第39話 まさかの敵国

拙作『生き返った冒険者のクエスト攻略生活』のコミカライズが、ヤングエースアップにて連載スタートいたしました!

https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000181/


漫画:冥茶 原作:萩鵜アキ キャラクター原案:ひづきみや

こちらも合わせて、宜しくお願いいたします。



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 エレエレエレ……。

 大都市の片隅で、シモンが盛大に嘔吐している。

 その背中を尻目に、クリスは額に大量の脂汗を浮かべていた。


「もしかしてここ、アレクシア帝国じゃ……」


 クリスはシモンの妹を救うべく、フォード領から移動してきた。

 だがまさか、妹が囚われているお店がアレクシア帝国にあるとは、想像もしていなかった。


(バレたらまずい。すごくまずい!)


 現在、ゼルブルグ王国とアレクシア帝国の中は、決して良好とは呼べない状態だ。

 武力衝突は起こっていないものの、冷戦状態が続いている。


 そんな中、地位ある者が敵国の地を踏めば、まず間違いなく拘束される。

 捕らえられれば、間者と扱われて処刑されるか、あるいは外交のカードにされるか、いずれかの未来が待っている。


 ここがアレクシア帝国だと気付いた時点で、クリスはいますぐここから逃げ出したかった。

 だが、クリスはシモンに『妹を救う』と豪語してしまった。


 別の約束ならば躊躇なく反故にするクリスだが、妹の救出については反故出来ない。

 妹は大切だ。

 それがたとえ、他人の妹であっても、だ。


 もしここで引き返してしまったら、自分の妹への思いも中途半端になる気がするから、クリスは引くに引けなかった。


「大丈夫。パッと救出してパッと帰ればいいんだ……」


 クリスは深呼吸で気持ちを落ち着けた頃、壁際からシモンが戻ってきた。


「た、大変お待たせいたしました」

「うん。それじゃあ、早速そのお店に行こう」

「はい……ええと、勿論お店の場所まで案内しますが、どうやって忍び込むんですか?」

「ああ、そうだね。それじゃあ――≪ハイド≫」


 クリスは自らとシモンに、ハイドを発動した。

 みるみる体が闇の中に溶け、そして消えた。


 クリスたちの姿は、もう誰に目にも映らない。

 だが、二人はお互いの姿を確認出来る。


 それはハイドを使った魔術師が、同一人物だからだ。

 マナが同じであれば波長が噛み合い、姿を把握出来るようになるのだ。


「すごい……体から気配が消えた!」

「これがあれば忍び込めると思うけど、あんまり激しく動くと解除されるかもしれないから、気をつけてね」

「はい」

「あと、ハイドは足音とか臭いとかは、消せないからね」

「了解です。姿が見えなくなるだけで十分です」


 シモンに連れられ、クリスは奴隷商店へと向かった。


 店は皇帝が住まう宮殿の近くにあった。

 それも大勢の人目につく、大通りに面した場所だ。

 貴族街にも近いことから、この店は貴族にも一定の需要があるようだ。


 現在、クリスの背中は冷たい汗でびっしょりだ。

 宮殿に近いため、気が気じゃない。


(どうか何事もなく終わりますように! 帝国に捕まりませんように!)


 夜ということもあり、店は既に閉まっていた。

 どこか入りやすい場所はないかと、店をぐるりと回って観察する。


「結構頑丈な建物なんだね」

「そうですね。奴隷商は恨みを買いやすい職ですから、いつ襲われても大丈夫なように、防衛面に力を入れているのだと思います」


 投石程度の攻撃ならば簡単にはじき返してしまうだろう。

 石造りの建物は、平民街の中では非常に珍しかった。

 建築コストが高いため、平民では手が出せないのだ。


 建物の裏に回り込むと、簡素な扉を発見した。

 従業員が使う通用口だ。


 しかしそこには、槍を手にした警備が二人佇んでいる。

 警備は厳しい顔を浮かべ、常に辺りを見回している。

 ただの店の警備にしては、ずいぶんと士気が高い。


(お給料いっぱい貰ってるのかな?)


 クリスは警備を観察しながら、スキルボードを顕現させる。


「それで、ここからどうするんです? さすがに姿見えないといっても、扉を開いたらバレますけど」

「うんうん。こういう時は、定番があるから大丈夫だよ」


 素早く手を動かし、魔術を登録。

 すぐさまクリスは、新作魔術を発動した。


「≪スリープ≫」


 魔術が発動してすぐ、男二人の頭がぐらりと揺らいだ。

 そしてそのまま、地面に崩れ落ちた。


■魔法コスト:611/9999

■属性:【闇(スリープ)】+

■強化度

 威力:MAX 飛距離:MAX 範囲:10▲ 抵抗性:MAX 数:1▲


「……まさか、殺したんですか?」

「ううん、眠らせただけだよ」


 相手はただの警備である。

 眠らせるくらいが丁度良い。


「それじゃあ、行こうか」

「はい。あっ、でも裏口には鍵がかかって――」

「≪エアカッター≫」

「…………」

「ん、なにか言った?」

「……いいえ、何でもありません」


 クリスは、魔術で鍵を切断した扉を開け放つ。

 中は、至って普通の建物だった。

 所狭しと武器が並んでいたり、強面の人達が待機していたりといったことはない。


 既に閉店しているからか、中の明かりは落とされていて、闇が広がっている。


「それで、妹はどこに?」

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