第8話 オルトロスはいい幻獣さんなようです?

 アーシュとオルトロスの口論が終わるまで、俺はひたすらもふもふを堪能していた。


 是非とも夢だったお腹に背を預けてごろっと横たわりたいが、さすがにそれを申し出るのは俺も図々しいと分かっていたので、胸毛に埋まって満足したぞ!いやー、最高だった!


『そういえば、ここで何をしていたんだ?ここに着いた時には、なんだかエラフシアに取り込まれそうになっていたから、とりあえず助けたが』

「あ、ああっ!やっぱりさっきのって、食べられかけた、とかだったのか!赤くて大きな果実を見つけて手を伸ばしたら、気づいた時にはああなってたんだ」


 そういえば、すっかりオルトロスの登場で忘れていたが、あれは食虫植物、いやこの場合は食肉植物になるのか?だったってことか。もしくはあれも魔物の一種なのかもしれないが。


『お主、わかってなかったのか……。ポツンと一つだけ果実が実っていたり花が咲いていたりしたら、それはほぼ疑似餌だぞ。子供でもあれに手を出す物はおらんと思っていたが……』

「いやぁ。俺の世界にも、確かに虫を食べる植物は存在していたけど、身近な場所には人を飲み込むような植物は存在してなかったからなぁ。植物のことは、すっかり警戒してなかったんだよ」


 まあ、考えれば異世界なんだから、何が起っても不思議じゃない。さっきは果物だったけど、もしかしたら草でも人を襲う種類もいるかもしれないものなぁ。さすがに一つ一つ危ない物をアーシュに教えて貰うのは無理だから、図鑑かせめて本がないかマジックバッグを探してみるかな。


 昨日から怒涛の展開過ぎて、マジックバッグの中身はとりあえず食事関係と着替えくらいしか確認していなかったのだ。


『ふむ。お主はやはり異世界からの出戻りか。面白い!よし、我はまだ子はいないが、子が出来たら連れて来るから、子守りを頼もう』

『むう……。まあ、ここに連れて来るのなら、それくらいは妥協しよう。後継者の重要性も、今の状況での子育ての大変さも分かるからな』

『うむ。もう半分後継者を諦めていたからな。でも、こやつがいるならもう一度試してみても悪くはない』


 ……えええええぇえっ!ちょっと、待って!確かにアーシュには子守りとして連れてこられたけど、そんなに期待されてたのかっ!?そんな重要なことだなんて、思ってもいなかったんだけど。ただの子守りだよな?俺に期待されても、保育士でも無かったし特別なことはできないぞ!


「俺は子育てなんて今までしたことないし、子育ての知識なんてないぞ!子犬から育てたことはあるが、神獣や幻獣をだなんて、そんな期待されても困るんだけどっ!」

『フン。お前はただ、子供たちと一緒に過ごしていればいいのだ。さあ、こうしている間にそろそろ子供たちが起きる頃だ。腹を空かせて鳴く前に戻るぞ』

「ええっ!結局まだ何も見つけていないのに……。また三食肉か……。食べられるだけありがたいんだけどさ」


 次にアーシュが気が向くのはいつだろうか。とりあえず雛たちが寝たら、本を探してみないとな。俺が食べられる物を探すだけでも、かなり大変そうだ。


『ふむ。ここには食べ物を探しに来たのか?どれ、ちょっとだけ待っておれ』


 ガックリと崩れ落ちた俺を見て、オルトロスがそう言って目の前から消えた。


「え?」


 恐らく走ってどこかへ行ったのだろうけど、本当に一瞬で目の前から消えたのに、足元の草さえそのままで、思わず今までオルトロスが居た場所を四つん這いでペタペタと触って確かめてしまった。

 風圧も何も感じなかったんだけど!どうなっているんだ?


『戻ったぞ。とりあえず果物と芋を持って来たが、これは人が食べられる物だった筈だ』

『うむ。毒はないから、食えるのではないか?ホラ、さっさと受け取れ。戻るぞ』


 ドサドサッと何かが落ちる音と、今消えた筈のオルトロスの声がすぐ後ろからして、四つん這いのまま文字通りビクッと飛び上がってしまった。

 そうして恐る恐る後ろを振り向いてみると、足元に色とりどりの果物と土と茎がついたままの芋の山を築いたオルトロスの姿があった。


「えええっ!今、行ったばかりなのに、そんなに採って来てくれたのかっ!」


 ど、どうやって?!


『我は鼻がいいからの。そこのフェニックスよりも小回りがきくから森へ入るのも容易いしな。これだけあれば、しばらく食べられるのではないか?』

「あ、ありがとうございますっ!これだけあれば、確かにしばらく肉以外の料理を作れます!」


 無意識に敬語になっちゃったよ!でも、本当にありがたい。芋があれば、芋と肉でスープも作れるから、すいとんを入れればしばらく耐えられそうだ。

 しっかりと頭を下げてお礼を言うと、マジックバッグへ果物と芋をそのまま全て入れる。

 すると、すぐにまた衝撃と共に身体が浮き、ガシッとアーシュの脚に摑まれる。


『ではな。さあ、子供たちの元へ戻るぞ!』

「あっ!これだと、着地はどうするんだよっ!」


 そのままヒラリと空へ羽ばたき、そのまま崖を下降し始めたアーシュに、着地の時にいつも放り投げられていることを思い出した。

 昨日は雛たちの方へ投げてくれたから無事に?着地できたし、さっきは池へ放り込まれたけど、雛たちがまだ寝ていたらだれも受け止めてくれないんじゃ!!


「おっ、おいっ!ちょっ、ちょっと待てって!」


 そういう間にすぐに巣と寝ている雛たちの姿がどんどん大きくなって来て。

 うわあああぁあああ!と心で潰れた自分を想像して叫んでいると。


『フン。そう騒ぐな。雛たちが大きくなる前にお前に死なれても困るからな。面倒だがちゃんと考えておるわ』


 すると一度巣のある崖を通りこし、下降のスピードを殺してからふんわりと上昇しそのまま地面へとポトンと落とされた。


「いてっ!って……そんなに痛くないな。ふう。なあ、優しく着地できるなら、さっきもそうしてくれたら良かったじゃないか」

『いちいち気を使うのは面倒だろうが。ほら、お前が騒ぐから雛たちが起き出したようだぞ。俺は獲物を獲りに行って来るからな。しっかり世話をするのだ』


「「「「……ピュイーーー?ピィッ!!」」」

「あ、おおお。起きちゃったか。ごめんよ。でも、起きた傍から元気だな……。まあ、いいか。今支度するから、ちょっと待ってくれよ」


 目を開けて少しだけぼんやりしていたのに、すぐに元気に鳴き出した雛たちに、自然と笑みがこぼれる。

 まあ、こいつらも可愛いしな。でも、肉を焼く前に、このねばつくのを洗いたいな……。


 獲物を獲りに行く前に枝にアーシュが火をつけて行ってくれたから、その火でかまどに火をつけ、石を焼いている間に崖の水場へ行って頭から水を浴びて洗った。

 そうしている間もピィピィ鳴く雛たちにせかされて、その後はまたひたすら肉を切って焼き続け、自分用にスープを作れたのはしばらく経ってからだった。



***

なんとか書けているので、毎日更新続行です。

(来週あたりは抜ける日があると思います)

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