第15話 刻は満ちた!(当てずっぽう

 部屋に戻ったクリスは、しばらく魔術の開発に勤しんだ。

 現時点で、攻撃魔術はある程度のバリエーションが揃っている。

 なので今度は、防御系の魔術を登録していくことにした。



■魔法コスト:215/9999

■属性:【風(エアシールド)】+

■強化度

 威力:MAX 飛距離:― 範囲:5 抵抗性:MAX


■魔法コスト:605/9999

■属性:【光(絶対障壁)】+

■強化度

 威力:MAX 飛距離:― 範囲:5 抵抗性:MAX



 試行錯誤を繰り返しているうちに、自分への攻撃を防ぐ魔術が完成した。

 自分への攻撃を防ぐだけなら、範囲は5もあれば十分だった。


 予想外だったのは、飛距離だ。

 どうやら自身に付与するタイプの魔術は、飛距離を調節出来ないらしい。


 しかし、考えて見れば当然だ。

 飛距離を調節したところで、飛ばす先がない。

 だから、意味のない項目は調節出来ないようになっているのだ。


 威力と抵抗性については、念には念を入れて範囲以外をMAXにした。


「痛いのは嫌だからね」


 防御魔術が完成すると、次に身体能力を向上させるバフ系にも取りかかる。

【マイトフォース】【マジックフォース】【ラピッドフォース】【ガードフォース】

 すべて身体能力を上げる魔術だ。もちろん、飛距離と範囲以外はMAX強化だ。


 どれくらい身体能力が上がるかは、部屋の中にいるので試せない。

 今後、外に出たら試す予定だ。


 他にも、使えそうな魔術を改良した。

【幸運の光(ブレッシング)】【浄化の光(ピリフィケーション)】


 スキルボードは魔術を自由に開発出来る、非常に優れたアイテムだ。

 唯一欠点があるとすれば、登録していない魔術はクリスに使えないことだ。


「試してみたい魔術があるんだけどなあ」


 一覧にある魔術ならば、登録すれば使えるようになる。

 しかしスキルボードは、魔術書に書かれているすべての魔術を網羅しているわけではない。

 足りない属性があるし、付与出来る機能も不十分だ。


 だがそれを、クリスの能力でカバーすることが出来ない。

 知識があっても、魔術が実現出来ないのだ。


 これは自分が元々魔術を扱えない無能だから仕方がない。


 今は使用出来ない属性の魔術があるが、もしかしたら今後、スキルボードの機能が拡張して使えるようになる可能性はある。

 しかし現時点でその方法は、皆目見当もつかない。


(うーん。どうやったらスキルボードにない属性が使えるようになるんだろう……?)


「クリス様。本日も…………ボーっとされてますね」

「う、うん」

「おやつは如何いたしますか?」

「そこに置いといて」

「かしこまりました」


 スキルボードを弄っていると、専属メイドのソフィアが不審な目を向けてくる。

 他人にはスキルボードが見えないからだ。


 きっと、不真面目な奴だと思われているだろう。

 自らの勤勉さが伝わらないのは残念だ。


 この所ソフィアの態度が大きく変化した。


 以前なら、今日のように部屋の中でゴロゴロしていたら、まるでソフィアはゴキブリを見るような目つきになっていた。

 今は、不出来な弟を見るようなものにランクアップしている。


(ソフィア、優しくなったなあ)


 先日、彼女のチョーカーを壊してしまったから、てっきり嫌われたと思っていたが、仕事を辞める気配もないし、避けられている様子もない。

 あまり気にしていないようで良かったと、ほっと胸をなで下ろす。


 でも、他人の持ち物を壊してしまったのは事実だ。

 折角の機会だと、クリスは謝罪することにした。


「ソフィア、この前はチョーカー、壊してごめんね」

「えっ、いえ、全然気にしてません。むしろ、こちらが感謝する方です!」

「そう? なんなら同じのを買ってきてもいいけど」

「――ッ!? そ、それだけは、どうぞご勘弁を……」


 ソフィアが額に脂汗を浮かべ、深々と頭を垂れた。

 どうやらあのチョーカーは、あまり気に入っていなかったようだ。

 本気で嫌がっているように見える。



「クリス様、わたしのことを試していらっしゃるのですね……。そんなことをされなくても、もう忠誠を誓っていますのに……」

「ん、なにか言った?」

「い、いえいえ! そそ、それよりもクリス様、今日は外には行かれないのですか?」

「うーん」


 父ヴァンからは、『何もするな』と言われている。

 スキルボードで魔術をある程度開発し終えるまでは、クリスは父の言いつけを守るつもりだ。


(折角なにもしなくていい許可が下りたんだから、満喫しないと損だよね!)


「……以前のように、動かれないのですか?」


 いずれ、魔術開発は行き詰まる。

 外で使用しなければ、進まなくなる日が必ず来る。

 その時までは、ここでのんびり魔術開発だ!


 とはいえ、ソフィアはスキルボードが見えない。

 だからクリスはベッドの上で、ダラダラしているようにしか見えないはずだ。

 せめてそれらしい台詞を口にして、クリスは現実を誤魔化しにかかる。


「刻が満ちるまでは、このままだ」

「――ッ!? その、刻……とは?」

「えっ? ええと……もうすぐ、かな?」


 完全に何も考えていなかった。

 ただの放言を、あんまり突っ込まないでもらいたい。

 ボロが出るから。


 まあ、ソフィアに呆れられる前に外出しようかな。

 そう思った矢先だった。


 ――フッ。


 世界から、光が消えた。

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