第68話 蟻地獄?

 ザガンが作戦の成功を確信した、その時だった。


 ――ドドドドッッッッ!!!!!!


 唐突に爆音が轟いた。

 それはあたかも、数百の大砲を一斉に撃ち放ったかのような轟音だった。


 その音に、皆が腰を抜かしてしゃがみ混んだ。

 ザガンも危うく、腰を落とすところだった


 すんでの所で足を踏ん張り、辺りを見回した。


「なな、なんだ今の音は……?」


 一瞬、自分たちが攻撃されたのかと考え青くなった。

 しかし、辺りに敵の姿はないし、砲弾が飛来することもない。


 折角、これから出撃だというところだったのに、完全に出鼻をくじかれた。

 今の音のおかげで、ファミリーの士気はがた落ちだ。


「チッ。野郎ども――」


 ザガンは舌打ちをして、また士気を上げるべく口を開いた。

 その時だった。


 ――ドドドドド。


 なにか、森の向こうから音が聞こえる。

 足音だ。それも、かなり多い。


「兵士か!?」


 慌ててザガンは短剣を抜いた。

 それに習い、ファミリーたちも武器を抜く。


 迎撃態勢が整った頃、森の向こうから足音の正体が姿を現した。


「――動物?」

「魔物もいるな」

「えっ、ちょっと待てよ、何匹いるんだよ!」

「う……嘘だろ!?」

「ヤベェぞ!!」


 現われたのは、小動物から大型の魔物まで、多種多様な森の生き物だった。

 それが、何十……何百とこちらに走って向かってくる。


「迎撃……いや、引くぞ!!」


 ザガンは慌てて指示を出す。

 一瞬、迎撃すべきか考えたが、これを相手にしても被害が出るだけで、一切の得がない。


 逃げるが勝ち。

 ザガンが宣言すると、ファミリーが我先にと森の奥へと逃走を開始した。


 少しでも遅れれば、動物の波に飲まれて死ぬ。

 構成員は必死の形相を浮かべて逃げ惑う。


「くそっ、なんでこんな目に……!」


 ザガンは宝具によって身体能力が強化されている。

 おかげで、逃走にも余裕が生まれていた。


 時々魔物に追いつかれそうになった部下を救い、動物を斬り殺した。

 それでも、動物の勢いは止まらない。


 手練れのゴズやネークス、ルイゼが殿を務めながら、ザガンファミリーは息も絶え絶えに動物の群れから逃走する。


 ザガンが、一番後ろを走っていた時だった。


「ギャァァアア!!」

「ウワァァアア!!」


 前方からファミリーたちの悲鳴が上がった。


「なんだ!?」


 ザガンは足に力を込め、地面を力任せに蹴り出した。

 体が瞬時に加速。

 砲弾のように駆け抜ける。

 ファミリーたちが声を上げたと思しき場所まであと三十メートル。


 そこで丁度、森が開けた。


(まさか待ち伏せか!?)


 ザガンは辺りを見回す。

 しかし誰もいない。

 おかしい。疑問に思った、つぎの瞬間。


「――ッ!?」


 ザガンの足が空を切った。

 ぎょっとして、下を見る。

 あるはずの地面がない。


 その下方に、ファミリー達の姿が。


(なんだこりゃ!?)


 ザガンは勢いを上手く利用し、体を丸める。

 穴の反対側で、辛くも着地に成功した。


 即座にザガンは後ろを振り返る。


「どうなってんだこりゃ!?」


 ザガンの目の前には、穴が空いていた。

 巨大な穴だ。

 幅は三十メートルほどあり、深さは十五メートルほどもあった。


 幸いなのは、穴がすり鉢状だったことだ。

 万が一普通の落とし穴であれば、下に落ちたファミリーの命はなかったに違いない。


「ザガン様、これは!?」

「……俺にもさっぱりわからん」

「まるで隕石でも落ちたかのようですね」

「まったくだ」


 まさかこんな巨大な穴が森の中にあるとは、想像もしていなかった。

 おかげで、ファミリーの大多数が穴に落ちてしまった。


 もしこれを平時に見つけていれば、穴に落ちる奴は馬鹿だけだ。

 だが今は、動物の群れから逃げている時だった。

 穴を見つけても、急に進路は変えられない。


「ま、まさかこれはフォード家の罠……」

「こんなただの穴が罠わなけねえだろ!」


 落とし穴を作るにしても、ザガンならばもっと上手くやれる。

 それはフォード領の者でも同じだ。


 このような原始的な穴を、罠と言い張る者などどこにもおるまい。

 しかし、ザガンファミリーの大半が、この馬鹿しか落ちない穴に落ちてしまった。


 あまりに馬鹿馬鹿しい光景に、ザガンの頭に血が上る。


「~~~ッ、てめぇら、さっさと出てきやがれ!!」

「「「へ、へいッ!!」」」


 ザガンの怒りに怯えた構成員たちが、必死になって穴から這い上がろうとする。

 しかしすり鉢状の穴は、まるで蟻地獄のように、構成員を捕らえて逃さないのだった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




落とし穴の伏線、無事回収

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