第19話 建物を建てて貰えるようです?
ひたすら顔に乾いた笑みを張り付けている間に、俺の顔みせ?と挨拶?などは終わったようで、波が引いたように神獣、幻獣たちは居なくなっていた。
残ったのはまだ腕の中で寝ているケットシーの子供の子猫とその親御さん達、それに他の精霊たちや最初からいたオルトロスだけだ。
ほーーーーーーっと長いため息を一つ漏らしてしまった。
やっぱりさぁ。皆、こう、想像していたようなファンタジー定番の神獣や幻獣たちだったし、それは素晴らしいもふもふな毛並みだったけどさぁ。こう、存在感が違う、というか威圧というか、圧が違うんだよなぁ。オルトロスなんかは、そこは最初から調節してくれていたから、普通に会話も今は出来るけどさぁ。
『どれ、そこなケットシーだけでなく、我が子も抱いておくれ』
『そうだな。ほれ』
そう言いつつ膝の上にそっと双頭な赤ちゃんワンコを乗せられ、思わずそっと頭を撫でつつもふもふしたが、そういえば猫と犬なのはいいのだろうか?まあ、普通の猫と犬じゃなくて、精霊と幻獣だけど。
「……なあ。なんだか大事になった気がするんだけどさ。あの、これから本当かどうかは知らないけど、ド、ドラゴンの赤ちゃんとか、ユニコーンの子供とか、たくさん俺の元に預けられるかもしれないんだろ?皆一緒でも、大丈夫なもんなのか?」
俺がドラゴンやユニコーンの子供の世話をできるか、なんてことは、もうこの際誰にも聞いて貰えないから仕方がない。犬と猫、それにインコは日本ででも接したことはあったが、馬は付き合いで行った競馬場でしか直接見たこともない。当然世話の仕方どころか、何をやってダメなのかも知らないのだ。
『フム?何を心配しているのか分からないが、我らはそこらの獣とは違う。それぞれ自我を持っているのだ。相性はあるが、それだって一緒にいられないとかそういうのはない』
『そうだな。我らは確かに姿形の違いから習性の違いはあるが、おぬしはあまりそこは気にしなくてもいい。ただ子供らを愛しんでくれるだけでいいのだ』
まあ、本当にただ愛でていればいいなら、俺も気楽に応えられるけどな。もふもふと戯れているだけでいい、なんて最高だしな!あ、俺はもふもふした毛並みは大好きだけど、別に鱗が苦手な訳でもないからドラゴンだって接するのは問題ないぞ。子供の頃はトカゲやカナヘビを良くつかまえていたしな。ああ、亀も平気だぞ!
『ああ、そうだイツキ。やはり皆、この聖地ならということだったからな。丁度その場とこの地を繋げているからそのままにして、そこにお前が言う屋根のある建物を建ててやろう』
「ええっ!ここに、建ててくれるのか?……嬉しいけど、でも、どうやって?建築の知識なんて、俺もうっすらとしかないぞ?」
テレビとかでログハウスや小屋くらいなら、建てているところを見たことはあるからなんとなく手順も分かるけど、でもここには重機というかノコギリさえないからな……。
マジックバッグの中には鉈や斧も入っていたが、それだって木を伐る用の物ではない、枝を払う時に使う為の物だった。鉈と斧で素人の俺が木を伐採できるかと言われたら、材木に出来そうな太い木は確実に無理だ。それに……。
「……それに、この森の木には、ドライアードが宿っているんじゃないのか?小さなスプライトたちもいるし、あまり木を伐採するのも気が進まないんだけど」
ドライアードの姿はまだ見たことがなかったが、スプライトたちはいつも森へ入ると姿を現してくれる。薬草や野草などを採る時は根からは抜かないので、スプライトたちもどうぞどうぞと勧めてくれていたから気軽に採ることもできたが。木は、ましてや材木にする程の樹齢となると、ドライアードが宿る木も多い気がするんだよな。
『それか。なら、直接ドライアードに聞いてみよう。丁度、そこの大木の上にどうかと思っていたしな』
へ?聞いてみる?それに大木の上って、ツリーハウスってことか!
アーシュの言葉を理解しようと四苦八苦している間に、聖地から飛んできたアーシュが大木の前に降り立った。
『どうだ?ドライアード。俺たちの子の子守りを、この場所でそこのイツキにさせようかと思っているのだが、人は雨に降られるのも弱いらしくてな。木の上に雨風を防ぐ建物を建てても良いだろうか?』
その言葉に、慌てて後ろを振り返って大木の方を見てみると、俺の背丈くらいから二又に別れていた枝がギシギシと音を立てて角度を変えて行くところだった。
「ええええっ!木、木がっ、動いているっ!!」
啞然としている間にもみるみる間にどんどん枝は開いて行き、とうとう160度くらいに開いてしまった。そして別れた枝から一番太い枝が斜め上へと角度を変え、そこから枝がどんどん広がって行った。
そうして気づいた時には、二又に分かれた場所はアーシュが座れる程広く、そして上は枝に覆われて陽ざしを遮っていたのだ。
『これでどうかしら?ここに床板を並べて、枝の間に壁と屋根を少し足せば、十分に雨を凌げるのではないかしら?』
『ほおう、さすがドライアードだ。物知りだな。それで、床と壁、屋根用の木はどうする?』
『ふふふ。私達は木を伐られても脇から新しい命が芽吹くけど、その優しい心遣いがうれしいわ。もう根がダメになったり、魔物たちのせいで倒れた木が森にはあちこちにあるから、そこをスプライトたちに案内させるわ。その木をここまで運んで、ノームとドワーフに頼んで建物を建てて貰ったらいいと思うの。ね、どうかしら?』
そう言ってこちらを見ながら小首を傾げて微笑む美しい美女の姿に、ハッと我に返った。
「ド、ドドドド、ドライアード?う、うわぁ、透けているけど、すっごい美女だなぁ。洋物映画で見た女優よりも、本物の方が雰囲気からして透明感があって、とてもキレイだ……。ああ、本当に現実なのかな?」
我には返ったが、流れるような深緑の蔓枝がからまった足元まである髪、透き通るような薄い翠がかった肌に金茶の瞳、体にはギリシャ神話のような布を纏ったドレス姿のドライアードの姿に、ぽーっとなってしまう。
過去、様々な映画で見た女優と比べても、飛びぬけて美しい。
『あら?美女だなんて、そんなキレイな魂の方に言われると照れてしまうわね。フフフ。私の本体は今、貴方の目の前で姿を変えた木、そのものよ?この姿は精霊として具現化した姿だもの』
「ええっ!じゃ、じゃあ、貴方の上に俺の住居を建てる、ってことですか?そ、そんなっ!俺は貴方の根元でも大丈夫ですよっ!」
途中から自分が何を言っているのか分からなくなる程うろたえ、真っ赤に染まっているだろう顔でバタバタと手を振った。
そのせいで起きてしまったのか、ケットシーの子の子猫に猫パンチを繰り出されたが、それでも正気に戻ることなく思考がどんどんテンパっていく。
う、うわっ、うわわわっ!だ、だって、こんな美女の上?間?にツリーハウスを建てる、なんて、そんな、そんなっ、ダメ、ダメに決まっているだろうっ!なあ!?
『ウフフフ。まあ。あなた、いいわね。気に入ったわ。がいいと言っているのだから、遠慮しないでここに住んでいいのよ?雨期の雨は私の枝でも雨は防げないもの。ね?遠慮なく私の上に住んでちょうだい?』
「う、上っ……ブハッ!!」
顔を寄せて、目の前で嫣然と微笑みながら告げられた言葉に、とうとう頭に登った血が沸騰して、鼻から噴き出した。
その血に、膝の上から子猫と双頭の赤ちゃんワンコからミャウミャウ、クウクウと文句と犬猫パンチを腹にくらったが、その肉球の感触さえ今の俺にはダメだ……。
そのまま気付いた時には背後のドライさえ避けられて、地面に仰向けに倒れ込んでいたのは仕方のないことだと思うのだ。なあ!なんで皆、そんな冷たい目で見るんだよっ!!
****
気づいたら、ドライアードが傾国の美女(色っぽいタイプ)
になってました( ´艸`)
まあ、少しは女っ気もあってもいいかな、と。
(基本精霊は実体はないので、ヒロインとかでは全くないです!からかわれているだけです。おもちゃですね)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます