第67話 刺客、蜂起す

 ザガンの予想通り、五日後には村で疫病が発生した。

 かなり致死率の高い病らしく、昨日までピンピンしていた者も、翌日にはコロリと死んでしまうほどだった。


「少しやり過ぎたか?」


 ヴァンに情報が伝わる前に住民がすべて死んでしまえば、領兵を中央から引き剥がせるかどうかが怪しくなる。


「適度に生きてて欲しいもんなんだがなぁ」


 村人が全滅すれば、次の作戦に移れば良い。


「せいぜい頑張って生き延びてくれ。俺たちの努力が無駄にならねぇようにな。はっはっはっはっは!!」


 村から遠い森の中。

 ザガンは高らかに嗤い声を上げるのだった。




 その後日、早朝のことだった。

 ザガンの下に、ネークスが血相を変えて現われた。


 ネークスは凄腕の隠密だ。暗殺者としての実力は、ザガンを遥かに上回る。

 その彼が感情を露わにするなど、並大抵のことではない。


「たた、大変ですザガン様!!」

「どうしたネークス。まさか、村人が全部おっ死んじまったか?」

「いえ。その逆です!」

「……はっ? 逆ぅ?」

「村人が全員、健康になりました」

「…………ん? 悪い、もう一回言ってくれ」

「村人が全員、健康になりました!」

「んなわけねぇだろ! てめぇ、喧嘩売ってんのか!?」


 昨日まで、村人は次から次へと病に倒れていた。

 それが急に健康になるなどあり得ない。


 だが村を監視していたネークスは、青ざめた顔を何度も横に振る。


「いえ。それが、突然空から人が現われて、魔術を使っていったんです」

「魔術? まさか神官が、回復魔術を使ったってのか?」

「そこまではわかりませんが……。ただ、昨日までは汚かった川が、今朝にはとても清潔になり、村人が元気に活動を始めました」

「…………」


 そんな馬鹿な。

 そう口にしようとしたが、驚きのあまり掠れ声しか出て来なかった。


 ザガンは深呼吸をする。

 一旦冷静になって頭を働かせる。


「あれだけ汚した川が、綺麗になるほどの魔術か……」


 口にすると、異常さが浮き彫りになる。

 疫病への対処は、通常神官が行う。

 光魔術で疫病を浄化していくのだ。


 一度に浄化出来る範囲は、数メートルがやっとだ。

 ほんの僅かなあいだに、村全体を浄化し切るなど、それこそ神か、聖天使教が担ぐ〝聖女〟でなければ不可能だ。


(やっぱこの目で見なけりゃ、信じれねぇな)


 ザガンは腰を上げて、しかしすぐに思い直す。

 疫病が発生してからしばらく経っている。

 ――そろそろヴァンが視察に来る頃合いだ。


 もし村に偵察に行ってヴァンにかち合った日には、これまでの計画が水の泡だ。


 ザガンの目的は、あくまでクリスを暗殺することだ。

 疫病は作戦の一部であり、マストではない。


(……捨て置くか)


 当初の予定では、疫病を用いて領兵の警邏網を破壊する算段だった。

 しかしその作戦が使えなくなった今、別の作戦に移る他あるまい。


 ザガンとしては、次は領兵を少しずつ間引く作戦をとりたい。


 しかし疫病を発生させるまでに、かなりの時間を浪費した。

 遠征に欠かせない食糧はすでに半分を割っている。

 また、野宿が続いているため、傭兵たちに疲労が蓄積しつつある。

 全員が万全の状態で動けるのは、あと数日だろう。


(これ以上、時間はかけられない……か)


 ならば方針は一つだ。

 ファミリーが全力を出せるうちに、直接フォードの屋敷に乗り込みクリスを叩く。


「まあ、これだけの部下がいればなんとかなるか」


 ザガンファミリーは手練れの集まりだ。


 特に組頭のゴズ、隠密右腕のネークスは、王国騎士団が相手でも余裕で退けられる力がある。

 それに加え、ザガンは今回特別に凄腕を用意した。


 帝国剣術大会で一位に輝いた、世界最強と謳われる剣士、ルイゼだ。

 このルイゼを雇い入れるのに、ザガンは私財のほとんどをなげうった。


 そうまでして引き入れたのは、クリス暗殺が絶対に失敗出来ないためだ。


 現在ザガンの下には、手練れのファミリーがおり、現役最強の剣士もいる。

 さらには、たった一つで戦況をひっくりかえすと言われる宝具もある。


 もはや弱小領地の命運は、風前の灯火といったところか。


「小細工はここまでだ。野郎ども、準備はいいな?」

「「「おうっ!!」」」


 下山の折りにはどうなるものかと思ったが、ここ数日の休息で構成員の士気が高まってきた。

 このまま屋敷に攻め込めば、間違いなく勝てる!


「よぅし、野郎どもよく聞け! フォード領は辺鄙な領だが、金を持ってる奴は持ってやがる。奪い放題、やりたい放題出来るぞ!」

「「「「おおおっ!!!」」」」

「ただし、欲望を満たすのはすべてが終わってからだ。いいか野郎ども、狙うはフォード家三男クリスってガキだ。このガキを、ぶち殺せ!!」

「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」

「クリスを殺した暁には、俺からも特別報酬をくれてやる。一年遊び続けても尽きねぇくらいの金だ!!」

「「「おおおっ!!」」」

「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!」」」


 ザガンがさらに、構成員の士気を上げる。

 これだけ気合いが入っていれば、たとえ王国騎士団が相手でもはね除けられるに違いない。


(ふっ、勝ったな……)





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※フラグです


いつも拙作をお読みくださいまして、誠にありがとうございます。

「面白い」「続きが気になる」と思ってもらえましたら、

『★★★』と評価して頂けますと、嬉しいです。



ただいま新作『底辺ハンターが【リターン】スキルで現代最強』を連載中です。

https://kakuyomu.jp/works/16816927863305041622

こちらも併せてお読みいただけましたら、幸いです。

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