をついていたが、俺には聞こえなかった。聞こえなかったんだからな!
それからも様々な神獣、幻獣、精霊の方々から挨拶をされたが、ただ、乾いた笑みを浮かべてその場を乗り切ったのだった。
****
早々たるメンバーを出したのに、交流するのはケットシー(笑)身の丈はそのくらいで(笑)
やっとタイトルの感じになって来ました!この先はもふもふな子供たちとキャッキャウフフの展開に……( ´艸`)
なると思いますが、まあ、また少しずつ神獣、幻獣、精霊たちは出して行く予定です。
テンポが思ったよりも上がらずまったりですが、もふもふかわええなぁと和んで読んでくれたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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