第3話
「あぁ……暇だ……。とても暇だ。という事でトランプでもどうだい?ヒナタ。」
「書類の山をすぐそばにして何堂々とさぼろうとしてんだよ、駄目公爵。」
あの後、厨房でティーカップを片していると自分にも茶を頼むとわれ、
お茶を持ってきた俺は部屋に入るなり呆れる提案をされていた。
「っていうか、どうやったらこんなに仕事溜まるんだよ……。たまにはまじめに仕事しろよな。」
真剣な顔して仕事をしている時間なんて日に一時間もないと思う。
真面目に一日ちゃんと働けば遊ぶ時間なんて容易に作れそうなものを。
と、思うけど口にはしない。
言ったところで無駄だし、まぁそもそも思ってるだけでウェディルには伝わるからだ。
「ヒナタ。君が可愛い格好をして私の膝の上に載ってくれたならやる気が出る気がするのだが。」
「いや、絶対普通に邪魔だろ。」
変態的な提案の内容はさておき、普通に膝の上に人を置いた状態で仕事なんてはかどる訳がない。
またいつもの冗談かと俺はそっけなく返事を返した。
「ならば私の頬にキスをしてくれ。ならば頑張れる気がするぞ?」
「とかいって本当にキスするとお前、吐きそうだよな。」
「いや、確かに実際は嬉しくはないが吐きはしないと思うぞ……。」
女好きが何を言う。
と俺はまたもそっけなく返事を返しながら辺りに散らばっている書類を拾い集める。
どうやら先程アインズ様が飛んできた時の衝撃で吹き飛んだ書類をウェディルが放置したままだったらしい。
というか、仕事の書類こんな雑に扱ったら駄目だろ。
つくづく駄目な主だ。
なんて思っていた瞬間だった。
俺は背後から覆いかぶさるようにウェディルに抱き着かれた。
(……今度は何だよ。)
あれか?小動物に癒されたい的なあれか?
全く、本当に人の事を何と思っているんだこの男は。
「書類、拾い集められないんだけど。邪魔だから離れてくれ。」
「断る。ヒナタ、そんなつまらない事はやめて私の気分転換に付き合ってくれないか?」
(つまらない事って、そんなつまらない事を俺にさせてんのはお前だろうが。)
別に命令されたわけではないけど、誰かがやらなきゃこいつはやらなさそうだ。
そしてシェリーもやらなさそう。
他のメイドもいるけど、他のメイドはそもそも書斎には立ち入ってはいけないルールならしい。
つまり、俺がやらなきゃ多分書類永遠このままだ。
「で、気分転換って何がしたいんです、旦那様。」
「実はな、やってみたい遊びがあるんだ。お前の世界のじゃんけんとやらで負けたら服を脱いでいくという野球拳―――――――――がはっ!!」
変なワードが聞こえた俺は俺の頭のすぐ近くにあったウェディルの顎を殴り上げた。
本気で言ってる訳はないと思うけど、とりあえず不快だったから殴った。
「いや、本気だぞ、ヒナタ!まぁ、いささか胸もないものを裸にしたところで面白くないとは思ったりはしたが、だが、お前ほど顔が可愛ければおそらくそういう女性として見れ――――」
「見んでいい!!!」
「ぐはっ!!!」
殴られたというのにめげずに語るウェディルに俺は近くにあった鉄製のお盆を投げつけた。
「こら、ヒナタ!!なんてものを投げている!これは流石に非常識だぞ!」
「お前に常識語られたくないんだよ、この変態主!!つか、何でそうお前は俺の世界の情報、いらんものばっか勉強してんだよ!仮にもするならもっとまともな遊び勉強しろよ!!」
本当なんでこいつはこうもくだらない事ばかりに頭が行くのだろうか。
どうしようもない……。
なんて思っていた時だった。
「えぇい、ディル!!!貴様、何時までこの僕を一人放置しておくつもりだぁぁぁぁ!!」
扉を勢いよく開けてアインズ様が入ってきた。
それも騒がし――――とても賑やかしく。
「何の用だ、害虫。」
「どぅぁ~からあぁ~~だぁれが害虫だ!!だぁれがぁぁぁ!!」
なんかさっきも見たな、似たようなやり取り。
なんて思いながらウェディルの意識がアインズ様に向き始めた今の隙にと俺は床に散らばった書類を回収する。
まぁ、ちょっと騒がしいけどウェディルの相手をしてくれるのは正直助かる。
本気でウェディルの相手は疲労しかたまらないしな。
「大体、何の用、じゃないだろう!今回の訪問理由は手紙に書いておいたはずだが!?」
「あぁ、読む価値がないと思いすぐに燃やして読んでいなくてな。」
「なっ!!き、貴様という男はぁぁぁぁ!!」
(読むくらい読んでやれよ……。)
いくら何でも可哀想だろ。
なんて思いながらもまぁ、どうせ例のごとく伝わっているだろうからあえて声にはしない。
でも、本当、いくら何でも可哀想だな、アインズ様。
必死な様子のアインズ様にそんなアインズ様を軽くあしらいつつも怒らせて遊んでいる様子のウェディル。
本当、なんであいつこんなに性格ひん曲がってんだろ。
「まぁいい!読んでいようといまいと関係ない!!読んでいないというなら今ここで言ってやる!!今日こそ僕と勝負しろ!!!ウェディル!!!」
「断る。」
力強く勝負を申し込んだアインズ様。
しかしそれは即断られた。
「ふんっ!貴様ならばそういうと理解していた!だが、勝負をするまで僕はこの屋敷から一歩も出ないからな!!この僕と一日でも共に居たくないならさっさと勝負を受けるんだな!はーっはっはっは!!」
(……自分で言ってて虚しくないのか……?)
何か聞いてるこっちが心痛くなるようなセリフが聞こえてきて
俺はそう思わずにはいられなかった。
これぞまさに苦肉の策と言うやつなのだろう。
しかし――――――
「勝負する方が面倒だ。」
「がぁぁぁぁぁん!!」
その苦肉の策も即敗られ、ショックを受けたという事をわざわざ言葉で表現してくれるアインズ様。
そこからというもの、二人の勝負をする、しない、などの会話は1、2時間ほど続けられたのだった。
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