第4話
初出社は面接から一週間後であった。指定された時間は正午とかなり遅めだ。
会社に向かい再び制作部へと掛け、今度は奥にあるデスクが並んでいるスペースへ入っていく。
ずらりと横に並んでいるデスクにはメタルラックの棚が設置してあり、大きめの茶封筒や水色の用紙などが置いていて、かなり雑然としていた。
この時間にも関わらず、人は少なく、面接で会った三人の他に二人程しかいなかった。しかし、その二人の内一人は机に突っ伏して寝ており、もう一人は椅子を全開までリクライニングしてタオルを顔に乗せて眠っていた。
その惨状に、「あっ、これはヤバい会社だ」と一目で思ってしまった。冷や汗をかいていると、 面接のときのショートカットの女性、石井久美子と長身痩躯の藤村宗太が出迎えてくれた。結弦は慌てて焦りを隠す。
石井はプロデューサー、藤村は制作デスクという役職だ。プロデューサーは現場の組み立てや予算の管理を行う。制作デスクは中々聞きなれない役職だが簡単に言うと中間管理職。プロデューサーが組み立てた現場を管理して納品までを行う現場監督的なポジションとのことだ。
「早速だけど、会社見学し終わったら、藤村君と一緒に外回りに行ってもらおうかな」と石井に言われ会社見学が始まった。
まずは今いる制作部を案内される。結弦の席は入って手前側一番右端の席を割り当てられていた。結弦の並びが石井率いる石井班、その向かいの列が面接時に顔を合わせたもう一人のプロデューサーである太田の太田班に分かれていた。この二班が中心となりアストラルではアニメを制作している。
その後上の階へと向かう。三階は制作フロア、上の四階はクリエイターフロアに分かれている。クリエイターフロアには演出、原画、動画、仕上げ、撮影、美術(背景)、そして最近出来た3DCG部署だ。アニメ制作は絵を作るのに細かく分業制が敷かれ、各々のスペシャリストが作業を淡々とこなしていると説明を受ける。
所謂、アニメーターと言われるのは主にこのクリエイター陣の事を指すが、中でも花形はアニメの根本となる設計図(レイアウト)を描く原画担当だ。アニメーターという言葉は彼らのみを指す言葉としても使われる。
沢山のキャラクターを描き分け、一枚一枚動かし、背景原図と呼ばれる背景のラフ画を描く、正に0を1にする役職だ。と藤村から解説を受けながら各部署を覗いていく。驚いた事に原画は未だに紙、鉛筆、消しゴムで全て人の手で描かれていることだった。その事を藤村に言うと笑われた。
「正しく職人が一枚一枚丁寧に手間暇かけて描いているんだよ。信じられないだろ」
最近は俗にデジタルと呼ばれペイントソフトを使ってPCで描かれる事も増えたらしいが、未だに主流は手描きのアナログ作業らしい。てっきり、全てPC上で自動的に描かれていると漠然と思っていたが考えが甘かった。
どの部署も静謐さを携えている。鉛筆が紙を擦るシュッシュという小気味良い音や、マウスのクリック音。キーボード音が断続的に聞こえる。
クリエイターフロアを出て、初めての業務となる外回りに向かうことになった。用は車での素材回収の事を業界用語でそのように言うらしい。アニメの現場は様々な業界用語が飛び交うらしく、分からなかったらその都度聞いてと藤村に言われた
アニメは社内の人間だけで完結出来ず外部の会社や自宅で作業するフリーランスのアニメーターの力を借りて作られている。ちなみに社内に席を置いているアニメーターも基本フリーランスが中心でプロジェクト毎に口約束で契約を行うのだと言う。
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