第29話 最終準備
その日の午後は、行為に向けた最終準備1日目ということで、まずは、文房具店に行き、色鉛筆と自由帳、折り紙を買った。
次に、雑貨屋に行き、小さな動物の作り物や、飾り付け用の小物等を買った。玄関やリビング、子供部屋に配置して、紗枝さん(ターゲットのお母さん)からの更なる好感度アップはもちろん、まこちゃん(ターゲット)の気分上昇を狙うらしい。
次に、家具屋に行き、子供部屋で足りないものを買った。具体的には、可愛い柄のカーテンや子供用のイス、ヒーターなどだ。荷物が多くなってしまったので、家具屋の「配送サービス」というのを使って、買った商品を家まで届けてもらった。
午後は作戦通り、公園のベンチで、紗枝さんからのイメージアップに努めた。ボロを出しそうになりつつも、特に大きな問題はなく、会話をすることができた。会話の内容は、子供の好き嫌いの話や、紗枝さんの夫の話、俺の過去の話(好感度高めな作り話)などだ。
家に帰った後は、彼女と子供部屋作りの仕上げをした。文房具店で買ってきたものを収納スペースに仕舞い、家具屋で買ってきたものをいい感じに配置すると、今度こそ完璧な子供部屋が完成した。
次の日の午後は、最終準備2日目ということで、まずホームセンターに行き、三輪車と自転車、芳香剤などを買った。自転車等は、実際に使うのではなく、庭に置いておくことで、普段からよく親子で出かけているんだなと思われ、自然と好感度が上がる、らしい。それらの運搬には、ここにもあった便利な配送サービスを使った。
次に、「TATSUYA」に行って、行為へのスムーズな移行にはうってつけだと彼女が言う、デズニー映画のDVDを借りた。行為にスムーズに移行できるデズニー映画ってなんだよ。その後、スーパーでお菓子、ケーキ屋さんでケーキも買い、まこちゃんのご機嫌取りアイテムをクリアする。
そして、最終準備の仕上げとなる、午後の授業が始まる。ここを落とせば、今までやってきたことが全て水の泡になる。緊張の中、公園へ向かう。彼女は先にまこちゃんと接触し、「うちにおいで」と誘う段取りになっている。
ベンチに着き、それまで通り、紗枝さんと会話をしていると、予定通り、彼女とまこちゃんはこちらへ向かってきた。
「ママ、まなちゃんのお家に行ってもい~い?」
上手く誘導出来ている。さすが彼女だ。
「今日はパパが早く帰ってくるからダメだよ」
「今日じゃなくて明日!! ねぇいいでしょ~?」
「んー...」
彼女が口を開く。
「明日はパパもお休みだからいいでしょ~?」
俺も口を開く。
「うん、もちろんいいよ」
俺は紗枝さんの方へ向き直る。
「せっかくの休日ですから、旦那さんと二人で、どこかへお出かけしてください」
「ん~...でも、迷惑でしょうし」
「いえ、迷惑だなんてそんな! まなも俺と2人で家にいるよりも、まこちゃんと3人でいる方が楽しいでしょうし、俺も2人じゃない休日は久々ですから、逆に来てくれると嬉しいです」
妻を事故で亡くした男がこんな言い方をすれば、許諾以外の選択肢はない。
「...そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」
「やったぁ~!」
まこちゃんは手を上げて喜ぶ。
「ほらまた調子乗って~」
紗枝さんは笑いながら言う。
「ちゃんと隆さんの言うこと聞いて、おとなしくしてるんだよ?」
「はーい!」
そして彼女の、
「まこちゃん、鉄棒しに行こ!」
という声で、子供二人は遊具の方へ駆けて行った。...よかった。とりあえず、今日のミッションは成功だ。紗枝さんから声が掛かる。
「すみません、本当」
「いえ、さっきも言った通り、俺は大歓迎ですよ。それに、紗枝さんには、旦那さんとの時間を大事にしてほしいんです。俺は、妻との時間をあまりとれなくて、今でも後悔してるんです。紗枝さん達には、そうなってほしくない」
「......ええ、確かにそうですね。それじゃあ、言って下さった通り、夫とどこかに出掛けてきますね」
「それがいいですよ。そしたら、まこちゃん朝から1日預かりますよ」
「え、いいんですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます、助かります。本当、隆さんって信じられないくらい優しいですよね...」
「よっ! お得意の!」
「いやですから本音ですって!」
そう言ってまた、二人で声を上げて笑い合った。そういう努力もあり、ついに、好感度と信頼度がかなり高い証である、「連絡先交換」を成し遂げた。いや、お見合いかっつーの。
無論、「明日のことについて話し合うため」という口実なのだが。
家に帰ると、早速明日のための準備をする。紗枝さんの入る玄関には、壁に造花を掛け、靴箱の上のスペースに、小さな猫などの可愛い作り物を置く。そのスペースに、液体の入った瓶に、細い棒を差すだけでおしゃれに香るという最新の芳香剤も置いておいた。
紗枝さんの入る可能性があるリビングには、カウンターに先程と同じだが香りが違う芳香剤、テレビ台の上には小さな兎などの可愛い作り物を置く。リビングの空いているスペースには、実は雑貨屋で買っていた、観葉植物を置く。
さらに、まこちゃんが入る子供部屋には、元祖芳香剤というイメージの強いあれが、現代風にバージョンアップした芳香剤を置いた。その後、彼女からのアドバイスも受けながら、紗枝さんとメールでやり取りをする。その結果、朝8時にまこちゃんを送り、夜7時に迎えにくるということになった。タイムリミットは11時間、十分過ぎるくらいだ。そして俺は、明日の段取りをもう一度確認し直すと、ワクワクしながら就寝した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます