第16話 ロリ先生の作戦と俺と店員の会話

 彼女は、平日のためそこまで車の多くない広大な駐車場を見渡すと、店舗の横の人気ひとけの無い場所を指さし、


「あそこで作戦会議よ」


と言った。


 そこに向かう途中、長い距離の徒歩で軽く息があがっていた俺は、


(やっぱり徒歩じゃ移動距離に限界があるなぁ...自転車でも買おうか。いや、そしたら彼女と手を繋ぐことができないし、ある程度距離ができてしまう。ならせめて、彼女と近い距離にいられる車か。いや、車を買う金がもったいないし、まずもって俺が運転免許なんてとれるはずない...)


なんてことを考えていた。すると彼女が、


「帰りはタクシーを使いましょう」


と言ったので、 


「それだ!」


と思わず声が出てしまった。


 目指していた場所に着くと彼女は、ポケットから警察官やスパイなんかが付けてそうな黒いイヤホン的な物を差し出した。そして、


「私、最近の小さい子がどんなおもちゃで遊ぶのか知らないから、店員さんに聞きたいの。だけど、隣に5歳の女の子を連れたお父さんが、最近の子が遊ぶおもちゃが分からなくてって聞いたら、いや、隣に最近の子いるでしょって思われちゃうから、あなたに一人で行って欲しいんだけど、絶対あなた一人じゃどこかしらでミスするから、私がこれで行動の指示をする。はい、着けて」


と言ったので、あ~そういうことかと納得…した訳じゃないけど理解をして、それを受け取った。

 耳に装着すると、数十メートル彼女から離れて、テストを行った。


「聞こえる?」


という彼女の声は、耳元にしっかりと届いたので、腕で大きな○を作ってから、彼女のもとへ戻った。


 すると彼女は、


「はいこれ、お金が入ってるから」


と言って俺に財布を渡し、


「じゃあ、頑張ってね」


と言ったので、まだ行く覚悟全然ができていなかった俺は、


「…え、本当にやるの?」


と聞いた。すると彼女は、これからあなたが何をしようと何を言おうと私の考えを変わるつもりは微塵も無いわよというたっぷりの自信を含んだ表情で、


「ええ」


とだけ言ったので、俺は観念し、財布を持って入店した。


 中に入ると沢山の子どもがいて、思わずブツが起立しそうになったが、彼女より可愛い子なんて恐らくこの世にいないだろうと思うと、欲が消えていったので、彼女に感謝だ。その感謝をイヤホン越しに伝えようかとも思ったが、もし言っても「何、いきなり」と、顔をしかめられるだけだと思い、やめた。

 その後、彼女の


(近くの店員さんに声をかけて)


という指示を皮切りに、俺と店員は次のような会話を繰り広げた。なお、俺は彼女の言葉をリピートしているだけなので、実質彼女と店員の会話である。()内のセリフは、彼女のセリフを表す。


「すみません」


「はい」


「お時間大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ」


「実は、5歳の娘にサプライズでプレゼントをあげたいと思っているんですが」


「素敵ですねぇ」


「ええ、まぁ。なんですが、最近の子がどういったもので遊んでいるのか分からなくて。娘に、何のおもちゃが欲しいか聞いたのですが、何しろうちは英才教育をしているもので、テレビなどのメディアはニュースしか見せていなくて、娘もあまりそういうことを知らないんです。

 それで、小学校入学を控えた今ぐらいの時期に、習い事は2つぐらいに絞って、なるべく自由な時間を作ってあげたいと思ったんです。

 なので、子供が楽しめるようなものを、今まで我慢させてきてしまった分、沢山あげたいので、できるだけ多くの商品を紹介していただきたいんです」 


「わかりました。私が全力でサポートしますっ」


「ありがとうございます。お願いします」


「はい。では早速始めますね。こちらへどうぞ」


「はい」


「まずは...こちらですかね。これは今、最も人気のあるおもちゃの1つでして、娘さんにも確実に楽しんでいただけるかと思います」


「へぇ~...」


「次は...こちらですね。これは、先ほどのものと同じくらい人気があるのですが、少々値が張る商品になっています」


「たしかに...」


「次は...こちらですね。この商品は、渡すお子様の好みが分からないという方にも人気な、リーズナブルでオーソドックスな商品になっています」


「ほぉ...」


「続いて...こちらですね。これは、プルキュアシリーズのものとなっていて、アニメ内で使われている物と同じデザインになっています。

 ただし、パッケージの写真のコスチュームは、別売りとなっておりまして...こちらになります」


「なるほど」


「次は...こちらですね。これは、最近流行っている実写版プルキュアシリーズのものになります」


(キャッ!!)


「え?!」


「はい?!」


(ごめんなさい。虫が飛んできたから...)


「どうかなさいましたか?」


「あ、いえ、すごく多機能な商品だなと驚いてしまって...」


「あ、なるほどっ、そうですね。全部で8つの機能がありますので、娘さんにも満足して頂けると思います。

 続いて...こちらですね。これは、今大人気の海外発のゲームとなっておりまして、ご家族皆さんで楽しめるパーティーゲームとなっています」


「おもしろそうですね」


「はい。私も友達とやったことがあるのですが、とても盛り上がりますよ...あ、私事すみません。

 続いて...こちらは、小物系のコーナーになります。この中だと、パズルとか、フィギュアとかが人気ですかね。それと、ぬり絵も人気があります」


「あの、フィギュアだと、具体的にどれが人気ですか?」


「えっと...この3体、いや、えと、この3人が人気ですね」


「そうなんですね」


(そろそろいいから、とりあえず今言った商品、全部下さいって言って)


「は?!」


「はへ?! どうかなさいましたか?!」


「あ、い、いえ!! え、えと、ずいぶん値段が安いなぁと...」


「え、あ、は、はい、そうですね。安さには自信があります。同じものを大量に仕入れておりますので。

 5歳の女の子のおもちゃだと、こんな感じですかね。今紹介させていただいた商品から選ばれますか? それとも、もう少し紹介いたしますか?」


「あ、もう大丈夫です...ありがとうございました」


「あ、承知しました。では、今ご紹介した商品の中で、気になる商品などございましたか?」


「あの...今紹介してくださった商品、全部ください...」


「ぜ、全部ですか...?」


「は、はい」


「か、かしこまりました。1番レジでお待ち下さい!!」


目を丸くした店員が、俺の気が変わらない内にという感じで、超特急で商品をかき集めている間に、俺は念のため彼女に確認する。


「え、全部って言った?」


「言ったわよ?」


「マジで?」


「本当よ?」


ダメだこの人と諦め、言われた通りレジの前で待っていると、レジにはおもちゃの箱が次から次へと重ねられていく。

 周りの人の視線に恥ずかしくなりながら会計をする。


「合計14点で、41062円です」


平然を装う店員に倣い、俺も平然を装って財布を開けると、中には10万円が入っていて、いや余裕で越えるなと思いつつ、諭吉さんを5枚出した。

 店員が、商品お運びいたしましょうか、と聞いてくれたが、それでは外で待つ彼女の存在がバレてしまうため、大丈夫ですと丁重にお断りして、上半身の関節という関節に袋のあの持つ部分を引っ掛け、子供たちにガン見されながら、何とか店を出た。

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