第6話

夕暮れ時。


それはあまりにも突然の事だった。


アインズ様と談笑していたらそこに突然ウェディルが現れた。


「アインズ。勝負がしたいといっていたな。良いだろう、着いて来い。」


いつも気味の悪い笑顔を浮かべてばかりのウェディル。


だけどそんなウェディルはどこか不機嫌そうに笑み一つ浮かべることなくアインズ様に声をかけ、歩き始めた。


俺とアインズ様はあんなにも面倒だと拒んでいたのにと首をかしげたものの、

アインズ様は理由は何であれ、やる気になったのだからそれで十分だ、といってすぐに嬉しそうな表情を浮かべていた。


でも……


「ようやくだ……ようやく貴様の鼻を明かせる日が来たようだな、ウェディル!!

今日こそはこの僕、アインズ・ヴァール・クラウドラインが貴様に完膚なきまでの

敗北を思い知らせてやるぞ!!はーっはっはっは!!」


雑魚っぽい口上をアインズ様が述べている間、

ウェディルは一切眉を動かさず真顔でただただアインズ様を見つめていた。


その様子をみて俺はすぐさまある事を察した。


「なぁ、シェリー。ウェディルの奴、なんか機嫌悪い?」


何か余裕がなさそうというか、イライラしているように思える。


でもその理由は特に思いつかない。


何でイライラしているんだろうか。


いや、そもそもイライラしてないのか?なんて思っていると

俺のすぐそばに立っているシェリーは大きなため息をついた。


「そりゃ機嫌も悪くなりますよ。

……彼が二度も大事な人の心を奪っていくのですから。」


「……は?」


意味の解らない事をぼそりとつぶやくシェリー。


その言葉の意味が解らない俺には目もくれず、

シェリーは勝負開始の合図を出した。


なんだか今は詳しく聞ける雰囲気ではない事を悟った俺は

とりあえず勝負を見守る事にした。


(そういえばこの勝負、ルールとか何も説明なかったけど、

勝利条件って何なんだ?)


降伏、もしくは戦闘不能にさせてたほうが勝ちという

バトル漫画などでよくあるルールなのだろうか。


なんて思いながらアインズ様とウェディルに視線を向けたその時だった。


地面が激しく揺れ始めた。


「じ、地震!?」


この世界でもあるのか!?


なんて思いながら激しい地面の揺れに耐えきれなくなった俺は体がふらつき、

シェリーの方へと倒れこみ、シェリーに覆いかぶさる形で倒れてしまう。


「やぁん、ヒナタ様ったら、大・胆。」


シェリーは自身の上に倒れこんだ俺にあほらしい言葉をかけると共に

メイド服のスリットが入っている部分をわざわざ腹部に持ち上げ、

ただでさえ多い露出を増やそうとしてくる。


そして――――――


「やめんかっ!!」


シェリーは健全な少年で遊んだ罰として隠し持っていた俺のハリセンで軽く叩かれることになったのだった。


「もう、冗談ですのに……。」


本気か冗談化はさておき、こいつは確か以前下着を穿いていない宣言をしていた。


冗談で済まない場合があるという事をもう少し理解してほしい。


なんて思っていると俺は俺たちのすぐそばにとても信じられない光景が広がっている事に気づいた。


何と空中にたくさんの岩が浮かんでいるのだ。


「くらえ、ウェディル!!!」


アインズ様はそう叫び、上空に向かい伸ばしていた腕を勢いよく振り下ろし、

ウェディルを指さした。


するとたくさんの岩はウェディルに向かいものすごいスピードで落下していく。


ウェディルに岩が当たる。


そう思われた瞬間だった。


空が突然曇り、空からまるで鋭い槍でも降ってきたかのように細く強い光が

ウェディルへ向かい急降下してきた岩を貫抜き、破壊していた。


「す、すごい……。」


この世界の人間がウェディルやアインズ様、リディ様を始めとした天使たちに逆らわない理由が初めて分かった気がする。


天使は望めばこの世界を豊かにもできるけど、望めばこの世界を破壊することだって可能な力を持っているのだと。


例えどれだけウェディルの様にむちゃくちゃで、人格が破綻している変態に疑念を抱き、立ち向かおうとする者がいたとしても、そのものはおそらく瞬きする間に

消されてしまうだろう。


この世界が創造されてから一度も反乱がない理由。


それは圧倒的すぎる力を知る者たちはそもそもあらがう事の無謀さを

痛感させられているからに違いない。


そして……


「アイツら、地震を起こしたり、稲妻振らせたり、むちゃくちゃすぎるだろう。」


勝利を得る為に他の者の迷惑を顧みず戦う二人。


そんなあいつらはまさに人の事情なんてお構いなしの天使や悪魔のように思えてきた。


……心優しいと思えたアインズ様ですら勝負となった瞬間、地震を起こした。


俺達の常識でなんて計れない存在なんだろうとおもわずにはいられなくなってきた。


「大丈夫ですよ、ヒナタ様。無茶苦茶をしても問題ないよう、天使の屋敷には神により結界が張られています。それを知っているからこそお互いに惜しみなく力を振るっているんです。……まぁ、私達この屋敷の者にはその結界の加護皆無ですけど。」


皆無ですけど。と、シェリーはいい笑顔で言う。


……いい笑顔で言う事じゃないだろう。


なんて思うけど俺はとりあえず突っ込まない事にした。


(でも、全力ねぇ……。)


多分だけど、アインズ様は全力な気がする。


でも、ウェディルは違う気がする。


まるで――――


「全力のアインズ様をあざ笑うかのようにあしらってる。」


力いっぱい戦うアインズ様は汗もかき、険しい表情で戦っている。


でも、ウェディルは涼しい顔で、ただただあしらっているように見える。


何がたちが悪いって、あしらっている感じなのに多分、アインズ様よりも圧倒的な力を使ってあしらっている。


まるで、お前は自分の足元にも及ばないと言いたげに。


(なんだよ……こんな戦い方……。)


真剣に戦ってるアインズ様が見てて馬鹿みたいじゃないか。


なんで、あんなに真剣な人間をあいつはこうもあざ笑うかのように扱えるのだろうか。


いくら何でもひどすぎるだろ。


そう思っていたその時だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


ウェディルを攻撃しようとしたアインズ様の攻撃がウェディルの稲妻の結界に弾き飛ばされ、アインズ様が自分の生み出した岩に埋もれた。


「アインズ様!!!」


岩の下敷きになったアインズ様が心配になり、俺はアインズ様に駆け寄ろうとした。


けれどそんな俺の腕はいつの間にか近くに歩み寄ってきていたウェディルに掴まれてしまう。


「行くな。」


冷たい声でウェディルは俺に言い放つ。


静かに。


でも、威圧感がすごい。


けど、だからといってこの状況で心配せずにはいられるはずがない。


「離せよ!!つか、助けろよ!!あんなのに下敷きになったら――――」


ウェディルに対し怒り、物を申そうとしたその瞬間だった。


岩の下からまばゆい光があふれ出てきた。


そして、アインズ様の上に降り注いだ岩たちは土へと変わり、崩れ落ちた。


岩が無くなった事でアインズ様の姿が確認できた俺はアインズ様は土で汚れているようには見えるが、怪我はなさそうなことを確認でき、安心した。


でも、その次の瞬間だった。


アインズ様は勢いよく立ち上がるとその場から無言で走り去ってしまう。


「ア、アインズ様っ!!」


なんだか心配になった俺はそんなアインズ様を追いかけようと足を踏み出した。


でも、その瞬間だった。


俺は何故だかウェディルに抱き寄せられた。


「頼むっ……行くなっ……。」


ウェディルの口から発せられた声は何故か苦しそうな声だった。


(何で?なんでなんだよ。……なんで、何で勝ったお前がっ……!!)


訳が解らない。


可笑しいだろ。勝者の癖に……


あんなひどいことを、アインズ様を傷つけるような戦い方をしたくせに……。


「……離せよ。」


「っ!!ヒ、ヒナタ……?」


予想以上に不機嫌な感情が音になった俺の声。


その俺の声を聴いたウェディルの俺の抱きしめる腕の力が弱まった瞬間、

俺はウェディルの方へと振り返り、ウェディルを推し飛ばした。


「お前はいつも言ってるよな。俺はお前の使用人じゃないって。だったらお前の頼みなんて聞く理由がないわけだ。ましてや好きでも何でもない奴の頼みなんてさ……。」


「ヒ……ヒナタ……?」


「……俺はやっぱり、お前の事好きになれない。」


「っ!!」


純粋に多分、ウェディルはすごい奴なんだいうのは理解できた。


でも、それでも俺はウェディルと言うやつの人柄を理解できない。


多分こいつは天才だ。


だからこそ……


(本気の人間をあざ笑うかのようなあんな行動、許せるわけないだろ。)


俺は不快な思いを胸にアインズ様を追いかけるべく走り出した。

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