第7話

「……あの、リディ様?」


「何かしら、ヒナタ。」


「その……さっきから何してるんですか?」


先程雑貨屋での買い物を済ませたリディ様は次はカフェでお茶したいといってカフェに立ち寄る事となった。


そして、テラスでお茶することになったのだけど、リディ様はこちらを見ることなく行きかう町の人々をただただ眺めていた。


実際のところこれは俺にとって初外出になるわけだからリディ様と二人きりでなければゆっくりこうして街を眺めるのも悪くなかったと思う。


だけどまぁ、俺的な感覚から言うとこのお出かけはデートみたいな感覚なわけで……


(つまらないのだろうか……俺と居るのが……。)


なんだかデートを失敗しているみたいでなんかつらい。


「いい男がいないかを見ているのよ。」


「……え″?」


「でも残念。今日は何処にもいないわね、欲しいと思える子。」


ガッカリした溜息をつくリディ様。


男好きというのは間違いないらしい。


今の今まであまりビッチな感じがしなかったから正直、何処か男好きというのも信じていなかったのだが……事実らしい。


「どういう男性が良いんですか?」


「色白で背が低くて、声変わりはまだくらいの可愛い子かしら。」


(や、やっぱりショタコンなのか……。)


シェリーの話通り、ショタと思わる特徴を述べているという事はそういう事だと思う。


にしても、こんな大人の女性って感じがショタコンとは……。


(ダンディな大人の彼氏いそうなんだけどな。)


ちょっと意外だ。


「あの、ちなみにその理想の子が見つかったらどうするんですか?」


「勿論口説くの。」


「駄目だった時は?」


「恋人にするのはすんなり諦めるわ。」


そういってリディ様は紅茶を口に含む。


余りの潔さにこの人は本当に怖い人なのだろうかという疑問が生まれてくる。


やはり噂はどこかで無駄に大きくされているのではなかろうか。


そう思えて仕方ない。


(……と、同行している目的を忘れるところだった。)


「あの、リディ様。そろそろウェディル様の機嫌を直す方法を教えて頂きたいのですが……。」


「あら、そうだったわね。でも、ここではちょっと教えられないわね……。」


(な、何なんだ、ここでは教えられない方法って……。)


まさかとは思うが如何わしい事なのだろうか。


もしそうなら俺にはできないぞ?


いや、むしろもしそんな方法だったらこのまま俺はあんな面倒な主を捨ててどこかに逃亡してしまおう。


そうしよう。


「……話をする場所を変えましょうか、ヒナタ。でもお願い。最後に服が欲しいの。

ウェディルの領地でしか売っていない服が欲しくて今回わざわざ訪ねてきたのよ。だからそこだけ付き合ってくれる?」


「あ、はい。わかりました。」


まだ昼頃だし、時間はある。


どうせ外出しているのももうばれているだろうし、なら何時に帰っても同じだろう。


そう思い俺はリディ様に同行してブティックに入った。


「ねぇヒナタ。貴方が私にドレスを選んで。貴方はどんな私が好みかしら。」


「え……俺――――わ、私がですか……?」


「えぇ、貴方が。」


すごく穏やかで綺麗な笑顔が向けられ、俺はほんのり頬に熱を持ってしまう。


というか、言い方だろ。


どんな私が好み――――なんて、なんてたまらないセリフだ。


(正直、可愛い系も見てみたい。スタイルが良いからセクシー系もありかも。でも……。)


品のある色っぽさ。


それを醸し出しているリディ様にちょっとあからさまな露出をさせたくない。


(このレースとか綺麗かも。)


まるで女神の身にまとう衣類の様にとても綺麗で、美しいドレス。


俺はそのドレスを手に取った。


「うん、これかな。」


ドレスを遠くからリディ様に当ててみた俺は予想を確信に変えた。


「……そう。貴方には私はそんなにいい女に見えてるの?」


「え!?は、はい。そりゃ、もう……。」


リディ様は品がありつつも色っぽく笑うと俺の顔に自身の顔を近づけ訪ねてきた。


俺はドキッと胸を高鳴らせて一歩後ずさりながらも思っている事を答える。


こんな美人は見た事がない。


それはまぎれもない事実だ。


「じゃあこれ、買っちゃいましょう。」


「え、試着しなくていいんですか?」


「ふふ、いいのよ。私の屋敷に帰ってから着る事にするわ。最悪、本邸にはサイズの調整ができる針子もいるしね。」


ひどく嬉しそうにレジへと向かうリディ様。


そんなに喜んでもらえるなんて、俺も嬉しくなってしまう。


(そしてここでさっそうと俺が会計出せたらな……。)


でも残念ながら庶民の俺にドレスを買うお金などない。


というか、俺、給金なんてもらったことないから一文無しだし。


逃亡やなんやって考えたりしたりしてたけどさ……。


(……でも、やっぱり俺、リディ様はそんな悪い人に見えないな。)


皆みんな警戒しろだのなんだの言うけど、俺はあの人は大人っぽいけど、時に無邪気で可愛い人だと思う。


まぁ、多分俺のが随分年下だろうからこの言い方はひどく上からな物言いかもしれないけど。


正直可愛い人だと思う。


(やっぱり俺、結構この人タイプかも……。)


楽しそうな笑みを浮かべてレジで会計をするリディ様を見て俺はひそかにそんな事を思っていたのだった。


そして、リディ様に連れられ、リディ様の屋敷……というか、ウェディルの領地に唯一ある別荘ならしいんだけど、そこに連れられやってきていた。


「静かですね……。」


「使用人は先に全員返したのよ。どのみち明日、私の領地へ戻るしね。」


「全員……?また何で……。」


「さぁ?何でかしら。」


(質問に質問で返された……。)


リディ様の案内の元、リディ様の屋敷を歩きながら話す俺達。


装飾品とかがとても多くて、別荘だとはとても思えない。


というか、女性主か男性主の違いなのだろうか。


別荘であるはずのリディ様の屋敷の方がうちの屋敷よりも華やかに見える。


「じゃあ、この部屋で待ってて。選んでくれたドレスに着替えてくるわ。」


「あ、はい。」


俺を恐らくリディ様の部屋と思わしき部屋に通したのち、リディ様は隣の部屋へと移動した。


(そういえば俺、向こうの世界含め、女性の部屋って初めて入ったかも。)


女の子の家には何回か上がった事はあるけど、それは大抵リビングだ。


部屋にはいる事はなかった。


(とか思ってくると緊張するなぁ……。)


いくら今の自分が女装姿といえど、異性の部屋に入るというのは何とも言えぬ緊張感がある。


(っていうかこの部屋、なんか甘くていい香りがする……。)


菓子パンが大好きな俺にはたまらない甘い匂い。


あぁ……懐かしい。日本の菓子パンたちよ……。


「ふふ、とても素敵な顔をしているわね、ヒナタ。」


「っ!!」


着替えに時間がかかると思っていた俺に隣の部屋に入ったばかりであるはずのリディ様の声が聞こえ、急ぎ振り返る。


そこにはコルセットと下着だけのリディ様の姿があった。


いや、もう、ある意味殺す気か!!!


「使用人を一人残しておくべきだったわ。このドレス、一人では着れなさそうなの。ねぇ、手伝って?女の子同士なのだもの、良いでしょう?」


「は、はい……。」


ここで駄目といえる訳もなく、俺はリディ様の着替えを手伝う。


とはいえ、ドレスを着せるなんて初めての俺。


多分こうじゃなかろうかと思う着せ方をしていく。


(っていうか、本当スタイルいいな、この人……。)


どうしてもドレスが紐がいっぱいついていて複雑なせいで見ずには着せられない。


そのせいで見てしまっているのだが、もう、本当、男ってばれたら違う意味でやばいだろうと思う。


なんて思いながらもなんとかドレスを着せられたのだった。


「あら、本当にこのドレスいいわね。ねぇ、どうかしら。貴方好みになった?」


「はい。もうかなり。」


思った通りドレスはとても似合っていて、本当に女神みたいだ。


綺麗以外の言葉がもはや出てこない程に。


「じゃあ、今度は貴方が着替える番ね。」


「…………え?」


「ふふっ、貴方が選んでくれている間に私も貴方を私好みに着せ替えようかしらって思って服を選んでいたのよ。」


(え……いつの間に……。)


そんな時間あるほど俺は悩んでいただろうか。


割と即決だった気がするのだが。


いや、もしかするとリディ様も即決だったのかもしれない。


だけど、正直、これは結構困った状況になってしまった。


(選んだのって間違いなく女物だよな……。)


今の俺は何処からどう見ても美少女。


間違いなく紳士服は選ばれていないはずだ。


そして、もしここでリディ様が選んだ服が露出が多い服ならば当たり前だけど

着れないし試着させられることになったら大変だ。


「あの、せっかくなんですがリディ様、私は―――――」


「ふふっ、そういわないで。きっと貴方も気に入るわ。だって――――」


リディ様は半ば強引に俺を大きな鏡の前に立たせた。


そして―――――


「あぁ、やっぱり……。とっても似合うわ。この紳士服。」


抱き着きながら紳士服を俺に当てたのだった。






「旦那様!旦那様っ……!」


ヒナタがリディに街に連れ出されてから数時間。


何処にもヒナタの姿がなく、探し回っていたシェリーはウェディルの元へ

ひどく焦った様子で訪れていた。


「どうした、シェリー。そんなに慌てて。」


「たたた、大変なんです、ウェディル様!!こ、これを!!」


シェリーの手には一通の手紙があった。


そして、その手紙はヒナタよりと書いてあった。


ウェディルはその手紙をシェリーから受け取ると急ぎ開き、目を通し始めた。


「もう疲れました。屋敷を出ていきます。探さないでください……ヒナタ……。」


ぼそりと手紙の内容を読み上げるウェディル。


そしてその次の瞬間、ウェディルは手紙をぐしゃっと握った。


「どどど、どうしましょう、旦那様!!ヒナタ様が、ヒナタ様が家出を!!」


「……シェリー。落ち着くんだ。これはヒナタが書いた物じゃない。」


「え?そ、それでは誰が――――――」


「決まっている。……そういえばヒナタの世界ではこういう事件が起きて

事件の犯人が解ったときにこういう言葉を言うのだったな……。

真実は、いつ●一つ、だ!!!」


そういうと人差し指でウェディルは屋敷の窓の外を指さした。


そして――――――


「乗り込むぞ、犯人、リディウスの屋敷に!!!」


高々と犯人と思わしき人物の名をあげたのだった。

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