無人島王子④




無人島に流れ着いた二人はまず船から降りて、船が流れないように砂浜に上げた。


「ランド王子が幼い頃から知り合っていたのですね」


現在は話すだけでは時間が勿体ないと思い、島を見て回っている。 それ程大きな島ではないが、周りを大きくグルリと回ればそれなりの距離がある。

パッと見で無人島ではないかと思っていたランドだったが、やはり歩いてみても誰とも会うことはなかった。


「マリアは気付いていたんじゃない?」

「どうしてですか?」

「流石に外へ遊びにいく時間が長いし、勉強を放り出す日が多かったからさ」


マリアは軽く目を瞑る。 おそらくはそのような日々を思い出しているのだ。 もしかしたらランドが逃げ出したことで怒られたこともあるのかもしれない。


「マリアが一番僕の近くにいたわけだし」

「お城を抜け出すことによって、ランド王子は有意義な時間を過ごすことができたのでしょう?」


ただ彼女はそれを責めたりはしなかった。 理解し受け入れてくれたのだ。


「・・・あぁ」

「なら何も言うことはありません。 ランド王子が危険な目に遭うようなことがないのなら、極力そのご意思を尊重したいと思っておりました」

「ありがとう。 アレンと出会ってからの約二年間は本当に楽しかったんだ」

「二年間もですか・・・」

「そう。 城をこっそりと抜け出すのもスリルがあって、楽しくてさ」

「抜け出す行為が癖にならなかったのだけよかったです。 もっとも成長と共に抜け道も使えなくなったということもあるでしょうが」


身体の成長のこともあるが、アレンとの関係が悪化してから城を抜け出すということをほとんどしなくなった。

ランドが逃げ出すのを憂慮したメイドたちが、ある程度自由に城の外に出るのを許可してくれたためだ。 もっともアレンに会うという目的がなくなり、それもあまりなくなってはいったが。


「無我夢中でたくさん遊んだよ。 たまに泥だらけになって、マリアやメイド長に叱られたこともあったっけ」

「本当ですよ。 ランド王子が姿を消す度に、次はどれだけ洗濯が大変なのかと思い冷や冷やしていました」

「やっぱり気付いていたんじゃないか。 僕が誰かと会って一緒に遊んでいるって」

「・・・」


マリアは何も言わなかった。 それはマリアなりの気遣いだったのだろう。

 

「でも僕が何をしようが、お父様が全てを笑って許してくれたから。 それが嬉しかったのかもしれない」

「・・・そうですね。 王様は心の広いお方ですから」 


父はランドに甘いだけではないということを知っている。 駄目な時は駄目としっかりと叱ってくれる尊敬できる父だった。


「・・・戻ってきましたね」


話していると島を一周し終えたようだ。


「結局誰一人として人に会うことはなかったな」

「はい。 距離がとても短かったように思えました」


ランドは予想していたことが的中したとほぼ確信した。


「・・・やっぱり誰も住んでいる気配はなかった。 無人島ということで間違いなさそうだ」

「全てを見て回ったわけではないですが、その可能性が高そうですね」


あっさりと肯定されてしまった。


「島の中心にも行ってみますか?」


そう言われ島の内側を見てみる。 木が倒れていたり背丈を超えるような草が生えていたりしていて、当然ながら道らしい道はない。


「中心は流石に危険だ。 僕らは探検するような格好ではないんだ」

「では、私が行ってまいりましょう」


尻込みするランドとは裏腹にマリアはスタスタと歩き始めていた。 しかしそれを見過ごすことはできず腕を掴んで止める。


「待った!」


ランドが止めればマリアは無理には動かない。 足を止めると穏やかな表情でランドを見つめている。


「不必要に危険なことはしてほしくない」

「ではこれからどうすると言うのですか?」

「・・・そうだな。 参ったな・・・」


考えているとマリアが思い出したかのように言った。


「一周周っている間に開けた平地のような場所があったのを憶えていますか?」

「あぁ。 あった気がする」

「ではそちらへ向かってみましょう。 もし人が住むとしたらそこしかない。 何かあるのかもしれません」

「分かった」


歩き始めるとマリアが話の続きを促した。


「それでは話の続きを聞かせていただけますか? 私の知らない核心となるところを」

「・・・」

「アレン様と出会ってからの二年後に、何があったのかを」

「・・・そうだね」


二人は歩きながら平地を目指し、ランドは再び続きを話し始める。



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