第10話 新開発!大規模魔術
翌朝、日が昇るとすぐにクリスは家を飛び出した。
これほど朝が待ち遠しい夜はなかった。
外に出たクリスは、ある程度家から離れた所で、昨晩調節した魔術を発動した。
「おおっ、浮いてる!」
クリスが発動したのは、所謂飛翔魔術だ。
昨晩練りに練って考えた魔術は、クリスの体を危うげなく空へと浮かび上がらせた。
■魔法コスト:520/9999
■属性:【風:ウインドコントロール】【風:ウインドハンマー】+
■強化度
威力:10▲ 飛距離:MAX 範囲:10▲ 抵抗性:MAX
■特殊能力:【飛翔】
■名前:【フライ】
属性は、二つの風魔術をセットした。
片方は体を浮かせるための魔術『ウインドコントロール』。
もう片方は体を移動させる魔術『ウインドハンマー』だ。
威力や範囲は最小限に留めた。
でなければ、フライを発動しただけで潰れる可能性があるし、近くにあるすべてのものを浮かしかねないからだ。
どうやらクリスが生み出したフライは、ほどよいパラメーターだったようだ。
「イメージ通り操作できるし、よかった」
試運転をしてから、クリスはある地点へと飛翔する。
目的地は、町の外にある大森林だ。
ここならば、どれだけ魔術を使っても人の目には触れないだろう、という目論見だ。
ここ以外にも、人目に触れない場所はある。だがそこは凶暴な魔物が数多く生息している。
いくら魔術が使えるようになったとはいっても、クリスは戦闘初心者だ。
魔物を倒すのは吝かではないが、魔術を発動する前にこちらが攻撃されたのではかなわない。
なので、比較的魔物の数が少ない地点を実験場として選んだ。
飛翔することしばし。
クリスは目的地の大森林に到着した。
ここでは色々と考えた魔術の中から、一度では成功しなさそうなオリジナル魔術の実験を行う。
クリスはさっそく、スキルボードを顕現。
マナを体内で練り上げる。
スキルボードを広げると、不思議と魔術が安定する。
どうやら魔術士の杖のような機能もあるようだ。
普通の魔術ならば、スキルボードを開かなくても発動出来るが、開いていた方がより安定するし、発動も早い。
体内で高めた魔術を、空目がけて発動する。
天高く昇ったマナが拡散。
ゆっくりと、空の空気を地上へと降ろし始めた。
その光景を、クリスはわくわくしながら見守った。
降ろした空の空気が地上に接触。
ふわ、と空気がクリスの頬を撫でた。
「……あ、あれ? 全然冷たくないな」
クリスが行おうとしていた魔術は、物の本に描かれていた『自然の力』を用いた魔術だ。
空の高い場所は地上とは違い、真冬の北国のように極寒だという。
その記載から、クリスは発想を広げた。
――ならその気温を地上に降ろせば、寒波みたいな魔術が使えるんじゃないか?
事前に作成していた魔術は、何故か上手く行かなかった。
他にも魔術を組み替えて作ってみるが、やはり地上に降りてきた空気は暖かくなっていた。
「空の空気を持ってくるっていうのに、無理があるのかなぁ……?」
クリスは空の空気が地上の空気と混ざって、温度が上昇しているのか。
「だったら、他の空気と混ざらなければ上手く行くかも?」
自らの考察をすぐにスキルボードに反映する。
使用するのは、空気を動かす魔術と、真空を生み出す魔術だ。
■魔法コスト:700/9999
■属性:【風:ウインドコントロール】【風:ホロウ】+
■強化度
威力:MAX 飛距離:MAX 範囲:MAX 抵抗性:MAX
■名前:【フォール・フィールド・フリージング】
なるべく勢いよく、温度が上昇しないうちに空気を運べるよう、威力を最大まで引き上げた。
「これで、どうだ!!」
フォール・フィールド・フリージングを発動する。
先ほどと同じように、体内でマナを練り上げる。
イメージするのは、透明な筒だ。
真空の筒を、天から地上に向けて設置する。
その中を、冷たい空気が通るようにコントロールする。
イメージが確定したら、即座に魔術を発動。
体中からあふれ出したマナが、一斉に天へと向かった。
マナが天に到達してしばらくすると、少しずつ白いなにかが降りてくるのが見えた。
その空気はみるみる地上に近づき、一斉に拡散した。
天から降りた空気が、白い靄となって広い範囲の森を覆い尽くした。
クリスがいる場所にも、その冷気が伝わるほどだった。
「おお、すごい、寒い!」
しかしすぐに、クリスは魔術の失敗を悟った。
思いのほか、空気が冷たすぎるのだ。
魔術が発動した地点は、クリスがいる場所から一キロは先にある。
だが、一キロ離れていてもなお、クリスは体が震えるほどの寒気に襲われていた。
また、森が真っ白な靄に覆われているせいで、効果のほどが分かりづらい。
ただ寒いだけなのか、それとも凍っているのかも不明である。
「うーん。これも封印だなあ」
着眼点は良かった。
問題は、スキルボードの力がクリスの想像を大幅に超えていることである。
自分の思うとおりに強化度を調節するには、まだしばらくの時間がかかりそうだ。
「さて、魔術を中断するかな」
クリスが自らの魔術を散らした、その瞬間だった。
森に向かって、空気が凄まじい勢いで吸い寄せられる。
「うわっ!?」
規模の大きな≪真空(ホロウ)≫を消したせいで、空気が急激に集まっているのだ。
ゴゴゴゴゴ。
激しい音と共に、空気が森へと吸い込まれていく。
吸い込まれた空気が、中心部で衝突した。
――ッダァァァン!!
何千発の大砲が一斉に火を噴いたいような、激しい音が轟いた。
森を覆っていた冷気が消滅。
同時に、冷気によって氷結していた森林が、激しい衝撃により木っ端微塵に砕け散ったのだった。
きらきらと光が乱反射している。
そこには少し前まで、森があった。
今は綺麗に森が消え、平原になってしまっている。
その光景を見て、クリスは血の気が引いた。
自分の実験が、まさかこれほどの結果を生み出してしまうとは、思いもしなかった。
「…………逃げるか」
そう呟き、クリスは来た時とは比べものにならないほど迅速に、自宅へと戻っていったのだった。
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