第53話 新しい力
クリスは自分の部屋で、新しい魔術の確認を行っていた。
新しい属性【結界】には、自分を保護するものと、相手を閉じ込めるもの、広範囲に展開するもの、そして新たに空間を生み出すものがあった。
この新たな空間を生み出すものが、以前アリンコが使っていた亜空間魔術だ。
■魔術コスト:900/9999
■属性【結界:サブディメンション】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:―― 範囲:MAX 抵抗性:MAX 数:――
■名前【亜空間】
早速使おうとしたところで、クリスはふと我に返る。
「……ただ亜空間を作るだけだけど、何かあったら不味いよね」
これまでクリスは、書庫にある魔術本を読み、様々な魔術の知見を得てきた。
だが実際のところは、使ってみなければわからない。
この〈亜空間〉も、クリスの想像もしない問題が発生する可能性がある。
たとえば――周囲にいるすべての人を、亜空間に取り込んでしまう、とかだ。
「さすがに、ここで使うのは不味いよね」
今すぐ使いたい衝動をぐっと堪える。
続いて、追加効果の【付与】を確認する。
「【付与】があるだけで、これまでの魔術がぐっと使いやすくなるんだよね。手に入ってよかったぁ」
これまでクリスは、他人に魔術をかける時は効果範囲を拡大して使用してきた。
たとえば〈フライ〉がそうだ。
彼と一緒に空を飛ぶだけでも、微妙な力加減が必要だった。
一部、他人にかけられる魔術も存在する。回復術系や、攻撃魔術系がそうだ。
だが補助系の魔術は他人に使用することが出来なかった。
しかし、この【付与】があれば、これからは他人に補助魔術をかけ放題である。
「……シモンを実験台にしてみようかな」
「いま何か、よからぬことを口にしませんでしたか?」
クリスの悪巧みに気がついたか、シモンが肩をふるわせた。
「気のせい気のせい」
「そ、そうですか。それならいいんですけど……」
「うんうん」
現時点で、シモンは十分強力な剣士だ。
きっとヘンリーやヴァンと良い勝負が出来るだろう。
その彼に、クリスの補助魔術がかかれば、ドラゴンでさえ倒せるのでは? と思えてくる。
早速、シモン向けの魔術を作成する。
■魔術コスト:506/9999
■属性【光:加速(アクセラレーション)】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:―― 範囲:5 抵抗性:MAX 数:1
■特殊能力【付与】
■魔術コスト:506/9999
■属性【光:マイトフォース】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:―― 範囲:5 抵抗性:MAX 数:1
■特殊能力【付与】
■魔術コスト:506/9999
■属性【光:スタミナアップ】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:―― 範囲:―― 抵抗性:MAX 数:1
■特殊能力【付与】
■魔術コスト:406/9999
■属性【土:ストーンスキン】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:―― 範囲:―― 抵抗性:MAX 数:1
■特殊能力【付与】
すんすんすん。鼻歌交じりに、クリスはどんどん魔術を作成する。
これをすべてかけたあと、シモンがどのくらい強くなるのか、早く見てみたいものだ。
「――あっ、そうだ。付与が出来るんだったら、もしかして物にも魔術が使えるのかも?」
ふと、クリスは閃いた。
【付与】の対象が、必ずしも人間だけとは限らない。
道具に魔術を付与出来るなら、更に面白いことが出来そうだ。
クリスはベッドから飛び起き、テーブルにあったグラスを手に取った。
「〈ストーンスキン〉」
先ほど生みだしたばかりの魔術が、手の中にあるグラスをほんのりと温める。
マナの光が収まるとすぐに、クリスはグラスを床に落とした。
――カラン。
音を立て、床の上を転がった。
ガラス製のグラスは、クリスの肩の高さから落としても砕けることがなかった。
さらに、ヒビも入っていない。
マジマジと眺めるが、傷すら付いていなかった。
「よしっ!」
成功だ。
クリスは右手を握りしめた。
【付与】は、人だけでなく、物にも使用出来る。
「これは、凄く幅が広がったなあ」
頭の中に、やりたいこと、試してみたいことが湯水のようにあふれ出した。
一番最初になにを試すべきか。
(ああ、今すぐ全部試したい!)
「――そうだ!」
クリスはあれこれ考えた末に、手っ取り早く纏めて試験出来る方法を思いついた。
思いついたが吉日。すぐさま窓に向かい、
「クリス様、どちらへ行かれるんですか?」
「ちょっとそこまで」
「お、お待ちくださいクリス様、俺も一緒に――」
「また今度ねー」
クリスは素早く宙に浮かび上がり、領兵団の事務所へと向かうのだった。
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