第5話 どうやら俺はイレギュラーのようです?

 それからはてんやわんやで真っ赤な赤い親鳥、改め神獣フェニックスに色々聞いてみたところ。


 この世界にはもう神様はおらず、神獣と幻獣が神様に任されてこの世界のことを見守っているそうだ。ただ、最近は国同士の戦争が相次ぎ、世界がかなり荒れている状態で、神への祈りも届かず神獣や幻獣たちも力を落としている。


 そして神獣と幻獣は不死ではなく、代替わりをするが、世界情勢の影響で子供が成獣まで育たず困っていた。そこに俺がこの世界に落ちて?来て、これ幸いと捕獲された、と。


「じゃあ、急に言葉が翻訳されたり、言葉が急に通じるようになったのは?」

『俺が能力を授けたからだ。言葉が通じないと、埒が明かなかったからな』


 まあ、そうではないかとは思っていたんだけど、はっきり確認するのも怖かったんだよな……。もう今更だから聞いてしまうが。


「それはありがとうございます。助かりました。ええと……そういえば、なんとお呼びすればいいのでしょう?神獣フェニックス様、ですか?」


 心の中では親鳥呼びだったが、まさか本人を前にしてそう呼びかける訳にもいかない。神獣フェニックスというのならば、名前もあるだろう。そう思って聞いてみると。


『今更丁寧な言葉など使うな。気持ち悪い。俺はそんなのは気にしない。神獣だからといって、人に敬われている訳でもないからな。名前は……そうだな。真名を名乗る訳にもいかないから、アーシュとでも呼べ。ところで、本来は名前を聞く前に、自分から名乗るものではないのか?』


 ほほう。この世界では神獣は人に敬われてはいないのか。というか、もしかしたら人の間では神獣の存在さえ知られていないのかもしれないな。まあ、俺としては敬語を使わなくていい、っていうのは助かるが。


「アーシュ、か。俺は、斎藤樹。斎藤が性で樹が名前だ。だから樹とでも……ん?あれ?今の俺は、斎藤樹でいいのか?」


 顔や体は水に映った姿を確認した限り同じように見えたが、一度死んで魂になったのだ。この体はどうして以前の姿のままなんだ?


『まあ、そうだともいえるし、そうともいえないな。ただ、この世界はお前の魂の生まれた世界だから、その魂に引きずられてその身体はできたようだから、自我以外はこの世界の物ともいえるな。だから好きに名乗ればいいんじゃないか?』


 うん?魂がこの世界へころがり落ちた時に、その魂に引きずられてこの身体ができたってことは、これは小説でいうところの転移のような転生、ってところか。うーん、まあ、考えても仕方ないか。今ここに俺がいる、ただそれだけは現実なんだしな。


「じゃあ、ただのイツキにするよ。俺の家族はこの世界にいないから、名前だけな」


 ふっと田舎に住む両親のことを思い出したが、死んだ俺にはどうにもできないことだ。


 まあ兄貴がいるしな。俺はどうせ当てにされてなかったし、悲しんでいるかもしれないが、保険金を老後の資金の足しにしてくれたらいい。


「そうだ。それでアーシュ、なんか俺に称号とかスキルがあったからとかさっき言ってたよな?」


 なんだか話がまた遠回りになったが、なんだっけ。『魂のゆりかご』?とかいう称号があるから、こうしてアーシュに拾われたんだよな?


『いちいち説明するのも面倒だ。その内わかるだろう。自分で色々試してみろ。とにかく、お前は子供達の面倒を見てくれたらいい。後で崖の上にも連れて行ってやる』


 色々自分で試す、って何をやったらいいんだ?……まあ、ぼちぼちやっていけばいいか。確かに一気に色々言われても、混乱するだけだしな。


「あ、ああ。それは助かる。あっ、そうだ。雛たちの面倒は、どうみたらいいのか分からないけど、アーシュのご飯も肉を焼いて用意した方がいいのか?」

『いや、神獣が食べ物を必要とするのは、子供の頃だけだ。俺は食べ物は必要とせん。……まあ、お前が食べる物を、お前の食べる分と同じだけ用意してくれたらいい』


 お?それは、人の食べ物には興味がある、ってことかな?まあ、でもそれで崖の上へ連れて行ってくれるっていうならいいか。毎日肉だけ、ってのはさすがにつらいしな。


「ああ、わかった。じゃあ、俺の分を今から焼くから、その分を半分やるよ。塩だけでなく、香辛料もカバンに入ってたしな。崖の上で食べられる物を色々手に入ったらいいんだが」


 どんどんアーシュに料理を食べさせれば、人の料理に興味を持って、色々手に入れて来てくれるようになるかもしれないしな。下心があることなんて筒抜けだろうが、どうせなら快適に過ごしたいし。俺はとりあえず雛たちが育つまで、ここに居るみたいだしな。


『フン。気が向いたら、狩りのついでに、また何か見つけたら持って来てやる。さあ、さっさと肉を焼け。じゃないと子共たちが起きるぞ』


 そりゃあ大変だ!また俺が食べる暇が無くなる!


 と大慌てで肉を薄切りにして、塩と香辛料で味付けして焼いたよ。まあ、アーシュが気に入ってくれたのはいいけど、その匂いで雛たちが起きて来て、その肉も寄こせ!って騒がれたのは大変だったけどな……。いくら神獣でも、子供の頃に味付けした料理は食べさせたらまずいだろうしな。



 雛たちの食事は、一日に三度食べればいい、とのことでさっき食べたばかりだから、今食べると食べ過ぎになると聞いたので、とりあえず子守りを仰せつかった立場として、雛たちに抱き着いて落ち着かせた。


 まあ、ふわふわな羽毛に埋もれて役得だった、とかはいいだろう。

 そのまま三匹をそれぞれ順番に撫でていたが、最初は全く見分けがつかなかったが、なんとなくそれぞれの性格の違いに気づいた。


 特に、初めに巣で俺に飛びついた二匹を冷静な目で見ていた雛は、すぐに見わけがついた。騒がしい二匹に比べて、肉をくれーーっ!と騒いでいる時以外はこう、大人びているんだよな。


 でも、ピィピィ鳴きながらふわふわな頭を俺に擦り付けるようにすりすりされると、とてもかわいく見えて来るから不思議だ。

 なんでこんなに慕われているのかは知らないが、まあ、アーシュが言っていた称号だかスキルだかに関係しているのだろう。



 そうこうしている内に夕方になり、またアーシュが獲物を獲って来た。

 今度は初めから解体してくれたので、ありがたく肉を切り取って焼いた。


 明日から一日三度も肉を焼くなら、もっとちゃんと石を組んだかまどを作った方がいいだろうな。でも、今日はもうそんな気力はないしな……。


 なんだか色々あった気がするし、狭間で俺がどのくらいさまよっていたかは分からないが、俺の感覚的には今朝列車事故で死んだのだ。

 人生何があるか分からないとはいうけど、今日は色々ありすぎだろう?なんで俺、死んだのにこんな場所で石で肉焼いているんだろう?しかも何の肉か、怖くて聞けないような肉を……。


 思わず眼下に広がる広大な森が夕陽に染まる様をぼーっと遠い目で眺めてしまった。

 まあ、俺が黄昏ている背後では、雛たちが肉をさっさとくれ!とピィピィ鳴いているんだけどな!!


「ホラ、焼けたぞー。すぐにまた次を焼くから、喧嘩すんなよー!」

「「「ピュイーーーーー!」」」


 焼きあがった薄切りにした肉を皿代わりの石に置き、次の肉を焼き石の上にセットすると焼きあがった肉を持って雛たちの元へ行く。

 最初は焼きあがってすぐの熱い肉をあがたらダメなんじゃないか、と思ったんだが、親のアーシュに大丈夫だと言われて雛たちに本当に大丈夫か?と聞いたら、ピィッ!と一声鳴いて火花を飛ばしてみせたのだ。


 あれには驚いたけど、まあ、肉を食べている姿を見ていると忘れるけど、こいつらもフェニックスだもんなー。


 一枚一枚三匹交互に肉を与えつつ、ハグハグ美味しそうに食べる姿をみる。


「よーっし、これで終わりなー。またすぐ次が焼けるから!」


 こうして何度も何度も往復して一枚一枚雛たちに焼いた肉を与え続け、雛たちが満足すると自分の分の肉を焼いて食べた。

 そうこうしている内にすっかり辺りは薄暗くなり、今晩はどこで寝るんだ?と思ったら、アーシュに雛たちのいる巣の中に再び放り投げられた。


「うおおおお……お?」


 最初の再現のように雛たちの頭にポンッと飛ばされ、最後にもふっと着地したのは、三匹の雛の真ん中の羽の中だった。


「おほぉーーーっ!ふっわふわ!もっふもふやーー!」


 思わず変な声が出てしまったが、うるさい!とばかりにふわふわな雛の頭のすりすり攻撃に撃沈し、そのまま温もりに包まれて気づくと寝ていたのだった。




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