無人島王子②




頬に冷たい感触を受け、目を開けるとそこには青空が広がっていた。 潮の匂いが鼻をくすぐり、枕にする腕には小さな砂粒が付いている。


―――ここは・・・?


波の音が大きく鮮明で、上体を起こすと目の前には一面の海が広がっていた。


―――・・・海?


辺りを見回すと海岸にいることが分かった。 白いボートが波が寄せるに合わせゆらゆらと揺られている。


―――小さな島かな。

―――何故ここへ?

―――僕の最後の記憶は・・・。


考えながら自分の身体へと視線を落とす。 何となくであるが、いつもの窮屈な感じがしなかったためだ。

 

―――あれ?


見ると普段王子として着ていた服が変わっていた。


―――いつもの僕の服と違う!


そして着ている服には見覚えがあった。


―――・・・これはアレンがさっき着ていた服だ。 


アレンは毎日似たような服を着ていた。 それもありすぐに分かった。


―――ということは、僕の服はアレンが今持っている?

―――・・・何か物凄く嫌な予感がする。


そう思うもまずは状況を把握しようと辺りを観察した。 どうやら中型の木製ボートで辿り着いたらしく、船底に横たわっているマリアの姿を発見した。


「マリア!」


マリアは名前を呼ぶとすぐに目を開けた。


「よかった、無事で。 しかし二人共眠った状態でよく辿り着いたものだ」


ランドの声に条件反射できるようになっているのは流石だと感心しながら身を案じた。


「ランド王子・・・。 ここは一体・・・?」

「分からない。 どうやら小さな島のようだ」

「ランド王子が倒れられて、駆け付けた私もやられてしまいました。 無様にも不覚を取ってしまいましたか・・・」


やはりアレンが意図してランドとマリアをここへ流したのだと分かった。 いや、無人島へ辿り着いたのがただの偶然と考えれば、殺してしまおうと考えていたのかもしれない。


―――・・・やっぱりこれは僕のせいか。

―――まだアレンは僕のことを恨んでいたのかな。

―――それなのに僕は何も解決していないのに、またアレンと昔のような関係に戻れると一人喜んで・・・。


ランドはアレンの恨みでここへ流されたのだと悟った。 関わりがなくなってから大分時が経ったとは思うが、大人になってから意趣返しをしたかったのだろうか。 

婚約の儀に合わせてというのが計画的で、ランド王子が突然いなくなれば国として面子が潰れてしまう。 

とはいえ、以前から負い目を感じているランドはこのようなことをされてもアレンに憎しみは沸かなかった。


「まさかこんなことになるとは・・・。 申し訳ありません」

「いや、謝らないでくれ。 それにマリアがいてくれて本当に嬉しい」

「ですが・・・」

「もし僕一人だけだったら途方に暮れていたことだろう」


本当にマリアがいてくれたことで命が救われたと思った。 マリアも一緒にボートに乗せたということはアレンの気遣いなのだろうか。


「この不始末は城へ帰り次第・・・。 いえ、今は現況の回復に努めたいと思います」

「これは僕のせいだ。 ・・・僕だけの事情なのに君も巻き込んでしまった」


マリアはジッとランドを見据える。


「どうしてこうなったのか心当たりがあるのですか?」

「・・・」

「私はランド王子とアレン様に何があったのか詳しく知りません。 話していただけますか?」


悩んだ挙句その言葉に頷いた。 幼馴染でもあるマリアには嬉しいことも辛いことも何でも話してきた。 だがアレンのことについてだけは詳しい話をしなかった。 

だがいつまでも子供のようにはいられないのだ。


「・・・分かった。 こうなってはもう仕方がないよね。 でも何から話せばいいのか・・・」

「アレン様は一体どういう方なのです? ランド王子にとって信用できる人だったのではないですか?」

「僕はそう思っていたんだけど・・・」


マリアはアレンのことを知らないわけではない。 だがそれはあくまで表面的なことを知っているというだけ。 まずはアレンと出会った時のことを話すことにした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る