従者変転/丁歴938年10月19日

従者変転/丁歴938年10月19日

「チューチューチューおむすびころりんスっとんとん」

「いやいや、最初のセリフそれかい」

「そういう時はハハッって言うんだよ」


俺の目の前には黒・白・灰の三色の大きめのネズミが漫才をしていた


「頼むからそれだけはやめてくれ」


彼らはみちるを魔物化する前の予行演習、つまり動物実験というやつだ

三匹のネズミは真ん中の灰色がツッコミ担当のような立ち位置のようだ

そして、左側の黒と右の白がダブルボケ、灰色の負担がデカそうだな


「いやぁ、これが魔物って奴かー、これでウチらも天下無敵のスーパーモンスターってやつっスかね」


黒いネズミは漫才を続けるみたいだ


「スーパーモンスターってなんじゃい。ネズミに大したこと出来るかい」


灰色が軽くツッコミを入れる

つうか、付き合いいいなコイツ


「そうだよ、ネズミに出来ることなんてほっぺたから高圧電流だすくらいだよ」

「マジで頼むからやめて! 色々やばいから!」


・・・こいつらのチームワークすげぇな。悪い意味で


「お前らは俺の手で魔物になった栄えある第一号なわけだが」


俺は手を越しに当てて偉そうに言った


「よ! さスが!」

「あんたが大将!」

「日本一!」


三匹のネズミが大手を上げて称賛した


「いや、ていうかなんでお前ら日本とか知ってんの? その前のヤバいネタもだけど」

「そら、ウチらは大将の直の眷属なんで、使い魔的な感じみたいっスよ?

テレパシー的なアレで繋がってるんで、ある程度の事は分かるっス」


え? 俺の脳みそハッキングされてない、それ?


「そういう訳で、昨日の晩、みちるちゅわ~んのおっぱいの感触を思い出して悶々としてた事もバッチリだぜ!」

「マ ジ で 誰 に も 言 う ん じ ゃ ね ぇ ぞ !!」


俺は威圧するように言った


「まぁ、さすがに俺らも人様が可愛子ちゃんとイチャコラしてるのを見たくないし、見てほしくもないから普段は互いに見ないようにしようぜ

大将にも俺らにもプライバシーがあるからな」


確かに、ネズミがいちゃいちゃしてるとこなんて見たかないわな


「ところで、僕達に名前付けて欲しいんだよ?」


名前・・・名前か・・・なにがいいかな。バカ、アホ、マヌケとかでいいか


「ちなみに、名前は一つずつじゃなくて一つでいいぜ。俺らは個にして郡、郡にして個みたいなアレだからな」

「特技は増殖なんだよ」


ネズミだけにねずみ講みたいに増えていってテレパシー的なアレとやらで情報共有するのか、諜報活動に使える・・・か?


「じゃあ、テツでいいか」


もっと仰々しい名前が良かったか? ・・・まぁいいか


「なんか適当じゃないスか?」

「シンプルイズベストって事にしようぜ。大将にもメンツってやつがあるだろ。バカにしちゃヤバいぜ」

「い、いい名前なんだよ。う、嬉しいなぁ」


え、もしかして俺、いじめられてる?


「さて、ボスで遊ぶのはこの辺にして、愛しのみちるちゅわ~んを呼びに行くっスか

そろそろ本番いくんスよね?」


さすがは俺の眷属。分かってんじゃん

みちるちゅわ~んってのが気になるが


「あぁ、小日さんと鳥越先生にも連絡しておいてくれ」

「「「あいあいさー」」」


三匹のテツ達は勢いよく駆け出した


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「ささ、姉さん達ずずい~っと奥まで」


みちるの両肩と頭の上に乗ったテツ達は三人を引き連れて戻ってきた


「魔王様、ご成功おめでとうございます」


小日さんが祝福してくれた。"祝福"だけに


「ありがとう。瘴気の量産はどんな感じになってます?」

「はい、想定以上に順調で増員と設備の拡張を考えている所です」


うむ、順調そうでなによりである。俺、なんもしてねぇけど


「朝陽の姉さん、簡単な作業ならウチらも手伝うっスよ

さすがに、大きい荷物運べってのは難しいっスけど、ウチらは瘴気がアレばいくらでも数を増やせるっスから」


黒テツがみちるの上で大げさなジェスチャーを交えて提案した

乗っかるなら行儀よくしろよ


「それは助かります、現在、生産設備の自動システムの設計をしている所ですのでテツさん達でも操作できるようなコンソールを用意しましょう」


ていうか、このネズミ、コミュ力たけー。特に黒


「ねぇ、喋ってないで始めようよー。みちるちゃん待ちくたびれてるんだよー」


白テツが前足をパタパタしながらのんびり口調で訴えた


「いえ、私も気持ちの整理が出来ましたので」

「私はそろそろ戻りたいんだが」


真逆の意見がみちると鳥越先生から聞けた

ちょっと不安だったから決心する時間が欲しかったんだけど、腹をくくるか


「そんなに気張らなくても大丈夫っスよ、アレって思った時には終わってるっス」

「そうだぜ、気張るのは大将だからな」

「どんな魔物になるかは親分次第だから今のうちに注文しとくといいんだよ」


三匹はみちるから飛び降りつつ言った

つうか、また、好き勝手言ってんな


「はは、そうですね・・・可愛い服が似合うといい・・・ですかね?」


みちるが精一杯の笑顔を浮かべた

これは俺の緊張をほぐそうとしてくれてるんだろうな


「ははは、出来るだけ頑張ってみるよ。いくよ?」


俺の言葉を聞いたみちるは静かに瞳を閉じた


「コマンドセット、スロット4、ノーリミット、アクティブ」


俺の音声を認識して指輪に設定されたスロット4のカオスホールドが発動し黒い霧がみちるにまとわりつくように噴霧される

テツの時は、こいつら兄弟なのかなーとか、いっぱい仲間が出来たらいいなーとか、友達になれるといいなーとか思ってたら、あんな感じになったんだろう

今回は明確にイメージをしよう

めいっぱいおしゃれできるような最高に可愛らしい姿、どんな環境でも生きていけるような力、そして、過去に立ち向かえるような心




「・・・なにか、すっきりした感じがします。今までの苦痛が嘘みたい

ご主人さま、ありがとうございます。この身が朽ち果てるまで誠心誠意お仕えいたします」


黒い霧が晴れると、そこにはピンと立った犬耳を頭から生やしたみちるが立っていた

よく見るとスカートの後ろ側が膨らんでおり尻尾が生えたことが予想できる

顔立ちは変わらないが髪は鮮やかな銀髪に変わっており、手袋を外し袖を捲ってみると、そこには傷も入れ墨も消え失せていた

俺には傷と同時に苦痛や葛藤も消すことが出来たような気がした

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