第4話 ロリ先生の手料理と謎の契約

 玄関のドアを開けると、キッチンに行って買い物袋を置いて、肩を回した。家に無いと思うからと一式買った調味料が、かなり肩にきていた。彼女が上着をたたみ始めたので、ちょっと休もうとリビングのソファに座ると、


「何休んでるの。お料理するわよ。まあ、あなたは料理なんてできないだろうから、ちょっと手伝って」


と、彼女が言った。正直肩が上がりそうになかったが、子どもに料理させっぱなしというのはさすがにいけないので、俺はキッチンへ向かった。


「まずは...お米だわ」


と言って、彼女はさっき買ってきた5kgの米の袋を取り出した。


「椅子か何かある?調理台が高いわ」


と言われたので、洗面所にあった小さめの椅子を持って来た。


「これでどう?」


「ええ、ちょうど良いわ。ありがとう」


彼女は元々家にあった計量カップで米を炊飯釜に移しながら、


「私はお米を研ぐから、あなたはそこの調味料ラック...砂糖と塩が入ってるやつ。その中身を捨てて、新しく買ってきたやつを入れておいて」


と言ったので、


「はいは~い」


と俺は返事ををして、作業を開始した。それから彼女は、野菜や肉を包丁で切ったり、コンロを使いこなして調理したり、時々料理に関する豆知識なんかを教えてくれたりしながら、料理を順調にこなしていった。


「アルミホイルはあるかしら? 落し蓋にしたいの」


と彼女に聞かれたので、


「あ~、アルミホイルは買ってないや。元々この家にあったのならここにあるけど...」


と言って、アルミホイルを差し出した。すると、中を確認した彼女が、


「すごいわ。その人が亡くなってから何年か経つんでしょ? なのにこんなに保存状態が良いなんて...。あなたを助けた人、だっけ? ずいぶんと几帳面な人なのね」


と言ったので、


「あぁ。細かいところまで気を配ってくれる、本当に優しい人だった。こんな俺にも優しくしてくれて...本当、感謝してもしきれないよ」


と答えた。本当のことを言ったまでだったのだが、ちょっとしんみりとした空気になってしまったので、できるだけ明るい声で、


「落し蓋ってことは、あとは待つだけだよね? テレビでも見てよっか」


と言った。すると彼女は、


「ええ、そうね」


と、俺が空気を変えようとしていることに気づいたのか、これまたちょっと明るめのトーンでそう言った。彼女がアルミホイルを軽く水で洗い、鍋に被せると、俺はリビングに行った。俺がソファに座ると、彼女はフローリングに直接正座した。


「ソファに座らなくていいの?」


「この方が楽なの。お気になさらずに」


彼女らしい返答に、そっか、と軽く返事をした。 テレビをつけると、見たことのないバラエティー番組が放送されていた。何せ、十数年ぶりのテレビだ。そしてそれは、彼女も一緒のようだった。興味を持った俺と彼女が、最近のテレビ番組はこんなにおもしろいのかとか、私もニュース番組しか見たことないわとか、そんな話をしていると、


「さて、そろそろ良い頃合いかしら」


と言って彼女が立ち上がった。


「待ってて。盛り付けして持ってくるから」


なんでもかんでもやらせっぱなしはいけない、と思って腰を上げたが、俺が行っても逆に迷惑になるだけだろう、と思い直した。待ってて、その言葉通り、俺はありがたくテレビを見続けさせてもらうことにした。

 彼女の「悪くないわね」という声が聞こえた直後、キッチンから美味しそうな匂いがやってきて、俺の鼻孔をくすぐる。





「さぁ、召し上がれ」


そう言って彼女がお盆に乗せて持ってきたのは、肉じゃがだった。見た目も非常に良く、ご飯もふっくら炊き上がっている。


「まずは、相手の胃袋をつかまなきゃいけないものなんでしょ?」


と彼女が自分の分を持って来ながら言ったので、


「それは相手が好きな人の場合じゃない?」


と言うと、彼女は少し恥ずかしそうに何かを言った。しかし、ちょうどよくテレビの音が大きくなり、うまく聞き取れなかったので、


「え?」


と俺が聞くと、


「い、いいから、早く食べて。こういう時は作ってもらった人が先に食べるのが常識でしょ?そんなことも知らないの?」


と、言われた。その時の彼女の頬は、やはり少し赤かった。


「じゃあ、いただきま~す」


何と言ったんだろうと気になりつつも、そう言って肉じゃがを口に入れた瞬間、感動で涙が出るかと思った。きちんと中まで味が染みているのに煮崩れしていないじゃがいもと、タレの味の中に本来の旨みを残す肉のハーモニー。それを引き立てる臭みの消え去った人参と、わずかに食感を残した玉ねぎ。長年おにぎりしか食べていないこともあって、最高においしく感じられ、


「うまい!」


と俺は叫んだ。


「お口に合ったようで良かったわ」


と彼女は言うと、例の白いバックから折り畳み式の箸を取り出した。


「何それ?」


「あぁ、これはマイ箸よ。いざという時のために持ち歩いてるの。潔癖症だから、他人のは絶対使えないしね」


と言うと、彼女はいただきま~すと小さな声で言って食べ始めた。俺は、肉じゃがを食べながら、


「で、あのお金はどうやって手に入れたの?」


と聞くと、


「ああ、あれはバイトのお給料よ」


と彼女は言った。いや、5歳の女の子がバイトさせてくださいなんて言ったら、笑われて終わりでしょと思ったので、


「いやいや、バイトって...いくら話し方が大人だからって、見た目は子どもなんだから、バイトは採用してくれないでしょ~」


と言うと、


「いえ、姿を見せなくていいパソコンのバイトをしたから、その点は大丈夫よ。どっかの誰かさんの個人情報丸パクりしたから、年齢なんかも誤魔化せたしね」


と言われた。え、それバレないの?てか勇気あんなぁ。


「でも、あんな大金稼げるバイトなんてあるの?しかもまだ5歳でしょ? 情報系のバイトできるぐらいの日本語、一体どうやって覚えたの?」


「まあ、あれほど稼げるバイトなんてなかったから、裏のバイトをしたわ。あまり大きな声では言えないけど。語学の勉強は2歳からバイトの合間にやってて、今では多分、あなたよりは語彙力あるわよ?」


ドヤ顔で放たれた彼女のその言葉に、ちょっと腹が立ったが、事実だし、可愛いので許すことにした。

 

 その他、食べ終わるまで、そのバイトの詳細や、語学勉強の具体的な方法なんかを教えてくれた。野菜や料理、その他の様々な知識は、調べた語句から関連させて調べていくうちに知ったのだという。それだけであの料理の知識を習得したとは、信じがたかったけど、深くは言及しなかった。

 食事を終えると俺は、


「料理は任せちゃったから、皿は俺が洗うよ」


と言った。すると彼女は、


「ありがとう。ちょっと話がしたいから、それ終わったら聞いてくれる?」


と言ったので、


「うん、わかった」


と言うと、彼女は微笑み頷いて、リビングへ戻って行った。ちょっと真面目な顔で言われたので、話の内容を考えてみたのだが、皆目見当もつかなかった俺は、何を言われるのかと少し心配になった。早めに済ませてしまおうとパッパと皿洗いを終わらせ、リビングでテレビを見る彼女に


「終わったよ?」


と話しかけた。すると、彼女はこちらを見た後数秒、間をあけてから、話し始めた。


「話っていうのは、今後のことについてよ。まず、これからここに何日間か居させてほしいんだけど、迷惑じゃない?」


「うん、全く」


すると彼女は、


「ありがとう。それで、急に話が変わるんだけど...私...2歳から語学の勉強を始めたって...言ったでしょ?」


と言った。彼女にしては珍しく、言葉を詰まらせているようだ。一体何を言い出すのかと固唾を飲んでいると、彼女はこう言った。


「ある出来事がきっかけで日本語の勉強を始めたんだけど...その出来事っていうのが...その...ロリコンに深く、関係、してて...」


……ん?

 俺は全く理解できなかった。2歳児がロリコンをきっかけに語学の勉強?本当に意味が分からなかった。


「ん、どういうこと?」


と俺が聞くと、


「ま、まあともかく! 私があなたにロリやロリコンに関する知識を伝授してあげる。だって、あなたのロリに対する態度を見てると、こっちがイライラするぐらい、うじうじしてるんだもの。ロリに対する正しい対応と知識を特別に教えてあげるわ」


彼女の喋りは、以前の調子に戻っていた。


「だからこれから、私のことは先生と呼びなさい。ビシバシロリコン教育してあげる」


と言われ、俺はやっぱり意味が分からなかったが、


「よろしくお願いします、先生!」


と言った。実際、ロリに対して、何をそう呼ぶのかは詳しく知らないけど、ムラムラ?していたし、それを晴らす知識なら欲しいと思った。それに、彼女と1日でも長く一緒にいたいとも思ったし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る