第3話
一週間程で書類選考の結果が出た。言葉通り人手が足りてないらしい。
大学の時に購入したリクルートスーツに久々に袖を通し面接へ向かった。
会社は自宅から徒歩15分程で最寄駅からだと10分程。雑居ビルの3、4階に居を構えていた。ビルの表にある駐車場には社名が側面に描かれた白のホンダフィットが2台駐車されている。
面接開始時間の10分前に到着。玄関のガラス戸を開けエレベーターに乗り込む。
降りるとリノリウムの廊下がL字に続いていた。正面には玄関ドア、脇の台の上に電話が設置してあり各部署の直通番号が書かれていた。制作の301をプッシュする。3コールした後に電話が繋がった。女性の声。面接に来た旨を伝え暫くしたらドアが開いた。
入ってすぐはカフェスペースになっており、マグカップが山積みになった流しと電子レンジ、コーヒーメーカー、自動販売機。そして中央には3つ程丸テーブルが置いてあった。一人座っていて、カップ麺の匂いと啜る音が響いていた。
カフェスペースを突っ切って進むとパーテーションに区切られた部屋が幾つかあり、一番奥にはずらりとデスクが並んで見えた。
手前のパーテーションのスペースの一室に通される。室内には白い長机が中央にあり。机の端には液晶モニターが設置してあった。
部屋に通されたときに置かれたユニマットの緑茶を軽く口に含み、面接官が来るのを待つ。5分程待ったら戸が開き、三人が部屋に入って来た。思いの他人数が多かったので少し動揺したがすぐに平静を取り戻した。
30代後半と思われる背の低いショートカットの女性、同じくらいの年齢感の中背で小太りで黒縁眼鏡の男性、最後にまだ20代と思われる長身痩躯で髪に緩やかなパーマがかかった男性という並びだ。
どうぞお座りくださいと声をかけて貰い、椅子に腰を掛ける。
ショートカットの女性が他二人の前に、結弦の履歴書と職務経歴書を置く。
パラパラと二つの用紙をめくる音だけ、ショートカットの女性が口火を開いた。
「わざわざスーツで来てくれたんだね。でも、うち基本は私服だからね。へぇー、自動車会社に勤めていたんだぁ。凄いね」はいと相槌を打つ。
「そんな経歴なのに、何でうちを受けたの?」と問われ、素直に事実を話す。リストラ対象にされたというのはマイナスポイントだが、短期間で退社した経緯をそのまま喋る以外に納得させる理由が思いつかなかったからだ。
「あら世知辛いね」と女性。ふーんと言いながら再び履歴書に目を通す。
「あっ、自宅近くなんだ!」
「はい。今日は歩いてきました」
「ご実家はどこなの?」
「埼玉です」
「ご実家も割と近いんだね。いいね。それでいつから来られる?」
あまりにも急な展開だったので、思わず「えっ?と」聞き返してしまった。
他の二人も気が早いよと苦笑していた。
黒縁眼鏡の男性が優しい声で「リストラされるとは大変だったねぇ」と労ってくれた。長身痩躯の男性からは「体力に自信ある?」とだけ質問された。当然はいと答えた。
その後、志望動機などありふれた内容を質問され、面接は終わった。
結果はメールにて回答させていただきますのでと言われ、アストラルを後にした。
帰宅途中、合格通知のメールが届いた。
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