独立宣言/丁歴939年2月12日

独立宣言/丁歴939年2月12日

「ご主人さま、作戦結構以前より現地に存在している山犬という魔物が謁見を求めています」


みちるが尻尾を振りながら報告した

みちるは以前までの完全防備で露出0なメイド服に代わって肩と背中を大胆に露出したメイド服になっている

尻尾は穴を開けているのではなく、背中の露出が尻尾の付け根まで開いており辛うじておしりの割れ目は尻尾で隠れているが

今にもおしりが零れ落ちてしまいそうな錯覚を覚える。つうか、童貞を殺すセーターとメイド服を合体させたみたいな感じだな


「大方の内容は聞いたかい」

「はい、是非とも配下に加えて欲しいと」


とりあえず、友好な姿勢っぽいな

皆、素直に従ってくれるといいんだけど


「分かったよ、いつでも通してくれ」


俺は徴収した市役所の執務室の椅子をギーギー鳴らしつつ言った


「承知しました、少々お待ち下さい」


---------------------------------------


「失礼いたします。お連れいたしました」


みちるの後ろにデカイ狼みたいな魔物がゆっくりと前に出た


「お初にお目にかかる、我はレビ、誇り高き山犬の長

貴君が新たなる魔王、でよろしいですかな?」


レビは威厳のある態度で俺を見上げた


「あぁ、そうだ。君たちはこちらに協力してくれると聞いたんだけど?」

「我ら山犬は御山に住まう誇り高き一族。しかし、人間どもは山の所有権を主張し我らを討滅せんと度々刃を交えてきた

数多の同胞が討ち取られ御山に帰っていった。我らにとって人間は仇敵、それに立ち向かわんとするもの貴君らは敵の敵なれば、

味方と言わずとも協力関係くらい気づいていけようかと思いましてな

本来ならば、手土産の一つなど持参して臣下にお加えいただく所存でしたが、

丁度いいところに瘴気の中で生身でいても魔物に変じない人間がいたのですが、兵士と思しき人間に奪われてしまいました、面目次第も無い」


なるほど、人間は目の上のたんこぶなわけね


「臣下に加わるってことは同盟というわけではなく、こっちの軍門に下るってことでいいのかな?

そうだとしたら、とても心強いんだけど」


なんか、歴戦の勇士って感じでめっちゃ強そうだし

機動力がありそうだから、人間にはできない戦いが出来そうだ


「魔王様に心強いと言って頂けるとは望外の喜び

ところで、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか」


まぁ、見返りくらい要求して当然だよな

そのために、いち早く服属しようっていうんだから


「あぁ、なんでも言ってくれ。出来るだけのことはするよ」

「第一に我らの生活を保証して欲しいのです。数は戦闘に耐えうる者が28、後は女子供が合わせて50を若干下回る程度

正直な所、御山の実りだけでは食うに困っておりまして乞食のようでみっともない限りなのですが」


人間に生活領域を制限されて食料に問題が出ているのか

これは怒り心頭だろうな


「それに関しては問題ない。魔物は全て我々の同胞だ

苦手なものがあれば言って欲しい、瘴気が足りないのら、まさに際限なくある

無論、それなりの働きは期待させてもらうけどね」


聞いたところによると、魔物は瘴気を補充すると体に不具合があれば復元されたり、栄養補給が出来たりするらしい

ゲーム風に言うとHPとMPが全回復、みたいな感じか?

まぁ、栄養は補給されるけど腹が一杯になったりするわけじゃないから活力は微妙に湧かないみたいだけど


「ありがとうございます。高密度の瘴気は至上の美酒にも勝る褒美

我らにとって文字通りの意味で生きる糧となります

そして、もう一つの願いなのですが」


レビは肩の荷が降りたような雰囲気で続けた


「地上戦では是非、我らに先鋒をお任せください

我らには人間でもへの恨みが心身に刻み込まれております、是非とも忌々しい人間どもに牙を突き立てる機会をお与えください」


地上戦、と言っているのは空も飛べないし、そういう機械も操縦できないという意味だろう

ちなみに、この世界では海上戦というものが基本的に存在しない

理由は海が魔物だらけで船でノロノロ進んでいたら格好の餌食になる事と

空飛ぶ箒やら絨毯やらみたいなのが昔からあるおかげで航空技術があっちの世界より発展してるからだ

よって、戦闘は地上と空でしか基本的にはおこらない


「分かった、機会を用意しよう。しかし、君たちが傷つくのはとても心苦しい

恨みよりも命を優先すると約束して欲しい」


バンザイ突撃して玉砕なんてしてほしくないからね

機動力があって知能も高いなんて貴重な戦力だし


「ありがたき幸せ。お言葉、魂に刻みます」


レビは大げさに頭を下げた

どうやら、素直にいう事聞いてくれそうだな


「ご主人さま、そろそろお時間が」


みちるがタブレット端末のような機械を操作しつつ割って入った


「これは失礼した、つい長居しすぎてしまったようだ」


レビが恐縮したように言った


「いえいえ、大変有意義な時間でした

仕事や住居、食料については追って連絡いたしましょう」


俺はレビとの会合を追え執務室を後にした


---------------------------------------


俺は執務室を後にし、テレビ局にやってきた


「魔王様、お待ちしておりました」


人間の姿のままの小日さんが出迎えてくれた

彼女を魔物にしていないのは理由がある。それは彼女が魔物になるのを全世界に配信するためだ

ちなみに、他の教団員達は順次魔物化を行っている


「皆も準備はいいかな? 今日はよろしくね」


俺はプロデュサーを始めとした撮影スタッフ達に声をかけた

見渡すと、鬼、天狗、一つ目小僧、のっぺらぼうなんかがいる

皆、元は人間だったのを俺が無理矢理この姿にしたんだな

彼らは不平不満どころか感謝の言葉しか言わないが、彼らの運命を俺が狂わせたんだ

どんな形であれ、その責任は全うする。もう、後戻りはできない


「任せてくだせぇ、人気アイドル並にイケメンに撮っときますぜ!」

「歴史的な瞬間に立ち会えて光栄です!」

「嬢ちゃんも気張れよ!」


スタッフが勇気づけてくれた

期待に応えられるかは分からないけど、出来るだけ努力しよう


「どうせ、後で編集入れるんで好きなタイミングで始めてくだせぇ」


よし、やるか

俺は腹をくくって合図を送った


---------------------------------------


「我々は魔物への進化を希求する者、そして私は魔王と呼ばれる存在です

この度、瘴気の大量拡散による大規模祝福を実施し、皆さんには魔物に変わっていただきました

魔物に変わった人々は瘴気を糧にすることで僅かな飲食でも生きることが出来ます

また、多くの人が病気や障害から完全に回復しました。それが、不治の病であってもです

我々は全ての生き物が魔物となることで、貧困などの諸問題を解決できると考えています

各地で隠れて暮らしている魔物の方、生活が困窮している方、病気を抱えている方、我らのもとにおこしください

ただちに祝福を施す手はずを整えてお待ちしております

また、我々の生きる権利を侵奪する方々に対しては断固とした姿勢を取らせていただきます

次に、世界各国の方々に宣言いたします

我々は魔物の権利を守り、魔物を迫害する全ての方々に対抗するため、我々『魔緑まろく』は独立を宣言いたします」


独立宣言をキメ顔でかましてやると、隣に座っている小日さんにカメラがパンした


「最後に、この場をお借りして彼女を労いたいと思います

彼女は照魔鏡という教団の教主として魔王降臨だけでなく大規模祝福にも尽力し、この度の魔緑建国にも多大な成果を上げました

よって、私が直接祝福を与えたいと思います。彼女の新たな門出に幸多からんことを」


俺はわざらしく両手を広げると、スタッフたちが拍手してくれた。ちなみに、台本通りだ


「アクティブ」


事前にあらかた詠唱しておいたカオスホールドを発動する

すると、黒い霧が小日さんに纏わりついた

影武者だとか合成だとか言われないように誰も見たこと無いようなスペシャルな魔物にしよう

俺の貧相な想像力をフル動員してどこまでいけるかはわからないけどね

うーん、そうだな、照魔鏡って言ったら九尾の狐だけど、ただの九尾の狐だと普通な気がするな


「あぁ、なんて素晴らしい。なにか胸に刺さっていた棘が取れたような感じがします」


そこにはまさに、白面金毛九尾の狐というような容姿の小日さんが立っていた

金色の川のような輝く金髪に色白の肌、そして頭の上にピンと立った狐耳に九本の尻尾

まさに伝承が現実になったかのようだ


「皆様も魔物になって新しい生活を始めましょう

皆様のお越しを心よりお待ちしております」


俺と小日さんはカメラに向かって一礼して撮影を終えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る