第4話 料理番、兼、子守りだったようです?

 カバンの中には、欲しい物が全て入っていた。


 ナイフは手の平くらいの小さい物からショートソードサイズの大きい物まで。それに鍋にお皿やフォークなどの食器類も一通りあったし、着替えやテントなども入っていた。

 何といってもうれしかったのは、塩と砂糖や香辛料や小麦粉まで入っていたことだ!!


 思わずうれしくて叫んでしまったが、すぐにこれは賞味期限的に食べて大丈夫なのか、と気が付いた。


「うーん。これ、どう見ても、持ち主が死しんでから大分経っているよな?かなり痛みが凄いし……。どのくらい前の荷物なのかな?」


 親鳥が今の短期間で往復して拾って来たカバンなら、この森の中に放置されていた物、ということだ。だからまあ、持ち主が遥か昔に亡くなっているだろうことは容易に想像できるのだが。

 皮で作られたカバンなのに、色が変わっているどころかあちこち乾燥して剥がれていたり、逆に蕩けて穴が開いていたりしている。これで中身が出ないのは、恐らく魔法で作られたからなのだろう。


『そのカバンは上級のマジックバッグだ。中身は経年劣化はしない。だから森にあったのを思い出して持って来たんだ。ホラ、必要な物を持って来てやったんだから、さっさと肉を焼け。我が子たちが待ちわびているではないか』


 ああ……。耳には変わらずに「ピィーーーーーーッ!」という甲高い鳴き声が聞こえるのに、頭の中に響くこの重低音。やっぱりこの親鳥が話しているんだよな……。


「母親だと思ったら、父親だったんですね……」

「ピィイッ!!」


 思わずそう呟いたら、今度は鳴き声だけでドカッと脚で蹴り飛ばされた。

 痛い……。痛いけど、これもある意味凄いよな。普通に蹴ったら、今頃俺はスプラッタだもんな。この、俺が痛いと感じるくらいの手加減さで蹴る、とか、どんな職人芸か。


 そんな余計なことを考えていることが分かったのか、今度は鳴き声もなく、思いっきり嘴でつつかれそうになってしまった。


「わかった、わかったから!今、焼くよ!雛たちの分を焼けばいいんだろ?」

『ホラ、さっさとしろ。肉は今獲って来るからな』


 さすがにこれ以上痛いのは嫌なので、包丁程の大きさのナイフとまな板をカバンから取り出すと、さっき置かれた大きな肉を切り分け始める。

 するとそれを満足そうに見てから、飛び去って行った親鳥の言葉に、もしかしたらこれ、ヘタしたら親鳥の分まで焼かされるのか?とげんなりしてしまった。一人暮らしをしていたが、そこは男の独り者、最低限の料理は作れるし料理するのは嫌いではないが好きでもない。


 でも、ここから逃げても空からすぐに見つけられてしまうだろうし。なら、食べる物を貰える分、ここにいた方がましだ、と諦めて作業を続けた。


 そうして肉を切り分けては焼き、焼きあがったら雛たちへと運び、をひたすら繰り返し、薪用に持って来た巣の枝が全てなくなり足したのが二度、やっと雛たちは満足したのか、三匹丸まって寝てしまった。


「ふう……。やっと、食べられるな……」


 一度焼いた肉を渡したら、更に雛たちの騒ぎが大きくなり、自分の分を食べるどころでは無かったのだ。

 結局肉も、先に雛たちがついばんでいた獲物の分はすっかり無くなり、次に親鳥が運んで来た獲物も半分程なくなっていた。

 どちらの獲物も、優に俺の何倍もの大きさだったから、どれだけ俺が肉を焼いたか分かってくれるだろうか。


 因みに獲物を丸まる俺の前に置かれ、スパッと切り裂かれた傷口からはみ出る内臓に俺がこらえきれずに吐いたら、親鳥がすごい目つきで睨んできたが、鋭い爪と嘴で器用に皮を剥いで内臓を取り出して俺に見えないように雛と分けて食べてくれた。

 それでも丸まるとした、姿形がそのままの肉がドンと置かれた訳だが、さすがにそれ以上ぐだぐだやっていたら親鳥に嘴でつつかれるので、なるべく見ないように焼く分の肉だけを毎回ナイフで切りとっていたよ。


 俺は、そこそこ都会育ちの元日本人。テレビで動物の捕食シーンを直視できない程のヘタレなのだ。これでもかなり頑張ったよな!!

 ……だから、そんな目で見ないで貰えますかねぇ?この世界で俺が一人で生きて行くのは無理だって、身を持って実感したので。


『……それも美味そうだな。少し寄こせ』

「……いいですけど、貴方が食べる分、全て味付けをしたらすぐに塩も無くなるから、できたら岩塩でも見つけて持って来てくれないか?」


 雛だけで相当な量を焼いたからか、さすがに親鳥の分まで焼け、とは言われなかったことに安心していたが、自分の分として塩をもみ込んで焼いた肉にじーっと注がれる視線をかわすことは出来なかったようだ。

 それなら、ともう開き直って要望を言ってみる。


『ふむ。俺はそこまで食わないが……岩塩、か。確かこの山の反対側の崖にあったな』

「……ついでに言うと、人は肉だけ食べていたら、栄養が偏って病気になる。この辺りに肉以外の食べ物はないのか?」

『要望が多いな。確かこの崖の上に、果物が実っている小さな森があるぞ。ここを登れば行けるが』


 そう言われて羽で示されたのは、親鳥のいる場所の更に奥。よく目をこらすと、確かにそこだけ崖は崖でも角度が緩やかで、無理をすれば登れそうな感じではある。


「って、アホかーーーーっ!こんな場所でロッククライミングなんてしたら、一瞬で落ちて死ぬから!俺は運動なんてここしばらくやってないから、体力だってないんだからなっ!!」


 威張って言うことではないが、休日に外へ出るのは食料品の買い出しくらいで、家事を済ませた後はごろごろしながら無料小説サイトを読んでいた。日々の通勤で歩いてはいたが、それだって五キロも歩けばへとへとだろう。

 どう考えてもサバイバルなんてしたら、一日と経たずに死ぬ未来しかない、それが俺だ!


『また我儘か。面倒な。……しかし、お前は、変なヤツだな。最初はビクビクしていたのに、何でそこで開き直れるのだ?』

「いや、どうせ一度死んでるしな。もう、いつ死んでもいいか、と思ったら、何でもよくならないか?」


 まあ、怖い物はない、とかは言えないがな。実際にさっきから何度も怖い目にあっているし。いくら死んでもいいか、と開き直ったところで、怖い物がなくなる訳ではないが。


『フウ……。まあ、いい。元々変なヤツがいる、と思ってお前をここに連れて来たんだしな。いいか、お前はここで子供たちの面倒をみるんだ』

「あの……。それなんだが、何で俺を拾ってまで子育てをさせるんだ?ほら、俺は今の雛と同じくらいの大きさしかないし、少しでも育ったら世話どころか踏まれただけで死ぬけど?それに貴方がいるなら、俺が子育てする必要はないんじゃ……?」


 確かにさっきまで雛たちの分の肉を焼いて食べさせていたが、今まではずっと生肉のまま食べていたのだ。


『それはな、お前が「魂のゆりかご」というけったいな称号を持っていたからだ。それに「子守り」スキルも持っているしな。お前になら、この神獣フェニックスの幼体も育てられるだろうからだ』


 へ?魂のゆりかご?子守り?ってなんだ?いや、子守りは子守りだろうけど、別に俺は子供好きって訳ではないぞ。確かに同じアパートに住んでる子供たちに、たまに遊ぼう!と誘われて遊んだりはしていたが。

 っていうか。


「ええーーーーーっ!称号とか、スキルとか!もしかしてこの世界ってステータスがあったのかよっ!!」


 一瞬ステータス!とか言いたくなったけど、この年になったら痛いじゃすまないから、やらなかったのに!


「ス、ステータスっ!……あれ?何も出ないぞ?ステータスオープンか?……出ないな。あとは何があったっけ?」


 頭の中で、過去に読んだ小説を思い出しつつ、テンプレのパターンを探っていると。


『いや、お前……。気になるところがそこなのか。そのステータス、とやらがお前の状態のことを言っているのなら、人がそんなの見れる訳がないだろう。神獣や幻獣だけが見れるものだぞ?』


 ああ、そうか。やっぱり小説じゃないんだから、ステータスとか、鑑定とか、そんな便利な能力を人がホイホイ見れる訳はないよな。


「あれ?じゃあ、個人じゃ自分がどんな称号やスキルを持っているか知れないのか。それはせっかく異世界だってのに残念だ。でも貴方なら、あれ、神獣?神獣フェニックス……って、もしかして神の使いとかそんな存在かっ!!」


『って、反応が遅いわーーーーーーっ!鈍いにも程があるぞっ!!』


 


 

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