無人島王子③
アレンと出会ったのはランドが5歳くらいの頃だった。 幼い頃のランドは元気を有り余らせていて、城の者たちに迷惑をかけることなんて日常茶飯事だ。
―――ここが僕だけの抜け道だ!
城は広く子供の身であれば、通れる場所がいくつも存在した。 ランドは王子としての勉強尽くしの毎日に飽きて度々城から逃げ出していた。
―――何日もかけてこの秘密の通路を確保した。
―――僕は凄い。
―――マリアに見つかったら危ないけど、大人のメイドになら見つかっても大丈夫だろう。
そこは簡単に言えば通気口で小さな者しか通れない。 城の中を慌ただしく駆け回っているメイドたちのことをランドは身を潜め窺っていた。
通気口は外へと繋がってはいるが、メイドに見つかれば出口と入り口を待ち伏せされてしまう。 ここを使っているということをバレてはいけないのだ。
「ランド王子はどこ!?」
「早く捜し出して! 王子がいないだなんて緊急事態よ!」
その慌てっぷりを見て笑うと、ランドは通気口を進み城の外へ出て森の中へと走っていった。
―――緊急事態でもないって。
―――抜け出すことは今日が初めてではないし、僕はちゃんと城へ戻っているだろう?
―――だから安心してほしいんだけどなぁ。
いつも外へ出る時には護衛が付いていた。 いや、護衛という名の監視であり、その監視されている日々にランドは苦痛を感じていた。 やはり自由な世界は自由に動き回るに限る。
とはいえその森も国の管理地、というより城の管理地で危険な場所はないよう整備されてはいる。 それがランドも分かっているからこそ自由に遊ばせてほしいと思った。
別に何か危険なことをしようと考えているわけではないのだ。 監視をつけられているというだけで、自身が信用されていないということになり窮屈なのだ。
―――さて・・・。
―――無事に森へ来れたのはいいものの、これからどうしよう?
何か暇を潰せるものがないかと森を探索しているその時だった。 乾いた破裂音に僅か遅れて木々が揺れた。 聞き慣れない音であるがランドはそれが何の音かを知っている。
―――銃声?
―――一体何だろう?
森は城の管理地であるが、基本的には誰でも足を踏み入れることはできる。 だが銃を扱うとなると城からの正式な許可が必要となる。 城の近くだということで気になって音の先を辿った。
―――危ないことだと分かっているけど・・・。
自ら銃声の方へ進むのは危険だが、今は好奇心が勝ってしまった。 日常生活で銃声を聞くことはない。 ランドの教育に銃はまだ取り入れられていないのだ。
「あ・・・」
音の先には同い年くらいの小さな男の子が茂みに身を潜め隠れていた。 これがアレンとの出会いだった。
「ねぇ君! 一体何をし・・・」
声をかけようとしたが状況を見て咄嗟に口を押えた。 アレンの目の前に野良犬がいたのだ。
―――多分、誤って紛れ込んだんだ・・・。
アレンは持っている小さな銃をもう一度撃つ。 小さいとはいえ飛び出した弾は木の皮を確実に弾き飛ばした。
―――外れたけど躊躇いがないだなんて凄い。
野良犬は鉄砲の音を聞くと逃げていった。 同時に野良犬の近くにいた兎も別方向へと逃げていく。
―――もう大丈夫かな・・・?
状況が落ち着いたことを確認するとランドはアレンに近寄った。
「ねぇ君!」
「ッ!?」
突然の登場にアレンはビクリと身体を震わせる。 外したことによる口惜しさと、突然の人の登場に困惑していた。
「あぁ、ごめん。 驚かせるつもりはなかったんだ」
「僕に、何か用・・・?」
怯えているアレンに笑顔で言う。 特に深い意味はないが、思ったことを話してはいけないということはない。 幸いランドは窮屈な王子の服が嫌いでラフな服装を好んでいた。
そのためにアレンはランドを一般市民と思っている。
「君、優しいね!」
「・・・え?」
だがそれでもアレンの服は明らかに汚れていてボロボロだ。 自分とは明らかに身分が違う。 ただランドは知識として身分の違いを知っていても、感情からはあまり気にしていなかったのだ。
それよりも自身の周りにはいない同い年くらいの少年ということに気分を上げていた。
「だって今、兎を助けたんでしょ?」
「兎? ・・・あ、いや別に・・・」
「今のは凄く勇気がいることだよ! 滅多にできることではない」
「・・・」
ランドは素直に感心し、同時に手を差し出していた。
「ねぇ、よかったら僕と友達になってくれないかな?」
「え? どうして・・・?」
「僕には遊び相手がいなくて寂しいんだ」
「・・・僕でいいの?」
「君がいいんだよ。 君はいい人で優しいということが分かったからさ」
そうしてアレンと友達になった。 ずっと城に閉じ込められていたランドにはメイドのマリア以外に気軽に話せる友達がいない。
だがマリアは仲よくはしてくれるが身分の違いを叩き込まれているのか必要以上に距離を詰めてこようとはしない。 それが少しばかり不満で、気兼ねなく接することができるのはアレンが初めてだったのだ。
「友達になってくれてありがとう! 僕の初めての友達だ」
「初めて・・・」
「僕の名前はランド」
「・・・僕の名前はアレン」
「アレンか! これからよろしくね!」
最初は躊躇っていたアレンだったが次第に心を開いてくれた。 それが何よりもランドは嬉しかった。
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