第2話

「う、上手い、だとっ!?」


談話室へとアインズ様を案内した俺はアインズ様にお茶を出した。


最初は何を思われてたのか、険しい顔で紅茶を見つめ、しばらくにらめっこをしていたアインズ様だったが、覚悟を決めた様にお茶を口に含んだ。


そして今、何故か信じられないという表情でお茶を見つめていた。


(今までロクなもてなしがされてこなかったのが聞かなくても伝わってくるな……。)


この人、もしかしてウェディルに嫌われているのだろうか。


「……これは夢かっ!?そう、そうだとも!そうに違いない!!よぉし、そうと分かれば頬を引っ張り――――――ったたたたたた!!ゆ、夢ではないだとっ!?」


(なんかこの人、一人で楽しそうだな……。)


なんか、一人で居ても全然飽きなさそうだと思う。


いい意味で言えば賑やかな人だと思う。


いい意味で言えば。


そんな風に思いながらアインズ様の様子をただただ近くで眺めていた時だった。


騒がし――――賑やかなアインズ様は突然、静かにお茶を見つめだした。


「もう、この屋敷には僕にまともお茶を出してくれるものなんていないと思っていたんだがな……。」


「…………?」


アインズ様は懐かしそうに、だけどどこか悲しそうな表情でお茶を見つめながら言葉をこぼした。


「もう」、という事は過去にはいたのだろうか。


(まさか失踪中の執事長?女好きでもちゃんといる間は仕事してたのか?)


まぁ、もしかしたら別の人間かもしれないけど。


「それにどこか…………」


「どこか……なんです?」


どこかで言葉を止められるからその先の言葉が気になってしまう。


ついつい問いかけてしまった俺にアインズ様は苦笑いを浮かべた。


「すまない、なんでもないんだ。……」


そういいながらアインズ様はお茶を口に含みはじめる。


(……何でもないようには見えないんだけどな。)


正直なところはそう思う。


けど、ずけずけ聞くのもどうかと思った俺はその疑問を心の中にそっとしまい込んだ。


「ふぅ……ありがとう、美味しかった。」


「いえ、仕事ですから。」


お茶を飲みほすと笑顔でお礼を言ってくれるアインズ様。


なんか安心する笑顔だなと思いながら俺はティーカップを下げ、アインズ様を残し、部屋を後にする。


そして廊下へとでて、扉を閉めた瞬間だった。


「ヒナタ。」


真剣な表情で俺を見つめているウェディルの姿があった。


「……茶を出したのか。」


目を細めながら訳の分からないことを言うウェディル。


客人に出すのは当たり前だろと心で思う俺。


そんな俺の心の声はウェディルに勿論伝わっているはずだ。


俺の心の声を聴いてか、はたまた別の理由かはわからないが、

ウェディルはため息をついた。


「お前はそういうやつだったな。

 ヒナタ。あいつのもてなしはメイドにさせる。

 お前はあいつに近づくな。」


「……は?何で。」


いきなり近づくなと言われても何が何だかわからないし了承できるわけがない。


というか、リディ様とは違ってべつにアインズ様はやばい奴に思えない。


まぁ、リディ様の時もちょっとは違うかなって思って結局やばい奴だったから俺に見る目があるかどうかはわからないところだけど。


(でも、アインズ様はちゃんとくるって手紙をよこしたんだよな?なのに今回はあいつ、俺に何の忠告もしてこなかったし……。)


忠告をしてこなかったって事はやっぱりやばい奴じゃないんじゃないかと思わずにはいられない。


だとしたらやはり近づくなという言葉に理由が欲しい。


そう思うのは何もおかしい事ではないはずだ。


「近づくなっていうなら理由を言ってくれよ。じゃないと納得できないね。」


「なんでもだ。」


理由を求める俺に対し、まさかの理由を話してくれないウェディル。


(まぁ、前みたいにまた理由があるのかもしれないけどさ?)


前回のリディ様の件もある。


忠告を聞かずに怒られたっけ……。


今回も近づくなっていうには理由はあるんだろうけど、でも、こんな理由も言ってもらえず一方的に近づくなって言われても納得できるはずは到底ない。


「あのさ、アインズ様の事嫌いなの?まともにもてなしたことがないみたいな様子だったんだけど。まさかと思うけど嫌いなのか?何で。良い人そうじゃん。俺は割と好きなんだけど。」


なのに仲良くしちゃダメなのか?


と、無言で目を見つめて訴えてみる。


するとウェディルは視線を落としてぼそりとつぶやいた。


「……だから嫌いなのだ。」


(……は?)


小さな声でつぶやかれたけど、俺の耳にはちゃんと聞こえた。


だから嫌いというのはどういうことなのだろうか。


そんな事を思っていたその次の瞬間だった。


俺は突然ウェディルに抱き寄せられていたのだった。


「ヒナタ、頼む。あいつを好きにならないでくれ。」


「え……。」


どことなく真剣な声に聞こえるウェディルの声。


やっぱり変なものでも食べたのだろうか。


様子がおかしい。


「なぁ、ウェディル、お前―――――」


「お前は私のペットではないか!!ほかの男に愛嬌を振りまかれたら私は寂しい!実に寂し――――ぐはっ!!」


いきなりいつもの調子で人の頭を頬で掏り掏りしてくるウェディルに俺はいつも通り腹パンを食らわせた。


そして――――


「誰がペットだ。」


腹を抱えてしゃがみ込むウェディルを上から睨みつけた。


そして、うずくまる主には目もくれず、屋敷の掃除に取り掛かるべく、

まずは厨房にティーカップを片しに行くのだった。

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