第39話 まさかの敵国
拙作『生き返った冒険者のクエスト攻略生活』のコミカライズが、ヤングエースアップにて連載スタートいたしました!
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漫画:冥茶 原作:萩鵜アキ キャラクター原案:ひづきみや
こちらも合わせて、宜しくお願いいたします。
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エレエレエレ……。
大都市の片隅で、シモンが盛大に嘔吐している。
その背中を尻目に、クリスは額に大量の脂汗を浮かべていた。
「もしかしてここ、アレクシア帝国じゃ……」
クリスはシモンの妹を救うべく、フォード領から移動してきた。
だがまさか、妹が囚われているお店がアレクシア帝国にあるとは、想像もしていなかった。
(バレたらまずい。すごくまずい!)
現在、ゼルブルグ王国とアレクシア帝国の中は、決して良好とは呼べない状態だ。
武力衝突は起こっていないものの、冷戦状態が続いている。
そんな中、地位ある者が敵国の地を踏めば、まず間違いなく拘束される。
捕らえられれば、間者と扱われて処刑されるか、あるいは外交のカードにされるか、いずれかの未来が待っている。
ここがアレクシア帝国だと気付いた時点で、クリスはいますぐここから逃げ出したかった。
だが、クリスはシモンに『妹を救う』と豪語してしまった。
別の約束ならば躊躇なく反故にするクリスだが、妹の救出については反故出来ない。
妹は大切だ。
それがたとえ、他人の妹であっても、だ。
もしここで引き返してしまったら、自分の妹への思いも中途半端になる気がするから、クリスは引くに引けなかった。
「大丈夫。パッと救出してパッと帰ればいいんだ……」
クリスは深呼吸で気持ちを落ち着けた頃、壁際からシモンが戻ってきた。
「た、大変お待たせいたしました」
「うん。それじゃあ、早速そのお店に行こう」
「はい……ええと、勿論お店の場所まで案内しますが、どうやって忍び込むんですか?」
「ああ、そうだね。それじゃあ――≪ハイド≫」
クリスは自らとシモンに、ハイドを発動した。
みるみる体が闇の中に溶け、そして消えた。
クリスたちの姿は、もう誰に目にも映らない。
だが、二人はお互いの姿を確認出来る。
それはハイドを使った魔術師が、同一人物だからだ。
マナが同じであれば波長が噛み合い、姿を把握出来るようになるのだ。
「すごい……体から気配が消えた!」
「これがあれば忍び込めると思うけど、あんまり激しく動くと解除されるかもしれないから、気をつけてね」
「はい」
「あと、ハイドは足音とか臭いとかは、消せないからね」
「了解です。姿が見えなくなるだけで十分です」
シモンに連れられ、クリスは奴隷商店へと向かった。
店は皇帝が住まう宮殿の近くにあった。
それも大勢の人目につく、大通りに面した場所だ。
貴族街にも近いことから、この店は貴族にも一定の需要があるようだ。
現在、クリスの背中は冷たい汗でびっしょりだ。
宮殿に近いため、気が気じゃない。
(どうか何事もなく終わりますように! 帝国に捕まりませんように!)
夜ということもあり、店は既に閉まっていた。
どこか入りやすい場所はないかと、店をぐるりと回って観察する。
「結構頑丈な建物なんだね」
「そうですね。奴隷商は恨みを買いやすい職ですから、いつ襲われても大丈夫なように、防衛面に力を入れているのだと思います」
投石程度の攻撃ならば簡単にはじき返してしまうだろう。
石造りの建物は、平民街の中では非常に珍しかった。
建築コストが高いため、平民では手が出せないのだ。
建物の裏に回り込むと、簡素な扉を発見した。
従業員が使う通用口だ。
しかしそこには、槍を手にした警備が二人佇んでいる。
警備は厳しい顔を浮かべ、常に辺りを見回している。
ただの店の警備にしては、ずいぶんと士気が高い。
(お給料いっぱい貰ってるのかな?)
クリスは警備を観察しながら、スキルボードを顕現させる。
「それで、ここからどうするんです? さすがに姿見えないといっても、扉を開いたらバレますけど」
「うんうん。こういう時は、定番があるから大丈夫だよ」
素早く手を動かし、魔術を登録。
すぐさまクリスは、新作魔術を発動した。
「≪スリープ≫」
魔術が発動してすぐ、男二人の頭がぐらりと揺らいだ。
そしてそのまま、地面に崩れ落ちた。
■魔法コスト:611/9999
■属性:【闇(スリープ)】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:MAX 範囲:10▲ 抵抗性:MAX 数:1▲
「……まさか、殺したんですか?」
「ううん、眠らせただけだよ」
相手はただの警備である。
眠らせるくらいが丁度良い。
「それじゃあ、行こうか」
「はい。あっ、でも裏口には鍵がかかって――」
「≪エアカッター≫」
「…………」
「ん、なにか言った?」
「……いいえ、何でもありません」
クリスは、魔術で鍵を切断した扉を開け放つ。
中は、至って普通の建物だった。
所狭しと武器が並んでいたり、強面の人達が待機していたりといったことはない。
既に閉店しているからか、中の明かりは落とされていて、闇が広がっている。
「それで、妹はどこに?」
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