無人島王子⑤




アレンとの初めての出会いから二年後、ランドとアレンは同じ学校へ入った。


「アレンと同じ学校へ入れて嬉しいよ」

「・・・うん」 


以前は身分によって学校に違いがあったが、ランドの父が王様になってその決まりは変わった。 貴族という制度が廃止されたわけでもないが、少しずつ平等な世の中に近付いていた。

基本的に貴族は庶民を守る立場にあり、それに反せば貴族としての位が剥奪されてしまう。 とはいえ、潜在的な上下関係はあまり変わっていない。

 

―――アレン?


学校に入ってから、アレンの様子が時々おかしいと感じるようになった。


―――どうしたんだろう?


アレンの言動がおかしいというわけではなく、何か問題を抱えているかのような雰囲気だ。 元気のない日も多く、それはいつも一緒にいるランドだからこそすぐ異変に気付けた。

 

―――アレンの成績は優秀だよね。

―――成績以外で何かあったのかな?


アレンはランドと変わらないくらいに勉強熱心だ。 おそらく成績のことではないと思った。


「アレン。 何かあった?」


学校からの帰り道、心配になって尋ねてみた。 帰り道が同じというわけではないため、自ら近付いていったのだ。


「いや・・・」

「僕たち友達でしょ? 何か困ったことがあるなら話してよ」


そう聞くとアレンはチラチラとランドを見てきた。


「ん?」 


するとアレンは言いにくそうに言うのだ。


「その・・・」

「どうしたんだよ?」

「・・・どうして僕と友達になったの?」

「・・・え?」


アレンと友達になったことに理由なんてない。 もちろん誰でもよかったというわけでもない。 考えてもみなかったことに答えを見つけるのは難しい。


「同い年くらいで同性の友達がほしかったからだよ。 一番最初に友達になれたのがアレンでよかったって、本当に思ってる」

「・・・僕が庶民でランドとは身分がまるで違うって、流石に分かっているよね?」


身なりや言葉遣い、当然分かっていた。 というより、王族のランドからしてみれば貴族でさえ身分が下の人間となる。 だからこそ、アレンが庶民であるとか全く気にしていなかった。

だがそれはあくまでランドから見た場合であり、アレンから見たらどう思うのかというのを考えたことがないわけではない。


「・・・うん」 


身分が違って友達になれないとしたら、ランドは誰とも友達になれないということになってしまう。 ただそれを言ったとしてもアレンは納得しないと思えた。


「それなのにどうして僕なんかと友達になったの?」

「どういうこと?」

「王族と庶民が友達って、普通は有り得ないでしょ!?」


『普通は有り得ない』 そう断言され胸がチクリと痛んだ。 ずっと友達だと思っていたランドからは言われたくない言葉だった。


「そうかな? そんなことはないと思うけど」

「どうして?」


必死で否定しアレンを説得する。 それがランドに今できる唯一のことだ。


「僕はお父様から『身分なんて所詮はただの肩書に過ぎない。 誰とでも仲よくできれば国の結束は強くなる』って教わったから」


実際国の方針も身分階級を少しずつなくそうとしていた。 だがアレンはまだ差別を感じているようだった。


「じゃあどうして友達になるのに庶民の僕を選んだの?」

「出会った時に言ったじゃないか。 アレンは優しくていい人だと思ったから」


出会った時、アレンは兎を助けるために銃を撃った。 野良犬に弾を当てることなく追い払ってみせた。 銃を持っている以上狩りに来たのは明白で、野良犬を撃つこともできたはずなのにそうしなかった。

それがランドには心優しく思えたのだ。 だがそれはランドの誤解であったことをこの時知ることになる。


「・・・あの時は兎を助けたんじゃない。 本当は兎を狩ろうとしていたんだ」

「兎を狩る?」

「そう。 野良犬を追い払った後、食糧の兎を狩ろうとしていた」

「そうだったのか!」

「ランドが来たからそれは止めたけど・・・」

「へぇ、カッコ良いね」


興味津々に目を輝かせるランドを見てアレンは不審な目を向けてきた。


「・・・驚かないの?」

「どうして驚く必要があるの?」

「いやだって、王族は兎なんて食べないでしょ?」

「どうしてそう思ったの? 確かに兎を食べたことはないかもしれないけど、獣を獲ることくらいは俺だって知っているよ。 どんな肉だって元々は生きていたということも知っている。

 それを責めようだなんて気持ちは端から持っていないさ」

「・・・」 


本心を伝えてはみたが、アレンはあまり納得していないようだった。 それ以来アレンはランドといる間気まずそうに俯くことが多くなった。 それでも学校ではほとんど行動を共にしている。

アレン自身何か心に引っかかるものでもあるのだろう。 いつも一緒にいることは変わらないが、明らかに口数が少なくなり笑顔もなくなっていた。 



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