第61話 シモンの剣

 翌日、クリスはシモンを伴って、北の森の手前にやってきた。


 一先ずやりたい魔術はすべて使った。

 それらの情報を活かしながら、クリスは昨晩に、新しい魔術の開発を行った。


「クリス様、今日はなにをなさるんですか?」

「うんー。今日は他でもない、シモンにぴったりの魔術を使おうと思ってね」

「俺に、ですか!?」


 先ほどまでフライに酔っていたはずの彼が、パッと表情を輝かせた。


「まずは身体強化だよ。剣術が得意なシモンにぴったりな魔術を作ってみたんだ」

「ありがとうございます!」

「それじゃあ使うけど……気をつけてね」

「えっ?」


 一応、注意は促した。

 ここで『やっぱり駄目です』と言われれば、実験出来ない。

 なのでクリスは早口で、呪文をまくし立てた。


「〈シモン専用身体強化(フォースアップ・シモン)〉」

「ちょ、まっ――!」


 最速で身体強化を発動。

 淡い光が、シモンの体を包み込んだ。


 今回、クリスが発動した魔術は、昨晩組み上げたものである。



■魔術コスト:1506/9999

■属性【光:全身強化】【光:自然回復強化(リジェネーション)】【火:腕力強化(パワーアップ)】【土:ストーンスキン】【風:敏捷強化(ラピッドアップ)】【水:明鏡止水(マインド・コントロール)】+

■強化度

 威力:MAX 飛距離:―― 範囲:5 抵抗性:MAX 数:1

■特殊能力【付与】


 かなりてんこ盛りな強化魔術だが、これでも自重した方である。

 他にも、入れたい強化魔術はあったのだ。だがシモンの戦闘スタイルに合うかどうかがわからなかったため、追加しなかった。


「どんな感じ?」

「体がずいぶん軽いで――どわっ!?」


 ――ドッ!!


 一歩踏み出したシモンの体が一瞬にして消えた。

 クリスの体に、凄まじい風が叩きつけられる。


 どうやらシモンは力加減を誤って、猛スピードで前進してしまったらしい。

 残された深い足跡が、それを物語っている。


 まわりでは、ドッカンドッカン、何かがぶつかる激しい音が鳴り響いている。

 しかし、どこにもシモンの姿が見当たらない。

 クリスの動体視力では、追い切れないのだ。


 周辺の木々が、一本、二本と倒れていく。

 どうやらぶつかった勢いで倒してしまったようだ。


「シモンー。もう少しゆっくり移動してー」

「でーきーまーせーんー」


 シモンの声が様々な角度から聞こえる。

 どうもコントロールが完全に利かなくなっているようだ。


「シモンー。自分の体にマナを流せば、ある程度は出力をコントロール出来ると思うよー」


 そう告げてからしばらく経過した頃、ようやっとクリスの目でもシモンが捕らえられるようになった。


「……コ、コツを掴むのに、時間がかかりました」

「お疲れ様」


 まだ完璧とは言いがたいのだろう、動きがぎこちない。

 だがシモンはなんとか、ゆっくり歩くことに成功した。


 彼の体の至る所に、葉っぱや枝がついている。

 だが怪我をした様子はない。

 強化魔術が、彼を保護してくれたのだ。


「強化魔術の感想はどう?」

「すごく、扱いが難しいですね。ただ、完璧に使いこなせたら、下手をすると世界最強の剣士と対等に戦うことも可能かと思います」


 ほんのちょっと地面を蹴っただけで、視界から消えるほどの速度が出る。

 それほどの強化魔術を施されても、世界最強の剣士と対等とは……。


「ちょっと、自己評価低くない?」

「いえ、真っ当な評価だと思います。少なくとも、最強の剣士はそれくらい強いですよ」

「そうなの?」

「はい。ちらっと戦っている姿を見たことがありますが、並み居る強豪剣士を相手に、一切本気を出していませんでしたから」

「へぇ」

「ただ、問題があります」

「問題?」

「身体能力は驚く程上がりましたけど、この状態では、剣が使えません」

「えっ、どうして?」

「力に耐えきれず、剣が折れてしまいますから」


 シモンが困ったような表情を浮かべた。


「あっ、なるほどね」


 たしかに、彼の言う通りだ。

 いまの身体能力で剣を振るえば、並の剣ならば振るった瞬間折れるだろう。

 それは常人が藁を振るうようなものだ。

 扱う力に、耐久力が見合っていないのだ。


 しかし、それで「はいそうですか」と諦めるクリスではない。

 その問題は既に、解決策を見つけている。


「シモン、その剣をちょっと借りても良い?」

「いいですけど、大人用ですから重いですよ?」

「大丈夫大丈夫」


 うっかりバランスを崩して転んでしまわぬよう、クリスは剣を受け取った。

 その剣に、領兵団と同じ魔術を付与する。


「〈シャープネス〉、〈ストーンスキン〉――おっ?」


 魔術を二つ付与したところで、クリスは気がついた。

 マナが込められほんのり暖まってはいるが、二つ付与した領兵団の並武器ほどではない。

 この剣にはまだまだ魔術を付与出来そうだ。


「ねえシモン。この剣って、良い品なの?」

「えっ、そうですね。剣術大会で入賞したときに頂いたものなので、良い品だとは思います」

「そっか。じゃあ、もうちょっと付与してみるかな」


 さらにクリスは、シモンの剣に付与を行う。


「〈リジェネーション〉」


 剣がさらに暖まる。だが、持てないほどではない。

 まだもう一つだけなら入れられそうだ。


「ねえねえ。シモンって自分の剣にどんな効果があったら良いと思う?」

「うーん、そうですね……。自分の意思で間合いが伸び縮みする剣、とかだったら面白そうではありますね」

「ふむふむ」


 シモンの意見を聞いて、クリスはスキルボードを開く。

 膨大にある魔術の中から、『間合いを伸び縮み』させられるものを探す。


 しかし、生半可な効果ではない。

 諦め半分で探したクリスは、とある魔術を発見した。


「おー、あった」


 早速スキルボードにセットし、登録。


(どうか、壊れませんように!)


「〈伸縮自在(テレスコーピック)〉」


 剣が、かなりの熱を持つ。


(耐えられるかな……)

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