緊急会議/丁歴939年2月13日

緊急会議/丁歴939年2月13日

俺は市役所の会議室に向かうために小日さんに廊下を歩いていた

撮影では九尾の狐だったが、今日は耳や尻尾もなく黒髪に黒い着物の姿をしている

その姿をひと目見ただけで魂が引き寄せられる感覚を覚える

彼女の今の姿は飛縁魔と呼ばれる妖怪の姿である

ちなみに、姿が違う理由は『尻尾が邪魔だから』だ、そうだ


「ところで、魔王様前々から気になっていることがあるんですが、よろしいでしょうか?」


改まって小日さんが尋ねてきた


「みちるちゃんは呼び捨てなのに、なんで私は小日さんなんですか?」


いや、いきなりぶっこんでくるな

つうか、あざとく覗き込んでこないで、惚れちゃう


「な、なんでってみちるが、そう呼べって言うからであって別に深い意味はこれっぽちもないと言うかですね」


俺は必死に言い訳していると・・・って、なんで俺言い訳してんだ? 別に彼女ってわけじゃないだろ


「じゃあ、私も朝陽って呼べって言ったら、そう呼んでくれるんですか?」


だから、涙目で覗き込んでくるな。そ、そんな事で、だだだだだだ騙されないぞ! 本当だぞ!


「あ、朝陽?」


俺は目線を縦横無尽に乱舞させながら必死の思いで言った

正直、みちるはなんか妹みたいな感じで、すっと言えるんだけど小日さん改め朝陽はなんか同学年で一番かわいい女子みたいな感じで無駄に緊張する


「はい、魔王様♪」


は? その笑顔なに? 計算でやってんの? 俺を殺したいの? 尊死ですよ?

召喚された時から思ってけど魔性の女ですよ、マジで

これ、あれでしょ? 俺に利用価値があるからこんな態度なんでしょ? クソ、惚れるもんか、こいつは俺を籠絡しようとしてるんだ!


「えっと、まぁ、なんだ、これからもよろしく、ね?」

「はい♪」


俺は尊死覚悟の決死のよろしくを発動すると、朝陽は俺の腕を抱き、カウンター罠『おっぱい押し付け』を発動した

やわらけぇ・・・・・・・・・・・・は! いかんいかん、これは朝陽の策略だ、騙されるな・・・・・・・・・はぁ、やわらけぇ(以下無限ループ


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「まずは、この度の魔緑建国おめでとうございます」


朝陽が枕詞のように祝福の言葉を口にした


「この度の作戦において、関東地方及び中部地方は完全に掌握、現在東北地方は青森の一部が籠城の構えを見せています

現在は東北地方から北海道地方への橋頭堡を確保すべく行動しております」


東側は順調なようだな。大阪の空都臨時政府から分断されているから時間の問題だろうが


「西側に関しては、東北地方を救援すべく航空機や船を送っているようですが、空の方は大多数が迎撃に成功しており今の所目的地に到達できた機体は存在しません

海の方は正直、基本的に放置していますが、海は魔物だらけですので沿岸部の我々の監視網から逃れつつ北上するのは非常に困難を極めるようです」


海は第3魔王ケートスの眷属や、その子孫がウヨウヨしててノロノロ大型の船で移動していたら、すぐに魔物がよってくる

つまり、人間は2000年以上の間、制海権を完全に喪失している

それどころか、大規模な港を作った途端、魔物の軍勢に襲われて完全に破壊される

明らかに高い知能を有する魔物が戦略的に動いている事が伺える


「ジンフェンや、ケートスの眷属と協力関係を築けないかな?」


ジンフェンは第1魔王オピオンの眷属、オピオンは真っ黒なドラゴンの姿だったらしく、眷属の大部分が大小様々なドラゴンだ

ケートスは巨大な鯨の魔物で、眷属は人魚やサハギンを始めとする魚人系や魚や鯨、貝類等の水棲系が多い

つまり、彼らと同盟関係を気づければ、空と海の戦力を増強できる


「ジンフェンは北海道を制圧すればサハリン経由で支援する用意があるって連絡あったよ」


西口さんが紅茶を啜りながら言った


「ケートスの眷属については、沿岸部で活動している個体は言葉が分からないみたいでコミュニケーションがまずとれていません

指揮している個体は深海に潜んでいるようで、どんな姿なのかすら不明です」


取り付く島もない、ってわけね


「一応、ボトルメールは流しているんですが、返事は来ていませんね」


なんか、原始的だな

他に方法がないんだろうけど


「たしか、ジンフェンのどっかで人魚と交易してる街があったような気がするんだけど・・・正直、うろ覚えだから確証無いけど」


西口さんが頭を捻って記憶の片隅から聞きかじりの知識を引っ張り出した


「とりあえず、ジンフェンの方に聞いておいてもらっていいですか?」

「わかったわ。でも、あんまり期待しないでね」


珍しく、自信なさそうだな。まぁ、どうせこんな事言っといてやれるだけやるんだろうな


「次に軍部の編成状況について、信さんお願いします」


雑賀さんが朝陽に促されて組んでいた腕を解いた

雑賀さんは灰坊主という妖怪になったようで、灰が固まったような肌に変わっている

なんでも、バラバラになって灰の塊になったり、再生して元通りになったり出来る、らしい

ていうか、それって不死身じゃね?

ちなみに、雑賀さんは防衛大臣みたいな役回りだ

魔物化した陸軍の幹部に知り合いがいるとかで上手くやっているようだ


「現在、陸空両軍で瘴気を射出する術式のインストール及び充填する瘴気の確保を進めており、現在、進捗率は20%程度となっております

また、人型以外の魔物用のMADを開発中です。こちらは来年はじめ頃にテストを開始を目指しています」


MADっていうのは、マジックオートメーションデバイスの略で魔法自動化装置、つまり機械式の魔法の杖のことだ。長い棒状のものは自動機杖とも呼ばれたりする

ようは、俺がしてる指輪の、もっと凄いやつを開発中だよ、という話なわけだ

そして、瘴気をうんぬんの話の方は、この世界の武器は基本的に液化もしくは気化した魔力を消費して、なんらかの物理現象を発生させる仕組みになっている

しかし、魔力というのは基本的に石油みたいなもので地下資源なため有限だ

そこで、瘴気を燃料にすれば、発動できる術式は制限されるだろうが、理論上無限に補給できる


「一射あたりの瘴気はどの程度になっていますか?」


俺は雑賀さんの説明に割って入った

瘴気が少なすぎれば無駄に死人を増やすことになる

どうせ、無限に湧いてくるんだからケチケチせずにどーんと使えばいいだろう


「最低瘴気含有量を300μgに設定しておりますので、一撃でも食らえばこちらの仲間入り、という算段になっておりますので心配いりません」


この世界での歩兵の主力武器も自動小銃みたいなやつだが、迫撃砲やミサイルに相当する兵器も魔力を使用する

ミサイル一発で大量に魔物を生産できるとなると、こちらにかなりのアドバンテージになりそうだ

やりすぎるとVS全世界になりそうだけな気もするけど


「次に防空網に関してですが、現在、自走魔導砲を対空モードで国境付近に集中配備しており、現状備蓄している液化魔力でなんとかなっていますが、

こちらも瘴気方式への更新を優先しておこなっています」


自走魔導砲というのは、大砲みたいなでっかい魔法の杖ついた車だ。対空モードは追尾レーザーみたいなやつで迎撃するらしい

ちなみに、あとは迫撃モードとかがあると資料に書いてあった


「素朴な疑問なんですが、瘴気方式にして威力とかもろもろ問題はないんですか?」

「正直、汎用性は下がりますが単純な火力については問題ないと考えています

火炎や凍結、雷撃等は現在では使えませんが、単純に圧縮して射出するだけなら比較的容易ですので」


問題ないならいいか

痒いところに手が届かないのは、乞うご期待ってとこか


「軍部から以上でよろしいでしょうか? 他に報告や上申があればどうぞ。通告外でも結構です」


朝陽が周囲を見渡すと雑賀さんの後ろに座っていた小太りの男が手を上げた

たしか、軍の偉い人だったっけ? なんか、統合幕僚長的なやつ


「国防軍大将の山崎です。魔王様が現在、携行しているMADは指輪型一つのみ、

大切な方から受け取ったかけがいのないものとお察しいたしますが性能で言えばそれなりです

魔王様の象徴となるような杖をお持ちいただくのがよいと愚考いたしますがいかがでしょうか」


俺専用武器か・・・かっこいいのがいいな


「それは大変ありがたい、軍部謹製の剣ならとても心強いです」


俺はとりあえず、社交辞令っていうやつを言っておいた

こんな感じであってるのかな?


「ありがとうございます。設計案を精査した後、数案に絞ってから提案させていただきます」


山崎さんは感嘆したようにして芝居臭く言った


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「よう、大将。なんか久しぶりだな」


テツが珍しく一匹で俺の机に立っていた

現在、テツは分身を各地に派遣して諜報活動にあたっている

ていうか、直接の眷属だからテレパシーが使えるとか言ってたけど、みちるや朝陽とはなにか繋がってる感じはしないな。適当言いやがって


「空都本軍と北部方面軍が同時攻撃をかける動きを見せてるぜ

狙いはこっちの防空網を無力化して分断された空都国民を救い出す、って事らしいぜ」


こちらの魔導砲を殲滅できれば、後は火炎放射器でも振り回しながら制圧していけばいいしな


「ちなみに、タキの婆さんには報告済みだぜ。雑賀の兄さんのとこにも今頃報告が言ってるはずだ」


タキさんは納戸婆とかいう、よく分からん妖怪になったみたいでどこにでも現れる神出鬼没の婆さんになっている

現在は情報省を新設して、そこの顧問をしている


「わかった。ありがとう、助かったよ」


俺は雑賀さんと通信を繋げた

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