第30話 作戦当日

 そしてついに、行為予定日当日。……ピピピピ、ピピピピ、ピピッ


 俺は始めてスマホのアラーム機能を使って、6時に目を覚ます。大きなあくびが出る。目がまともに開かない。身体が、あと1時間寝かせてくれと、訴えている。だが、俺は起きなければならない。なんてったって、今日は俺の勝負の日なのだから。


 目を軽く閉じたまま、感覚で階段を降り、目を閉じたまま、彼女にあいさつする。


「おはよ~」


(パンッ!!!!)


「えっ?!」


俺は、思わず目を開ける。そこには、クラッカーを持ちながら笑う、彼女がいた。


「おはよう」


「ちょっと、めっちゃびっくりしたんだけど?!」


「だってあなた、寝ぼけてたんだもの。今日は朝から、シャキっとしてもらわなきゃ!」


 朝から心臓が止まるかと思ったが、おかげで目は完全に覚めた。彼女はどうやら、目覚ましが好きらしい。


 その後、いつもより早い朝食を食べ、いつもより早く歯磨きをし、いつもより早く着替えた。数日前に彼女に選んでもらった行為時専用服は、紗枝さんに見せられるようなものではないので、私服用に彼女が選んでくれたオシャレめの服を着る。時計を見ると、時刻は7時過ぎ。まこちゃんが来るまでは、あと1時間程ある。俺は彼女と、もう一度今日の流れを確認する。



 まず、8時から30分程度、リビングで3人で適当に会話する。まこちゃんに、この家の雰囲気に慣れてもらうためだ。


次に12時まで、彼女とまこちゃんは子供部屋に移動し、2人で遊んでもらう。その間に俺は、行為用の服に着替えた後、リビングに隠しカメラを設置する。ソファが映るように。このカメラは何のためのものかというと、彼女がモニタリングするためのものだ。このカメラが捉えている映像は、子供部屋のクローゼットに隠してあるモニターに、リアルタイムで写し出される。その映像を見て、彼女が俺に指示を出すという計画だ。


そして12時から1時間程度は、昼食の時間だ。もちろん俺は料理を作れないため、外に食べに行く。ちょっと前に行った、近くのあのレストランだ。


そして、帰宅した後、3時までリビングで、俺も含めた3人で遊ぶ。


次に3時から1時間半程度、おやつを食べながらデズニー映画鑑賞だ。この間俺と彼女は、行為に向けて色々と仕掛ける。


そしてちょうど良いタイミングで、彼女はそっと子供部屋に移動する。その後、彼女の指示を受けながら、俺は行為を行う...。そこからまこちゃんのお迎えが来るまでの時間は、成り行きでという流れだ。




 一般に、よその子を1日預かるとなった場合、どこか外に連れていってあげるのが普通であるが、行為があると時間的に難しいし、何より移動手段がない。子供とはいえお客さんを何十分もの歩かせるなんてあり得ないし、以前乗せてもらったあのタクシー運転手を呼べば、え、もう一人子供いたの的な気まずい空気になるのは必至だ。だから今日1日、まこちゃんにはお昼以外の時間はずっと家にいてもらうことになってしまうが、何とか我慢してほしい。ごめんよ、まこちゃん。



 その他様々な計画を大方確認し終えると、紗枝さんから、「今家を出ました。すぐ着きます!」というメールが来た。一気に緊張感が高まる。「お待ちしてます!」とメールを返すと、数分後、


(ピンポーン)


本当にすぐ玄関のベルが鳴らされた。彼女と顔を見合わせ、頷くと、緊張でこわばる表情筋を何とかほぐし、できるだけ自然な笑顔で、玄関のドアを開ける。


「はーい」


「あ、どうも、おはようございます」


「おはようございまーす」


「おじちゃん、おはよう!」


「うん、おはよう」


うおー、朝から元気で可愛いなぁっ。すると、彼女が控えめにリビングから出てくる。


「あ、まなちゃん!」


まこちゃんは靴を脱いで、走って彼女の元へ向かう。


「あ、こらまこ! 靴はきれいに並べなさい! まなちゃん、おはよう」


「おはよ~」


まこちゃんは一度玄関へ戻ってくると、きれいに靴を並べ直す。終わってすぐまた彼女の元へ行き、リビングを見ると、


「わ~、すご~い!」


と言って、リビングに入っていった。玄関に残された、俺と、紗枝さん。


「紗枝さん、上がっていかれますか?」


「あ、いえ、すぐ出発しますので。というか、素敵なお家ですね」


「ほんとですか? ありがとうございます」


「猫ちゃんのそのちっちゃいぬいぐるみとか、可愛い~」


「あぁ、これですか。まなが、こういうの好きで、よく雑貨屋に連れていって、買ってあげるんです」


「へぇ~、まなちゃん、センスありますね。まこも見習ってほしいです」


「はは、そんなことないですよ」


「いやいや、そんなことありますよ~。じゃあ私はこの辺で。まこ~!」


「は~い」


そう言って、まこちゃんがこちらへ来る。


「おとなしくしてなさいよ。迷惑掛けちゃダメだからね」


「はーい」


「じゃあ、すみませんが、よろしくお願いします」


「はーい、楽しんで来てくださ~い」


「ままバイバ~イ」


(ガチャン)


ドアが閉まる。これで家には、完全に3人だけとなった。



 いよいよ、大作戦開始だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る