感染爆発/丁歴939年2月11日
感染爆発/丁歴939年2月11日
「ただいまー」
南雲紫は学校から帰宅して自宅の1階の喫茶店のドアを開けた
「おかえり、帰ってきて早々で悪いんだけどちょっとお使い頼まれてくれないかな?
ケチャップ買わなくちゃいけないの、すっかり忘れててね」
喫茶店のマスターである紫の父が申し訳無さそうな顔をした
「え~、今帰ってきたとこじゃん」
「頼むよ。この前言ってたやつ買ってやるから」
紫はヤレヤレと溜め息をつきながらカバンを放り投げた
「しょうがないなぁ、いつものやつで」
ドォーン!!
言葉を遮るように強烈な地響きと共に天を穿つような轟音が響いた
「え、なに?」
「紫、大丈夫か? 怪我してないか?」
紫の父が紫に駆け寄った
幸い地響きは数秒で食器等は全て無事だった
「な、なんだありゃ!」
「逃げろ! あれは瘴気だ!」
「いやぁ! 助けて!」
外から悲鳴が聞こえた
窓から外を見ると真っ黒な霧が辺り一面に空から降ってきていた
外を見た時には3階の高さほどだった黒い霧は段々と高度を下げていき、ついには世界が闇に包まれた
「やばい、くそ! これは・・・これは、なんて素晴らしいんだ」
「皆吸うな! 吸えば・・・吸えば皆、魔物になれる!」
「いやぁ! いや・・・いやぁ、なんで嫌だったんだろう?」
大量の瘴気を浴びて街中の人々が次々と魔物になっていく
その姿は角生えた大小様々な鬼が最も多く、次点で多種多様な妖怪が散見される
その風景はまさに百鬼夜行のようだ
「な、なにあれ? どうなってんの?」
紫は異常な光景に困惑した
「どうしたんだい紫」
紫の父は心配そうに紫の肩に手をおいた
「紫も早く魔物になりなさい」
紫が振り向くとそこには二本の角を額から生やした鬼がいた
「どうしたんだ、魔物になれないのか?
瘴気が足りないのか? それとも体質か何かか?」
父だった鬼は紫の顔を不憫そうに覗き込んだ
そこには人間だった頃の価値観など消え失せていた
「いや! やめて!」
紫は叫ぶと喫茶店から飛び出していた
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
紫は必死になって駆けた
真っ黒な霧が立ち込める中で方向感覚を失いながら
「わぅーーーーーーん」
犬の遠吠えが聞こえた
大きさからして、すぐ近くだ
「ま、まず」
「おぬし、人間だな。この濃度で魔物にならんとは・・・勇者か?
いや、素質があるというだけだな」
そこには大型のバイクほどの大きさの巨大な犬が佇んでいた
「人間では山犬の足から逃れることはできん。同胞の山犬たちも直に駆けつける
諦めろ、抵抗しなければ命まではとらん」
巨大な犬、山犬は諭すように紫に語りかけた
山犬は紫の退路を塞ぐように紫の周りをゆっくりと歩いている
「「「「グルルル」」」」
山犬の仲間が到着したようだ
4匹の山犬が新たに現れ紫を取り囲んだ
「人間、多勢に無勢だ。我らについて来い
おそらく、魔王様ならばおぬしも魔物にするすべをご存知だろう
もう一度、家族と共に暮らすこともできるだろうよ」
最初からいた山犬が説得を継続した
どうやら、こいつがリーダー格らしい
「コイツ、恐怖で頭が真っ白になっているのではないか?
誰か咥えるか担いでいくしかないのではないか?」
若く荒々しい印象を受ける別の山犬が割って入った
「貴重な勇者の血統だ
穏便に済ませたかったが、致し方ないか
許せよ、人間。よし、まずは気絶させるぞ
殺すんじゃないぞ」
合図に合わせて一斉に突進すべく一斉に距離をとった
「今だ! 撃ちまくれ!」
建物の影からガスマスクと防護服で完全防備の3人の兵士が飛び出してきた
兵士達は自動小銃のような見た目の機械式の魔法の杖を武器に山犬たちに牽制射撃を行った
「く、小癪な! 人間を奪われるな!」
山犬はジグザグに突進して兵士達との距離を詰める
「お嬢ちゃん! こっちだ走れ!」
兵士の一人が叫ぶと紫は兵士の元へ駆け出した
山犬は兵士に接近してはいるが一撃離脱を行っているようで組み敷かれてはいない
「わぅーーーーーーん!!」
リーダー格と思われる山犬が再び遠吠えした
「こっちだ! 乗れ!」
紫が兵士の元まで駆けると建物の影に軽装甲車が停車していた
紫は必死の思いで車に転がり込んだ
「よし、撤収だ!」
合図を聞いた兵士はスイッチを操作すると自動小銃の形をした杖のリボルバーのシリンダーのようなパーツが回転した
すると、発動する魔法が変わり銃口から大きな火球が生成され着弾すると大きな爆発をおこした
爆発で怯んだ隙に軽装甲車に乗り込み、装甲車は地面から数センチ浮かび上がり急発進した
「クソ、逃したか・・・ワタシは、この件の報告に向かう
追撃は増援に任せて、お前たちは休め」
山犬達は自身の無力さを感じながら三々五々散っていった
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