第16話 なんだか大変なことになって来ました?
『クー?』
『ミュ?』
目を開けると、目の前に小さな双頭の赤ちゃんワンコのアップがあった。
反対方向に揃って首をかしげ、その反動で尻もちをついてピコピコと尻尾を振っている。
な、なにこれっ!!可愛すぎるんですけどーーーーっ!!
思わず俺の仰向けの胸の上でお座りする赤ちゃんワンコなオルトロスの子供をそっと抱きしめつつ頭を撫でてしまったのは、仕方ないと思うのだ!
そっと頭を撫でると、ふんわりとしたまだ薄いうぶ毛のような毛並みにうっとりとする。
ミュークー鳴きつつ嫌がらずに撫でさせてくれ、こちらをじっとまだ開ききらない目で見つめる姿はもう、言いようのない可愛さだ。
『起きたと思ったらそれとは、やはりそなたは図太いの。でも、赤子もそなたを気に入ったようだからこれで安心だ』
『そうだな。ここなら外敵もいないし、朝連れて来て、夜に連れて戻ればよかろう』
上から響いた聞き覚えのあるテノールの声に、へ?と顔を上げると斜め上から覗き込む、こちらはとても大きな顔が二つあった。
そして俺の身体がもふっとしたとてもいいもふもふに埋まっていることにやっと気づく。
「うわぁ!なんと、夢のお腹枕を体験しているなんて!ふわわわぁ。な、なんという至福!」
ここは天国か?あ、いや桃源郷だったっけ?そういえばここは世界樹があったよな。
そこまでぼんやりともふもふな感触を味わいつつぼんやりと思った時、やっと今がそんな場合ではないのでは?と気づく。
「あれ?俺、気を失ったんだっけ?」
何度も倒れかけて、とうとう最後にフラリと倒れた記憶はある。でも、その時には背中にドライがいた筈だ。
『ああ、フェニックスの子供たちか?ほれ、そこらにいるぞ』
そう言われて改めて周囲を見回すと、さっきまで土砂降りだった雨は上がり、晴れた空には虹がかかって見えた。
な、なんだここ……。花畑は雨あがりでキラキラ輝いているし、それに世界樹に虹がかかって……。
ああ、ここが天国というか本当の桃源郷か。そうだよな。俺、死んだんだし。ここは異世界じゃなくて、天国だったのか。こんなもふもふ天国なら、満足だよな。
『あっ、イツキー!イツキー、起きたかーー?なあ、俺、お腹減ったから、間食用に持って来た肉、残ってたら出してくれよー!あっ、帰りは父さんが乗せてくれるってーーー!』
……アインス。いや、やっぱり天国じゃないよな。アインス達が天国に来るには早すぎるし、ましてやこんな可愛い生まれたばっかりの赤ちゃんがいるわけないしな。
フウ、とため息をつくと、そっと胸の上の赤ちゃんワンコを抱き上げてそっとオルトロスの体の上に乗せ、隣に置いてあったマジックバッグを手にアインスの方へ歩いて行く。
『おっ!肉なら俺も食うぞ!ここには食べられる物は何もなかったからな!』
……おいおい。こいつらはどこへ行っても変わらないな。世界樹を見ても、何も思わないのだろうか?
「ほら、これだけだぞ。後は戻ってから焼くから、それまでは我慢していてくれよ」
焼いた肉を出す場所に迷い、丁度あった大き目の石の上に重ねておく。するとドライまでいつの間にか加わって啄み出した。
『イツキ、ここに入れたなら、騒いでいた屋根のある建物を建てるか?』
「はあ?アーシュ、何言っているんだよ。ここはお前達神獣が守っている場所なんだろう?そんな場所に俺なんかが住んだらまずいだろうが。そりゃあ、雨期が来る前に、屋根のある建物は欲しいけどさ」
いくらアインス達が雨を弾くとは言っても、雨が何日も降り続いたら、ずっとアインス達の下に潜り込んでいる訳にはいかないからな。岩の合間は洞窟って訳でもないし。こうなったら建物とまでは贅沢は言わないけど、せめて巣のある岩山の崖のところでいいから洞窟を掘って欲しいよな。
一度だけ岩をどかして掘ってみようかと思ったことがあったが、岩山だけに固くて全く掘れなかったのだ。
『ほう?じゃあ、あいつらにも聞いてみればいいんだろう?オルトロスも、イツキはここに居た方が都合がいいのだろうしな?』
『そうだな。ここなら我らの子も安心して置いておけるからな』
ん?んん?やっぱり聞き間違いとかじゃなかったのか?あの赤ちゃんワンコの子守りを俺がするのか?そりゃああんなに可愛い子だから大歓迎だけど、でもあんな赤ちゃんでは、まだ固形物なんて食べられないよな?
そういえばオルトロスは雄だったような気が……と、つついてはいけない闇に踏み込みそうになり、そこは踏みとどまる。
アーシュも雄だが、アインス達の母親の姿はここ三か月の間にも一度も見たことないのだ。
神獣や幻獣なんて不思議生物なんだし、子供の作り方が普通の動物と同じとは限らないよな!
『では、他の奴らにも聞いてみればいいか』
『そうだな。皆こやつのことを気にしていたからな。恐らく皆、こやつを見たら子を連れて来るのではないか?』
……き、聞こえない。聞こえないからな!なんで俺に子供を預けとけ、みたいな感じになっているんだ?しかもこの場所で子守りをするのは、さっき断ったよな?……これも称号かスキルのせいってことなのか?そりゃあ、もふもふは俺的に大歓迎だけども!責任なんて、絶対とれないからな!
ドキドキと心臓に悪い会話を聞き流し、食べ終えて羽を整えているアインス達をけしかけてみる。
「なあ、アインス。これじゃあ足りないだろう?まだお腹空いているんじゃないか?ツヴァイ。ドライも、アーシュに言って、そろそろ戻ってご飯にしよう」
『んーー?まあ、足りないけど、父さんに乗ればすぐに戻れるぞー?』
『そうだな!まだまだ足りないからな!ちょっと言って来るか!』
『……フフフ。イツキも少しは考えましたね?まあ、やってみてもいいですけど、避けるのは無理だと思いますよ?』
こら、ドライ!せっかくツヴァイが乗ってくれたのに!
『なー父さん!俺、腹減ったよ。そろそろ戻ってご飯にしようぜ!』
ドライとこそこそ話している間に、ツヴァイがオルトロスと話すアーシュへと突撃した。
『フム。確かにもうこんな時間だしな。でも、アヤツらにもう声を掛けたから、今帰ったら文句を言われて煩いからな。ちょっと待ってろ、今獲物を獲って来るから。ここでイツキに肉を焼かせればよかろう』
「いやいやいや!よくないだろう!だから、ここは神聖な場所なんだろうがっ!」
『なら、ここの結界の外で焼けばいいだろう。守護の森では肉を焼くのを咎める者は誰もおらんぞ。その間はここと空間を繋いでおくからな。どれ、すぐに戻るからな!』
とっさに怒鳴ったが、まったく聞き入れてくれずに更に怖いことを言いつつあっという間に飛び去ってしまった。
『ほらね、イツキ。父さん、言い出したら聞かないから抵抗するだけ無駄だって。それに、イツキだってもふもふしているのが好きなんだろう?だったらいいんじゃない?』
いや、確かに好きだけど!色んなもふもふとか、撫で比べなんてしたら天国間違いなしだけど!でも、俺の精神的に限界を迎えそうだろうがっ!また、気絶するだろうがっ!しかもさり気なく、心臓に悪いこと言っていたし!空間を繋ぐ?なんだよ、それっ!
『フフフ。そこの、確かドライとかそやつに呼ばれていたか。いい性格しておるの』
『まあ、イツキ。楽しみに待っているといい。我らのように、もふもふ言いながら撫でまわせばいいではないか』
いやいやいや、オルトロスも何言っちゃってるの!いや、ミュー?とか言ってる赤ちゃんワンコは可愛すぎるけど!なあ、俺、精神的にストレスで死なないよな!
世界樹を背景に、輝く花畑の中を走り回る真っ赤なアインスの姿は幻想的だったが、さすがの俺でもこれからのことに心に不安が重くのしかかるのだった。
****
新しいもふもふは次回に持ち越しにしました!
体調は今日は少し涼しかったので持ち直してきましたが、まだわかりません。
よろしくお願いします<(_ _)>
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