第9話 俺にも魔力があるようです?
オルトロスに出会った日。巣に戻ってから雛たちの為にまたひたすら肉を焼き、満足してまた雛たちが眠った後、マジックバッグの中身を確認した。
名称だけでは分からない物は一度取り出し、魔物の部位など以外の生活に使えそうな物を全て確認すると、野営道具一式と、魔道具と呼ばれる道具も出て来た。そして目的の本も、植物と魔物の図鑑を無事に見つけることができた。
魔道具は魔力を使った道具で、中は魔法陣と魔石と呼ばれる鉱石で構成されていた。起動には少量の魔力が必要だとアーシュに聞き、俺に使えるかドキドキしながら入っていた火を起こす魔道具を使ってみると、無事に起動して火を起こすことができた。
その時は思わず飛び跳ねて喜んでしまったら、まあ、当然の如く「子供たちが起きるだろうが!」とアーシュに蹴り飛ばされたよ……。
それで平静を取り戻してから、改めて魔法について聞いてみた。
うん。なんだかこの世界で気づいてから怒涛の展開で、そんな基本的なこともアーシュに聞くのを忘れていたんだ。まあ、とりあえず衣食住の確保の方が重要だよな!……まあ、斎藤樹のままの自我だからか、無意識に自分には使えないだろう、って思ってたってのもあったんだけどな。
「なあ、アーシュ。魔力があるなら、この世界には魔法もあるんだよな?」
『……今更か?俺が毎回火をつけていたのも、魔法だったぞ。まあ、いい。お前がすっとぼけていることには、そろそろ慣れてきたからな』
「すっとぼけ……。ま、まあ、今までの俺の行動を考えると否定できないというか、なんというか……。でも、いきなり死んだと思ったらこの世界にいて、すぐにアーシュに連れて来られてテンパッたのは仕方ないと思うんだけどなぁ。って、いや、また脇道にそれた。で、魔道具を俺が使えた、ってことは、俺には魔力がある、ってことでいいのか?」
俺の魂が元々この世界産だから、可能性としてはあると考えてはいたんだけどな。ただ、日本人の自我が受け入れられるか、ってことは疑問だったのだが。
小説や漫画の設定の定番だと、大抵いきなり体の中に今まで一度も感じたことのない力を感じて、それを把握して自在に動かして、それを外へ出して火や水を出せ!となる。
だってなぁ。物語としては想像できるし、映像だってアニメを思い浮かべればすぐにできるけど、その主人公を自分に置き換える、となったら「無理じゃね?」とならないか?俺は自分がバンバン炎の竜巻とか水の壁とか出している姿なんて、イメージも出来ないぞ?
『ああ、あるぞ。この世界では、全ての物が魔力を宿しているからな。そこら辺に転がっている石にだって魔力は宿っているぞ』
ふむふむ。じゃあ、自分がどういう存在かは未だに謎だが、とりあえずこの世界に存在している以上、魔力を持っているのは間違いない、ってことか。
「なあ、俺が持っている魔力量って分かるか?もしかして普通の人が持っている量よりも多かったり?」
『俺が人の魔力保有量など知る訳がないだろうが。俺からしたら、人は誰でも同じだ。ただ、この世界では確かに個々の魔力の保有量の差はあるが、基本的に食事や呼吸からでも魔力を身体に取り込むから、保有量よりも自分の魔力への変換効率の差の方が重要だな』
ほほーーーう!じゃあ、魔力を使っても、食事をしたり呼吸、っていうか休憩をしていれば回復する、ってことだな!魔力回復薬はいらない世界なんだな!
……ちょっとだけ自分が特別じゃないか、とか思ってしまったことにはツッこまないでくれ。オルトロスに存在が変わっているって言われて、ちょっとだけ特別か、なんて思ってしまっただけだから!所詮、俺は俺、ってことだよな。うん。
でも、魔力がいつでも回復するのはありがたいよな。俺の保有量が少なくても、元々魔力を使うことに馴染みがないんだから不足することは心配しなくても良さそうだし。
まあ、その前に魔力を使って魔法を使えるようにならないとそんな心配もいらないんだけどなっ!!
「成程ね。あと、魔法って誰でも使えるのか?こう、人によって適性があって、その適性以外の魔法は使えない、とか」
『はあ?確かに俺はフェニックスだから属性は火だが、水も出せるし風も動かせるぞ?一番自由に動かせるのは火だがな』
「なら、人も得意不得意はあっても、どんな魔法でも使える、ってことか?」
『そうじゃないのか?そういう細かいことはオルトロスの方が知っているからな。次に会ったら聞いてみるといいぞ』
フム。確かにさっきも俺が食べられる物を一瞬で集めてくれたもんな。フェニックスのアーシュよりも、人を知っているのかもな。でも次って……。子供が出来た時、とかか?それって俺が生きているうちなのか?
「……なあ、とりあえず魔力の感じ方から教えてくれないか?」
面倒だとか、人の感じ方など知らん、とかブツブツ文句を言っていたアーシュをなんとか拝み倒して、体の中の自分の魔力の感じ方を教えて貰った。ただ。
『呼吸をして体を通すとカーッと熱くなる。その時にはもう俺の魔力に変換しているな』
とか、正しく、「考えるな、感じろ!」的脳筋理論だったから、魔力を感じるまでにこの一月かかってしまった。やっと最近、アーシュが雛たちに獲って来る魔力たっぷりな魔物の肉を食べていると、体に魔力が入って来る感覚がなんとなく感じることが出来るようになった。
『イツキー!イツキー!』
『なあ、なあ、イツキー!崖上行かないのか?上ー!』
『……行くなら腹が減る前にしてくれ』
「おう、ありがとう!じゃあ、今日はツヴァイに乗せてもらう番だったよな?」
『おう、そうだぞ!ホラ、乗って乗って!』
俺が死んでこの世界へ来て、一月ちょっと経ち、最初はピィピィ鳴くだけだった雛たちは会話が出来るようになった。いきなり話し出した時には驚いたけどな!
ずんぐりむっくりだったまんまヒヨコ体型だった体も、シュッとして首が細くなって少しくびれが出来てきた。今では俺よりも頭二つ分くらい大きい。
一週間もすると雛たちの個性から見分けがハッキリつくようになった時、神獣は成獣になる時に真名をつけると聞いて、許可をとって呼び名をつけた。まあ、ありきたりだけどドイツ語の数字でアインス、ツヴァイ、ドライだ。
いつも一番に飛び出して行くのがアインス、元気が良くてまんま脳筋キャラなツヴァイ、そして一人?いつでも沈着冷静なドライ、だ。
最初の頃は何度かアーシュに崖上まで連れて行って貰っていたが、毎回池に落とされるので文句を言っていたら、雛たちが俺のことを乗せて上まで行く!と言ってくれたのだ。
その頃には巣からピョンと跳ねて出られるようになっていたので、訓練にもなる、ということでピョンピョン跳ねつつ崖登り、とあいなったのだ。
「よーし、じゃあ、乗るぞ!」
しゃがんだツヴァイの背にまたがり、首にスカーフ状に布を巻いてそれを手綱かわりにしっかりと持つ。
『じゃあ、行くよーーっ!!』
「うわっ!おい、ゆっくりな!俺が乗っている時はゆっくりだからな!」
首に手を回し、布を握った瞬間、ツヴァイがピョンッ!と跳ねた。そしてそのまま跳ねながら岩場の方へ向かって行く。
『だって、アインスもドライも先行っちゃったし!急がないと!』
「うわっ!ちょっ!いやいや、どうせ上で待っているから、ゆっくりだってーーーっ!うわぁああっ!!」
まるでロデオのように跳ねまわるツヴァイの背と、アーシュの脚に摑まれて池に放り込まれるのと。果たしてどっちが良かったのかは、あえて言及はしない……。
***
明日も更新できそうです。
明後日からは体調と相談しながらになるかと思います。
(大丈夫そうだったら更新を継続します)
どうぞよろしくお願いします!
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