第6話 ロリ先生のありがた迷惑と俺の入浴

 脱衣所に入ると俺は、浴室を前にして、激しい興奮が再燃した。


(もう少しで...もう少しで俺の夢の時間がぁ...!!)


なんて思いながら嬉々として服を脱いでいると、


(♪~お風呂が沸きました)


と、あのメロディーが再び聞こえてきた。

 あれ? 風呂はもうとっくに沸いてるんじゃ...と思っていると、


(ドンドン)


と、脱衣所のドアが叩かれた。人間というのは、肩を叩かれたら無意識で振り向くものだ。それと同じ原理で、俺がほとんど無意識でドアをあけると、


「キャッ!!」


と言われ、顔を伏せられた。そういえば、俺は今、全裸だった。完全に無意識だった。

顔は伏せられていて見えないが、耳まで真っ赤になった彼女を見て、かわいい!! と思ったが、


「ごめんごめんw」


と言いながら俺はドアを閉める。


「もう!! 私も一応女性よ?!」


きっと顔は真っ赤になっているのだろう。


「だから、ごめんってばw」


と言うと、彼女は大きなため息を吐いて、


「まぁいいわ。それより」


と言って話し出した。


「使用済みの浴槽は嫌だろうから、新しくお風呂を沸かしたわ。希望通り、ぬるめの40度で。安心して。浴槽掃除をもう一度してから沸かしたから、完全に清潔よ。突然ごめんなさいね。それじゃあ、ごゆっくり~」


と言って、彼女はリビングへ戻って行った。


(な、なんだって…?? 新しく...風呂を...沸かしただと...?! じゃあ、彼女が浸かったお湯は...ない?!)


意気消沈した俺は、全てがどうでもよくなって、勢いよく浴室に入り、泣きながらシャワーを浴びた。


(俺の...俺のロマンがぁ~!!)


神様は、どこまでも不平等だ。俺にだって少しぐらい幸せをくれてもいいだろぉ?!

 その勢いでガシガシ頭を洗い、身体を洗い、やけくそで浴槽に入った。すると、いつもの熱いお湯ではなく、ぬるめだったのでとても気持ちよく、思いの外長風呂してしまった。これからは、毎日ぬるめで沸かしてもいいかな、と思う程に。疲れがどんどん解れていくと、彼女の入ったお湯に浸かれなかった悔しさは、いつの間にか消えていった。


 今日は彼女が来て、なんか色々狂ってるけど、幸せな日だったなぁ...「何日間か」と言わず、いつまでもここにいればいいのに...なんて考えてる間に、彼女を見たくなった俺は、ぬるめのお湯との別れを惜しみながら風呂からあがると、歯磨きをしてリビングへと向かった。


 リビングに入ると彼女は、テレビもつけずにキレイに開脚し、お腹とおでこを床にぴったりくっ付けていた。ついでに胸も。俺には気付いていないらしい。


「体柔らか!」


と言うと、驚く素振りも一切見せず、


「あら、あがったのね。本当にゆっくり浸かってたみたいだけど」


と、時計を見ながら彼女は言った。


「まぁね。それより、今何してたの?」


と聞くと、


「柔軟運動よ。お風呂上がりはゴールデンタイムだから」


と教えてくれた。俺もやってみよ~と、彼女の隣で見よう見まねで開脚したまでは良かったが、自分の体の硬さにガッカリしただけで終わった。


「あら、あなたずいぶん硬いのね」


「まぁ、何十年も運動してないからね。てか、俺そろそろ寝室行くけど、どこで寝る?ここの元家主の寝室ならあるけど。それとも俺と一緒に寝る?」


俺が期待はせずともワクワクしながら聞く。


「あなた、さっきから発言がセクハラよ? まぁ、私は平気だけど。夜はここにいるから大丈夫。おやすみなさい」


いや平気なんかーい。

だがとにかく大丈夫らしいので、


「分かった。おやすみ」


と言って寝室へと向かった。歩きながら、ふと、俺はさっきの彼女の言葉が引っかかった。(夜はここにいる...? 言い回しからすると…寝ないということなのか?)


 結局意味は分からなかったが、彼女が大丈夫と言うのなら大丈夫なのだろう。そう割りきって、自分の寝室に入る。

 そして、ベッドの横の棚に置いてあったスマホに電源を入れる。スマホなんて、夜以外ほとんど使ったことはない。昼間に使ったことといえば、保険会社と電話を何回かした時ぐらいだ。


 ベッドに上がり、布団の中に入ると、俺はいつものように小説サイトを開き、フォローしている人の新作が無いか確認する。今日はたまたま好きな作家さんが新作を投稿していた。恋愛小説らしい。飛びつくように画面をタップし、ワクワクドキドキで読み進める。

 胸いっぱいに幸せを感じながら、第1話を読み終える。時刻はすでに23時を回っていた。下からは物音が聞こえてくるから、彼女はまだ起きているのか?と気になったものの、俺は眠かったので、寝ることにした。

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