第3話 ロリ先生の来訪と野菜の知識

 早足で歩いて行く彼女に、走ってなんとか追い付く。


「ちょっと待ってよー、家どこにあるか知らないでしょ?」


「たしかに。あなたに先に行ってもらわないと困るわね」


「そうでしょ?急がなくてもすぐ近くだから、ゆっくり行こう。そこ右に曲がって」


そうやって道を案内し、1分も経たない内に、俺の家…否、女性の家に着いた。彼女は家の中に入ると、こう言った。


「なぁんだ、ちゃんとした家じゃない。テントだったらどうしようかと思ったわ。しかも綺麗に片付いてるし。もしかして意外にそういう感じ?」


そういう感じ、というのは、掃除をマメにするような几帳面な人間、ということだろう。


「いや、この家は俺を助けてくれた人が住んでた家だから立派なんだよ。今は亡くなってるけどね。片付いてるのは、その人が掃除好きな人だったから、かつ俺がほとんど家を使ってないから」


ふむふむそういうことかと頷く彼女に、俺が聞く。


「で、君は一体何者なんだ?」


「それはまだよ。もうちょっとしてからのお楽しみ」


そうはぐらかす彼女に、俺が思い出して聞く。


「そうだ、夜ご飯。家に帰んないなら食べてく?そろそろお腹空いたよね」


「いや、まだ4時よ?」


あ、そうだ。

俺の食事時間は異常なのだった。


「俺はいつも公園で4時に夕飯にするんだ。5時になると、子ども達が帰っちゃうからね。1人の夕飯は寂しいから」 


と説明すると、彼女は少し考えてから、


「私は平気だけど、あなたがお腹空きすぎて倒れても困るから…いいわ、ご飯にしましょう」


と言った。実を言えば、家に超絶美幼女がいるというありえない状況に気分が高揚しており、空腹はあまり感じていなかった。しかし、彼女にそう言われたため、


「待ってて、コンビニで何か買ってくるから」


と言って、出掛けようとした。すると、


「待って、あなたおそらく毎日コンビニのご飯でしょう。偏った食事は体に悪いわよ?」


と彼女に言われ、たしかにそうだと思った。あの公園に初めて行った日から毎日、ほぼおにぎり以外食べていない。すると彼女は続けて、


「コンビニじゃなくてスーパーに行きましょう。その方が沢山食べ物がある。買い物できるくらいのお金はあるのよね?」


と言ったので、


「お金はあるけど、スーパーなんて近くにあるの?」


素朴な疑問を投げかけると、


「この辺り、意外に色々あるのよ?スーパーも、歩いて10分ぐらいで着くわ。さぁ行きましょ」


と、彼女は上着を着なおして早々に玄関へ行ってしまう。俺が急いであとから家を出て、ドアに鍵をかける。早くも主従関係は確立されてしまったようだ。



「手を握って」



いきなりそんなことを言われて、頭の処理が追いつかない。…ん?手を握る…手を握る…?…手を握るって……えぇ?!?!

一気に心臓の鼓動が早くなった。


「きゅ、急にどうしたの?!」


声が裏返っていたかもしれない。


「手を繋いでないと、本当に誘拐犯だと思われるわよ? 親子感を出して自然に買い物するためには、これくらいしておかないと」


と言って差し出された手には、きちんと手袋がはめられていた。しかも、ピンク色の可愛いやつ。いや素手じゃないんかいっ。俺はちょっぴり残念に思いながらも、おぼつかない手つきで優しく彼女の手を握った。彼女の手は、温かかった。


 その後、心臓の音が彼女に聞こえていないかどうか心配しながら歩いて行くと、本当に10分ぐらいでスーパーに着いた。こんなところにあったんだ。店内はかなり人が多いようだ。時間的に、夕食作りのために、主婦たちが大勢買い物に来ているのだろう。


「いい?いざという時は、あなたをお父さん役にするから。驚かずに、自然に反応してよ?」


と彼女が小声で言った。


「わ、分かった。頑張る」


とは言ったものの、正直自信は全く無かった。独身男性に急にこんなとんでもなく可愛い娘が出来たなんて、まず脳が追い付かないだろう。

 俺はとりあえず、カートに買い物かごを入れ、カートを押し進める。


「私が進む方向を決めるから」


と彼女は言って、カートを掴んだ。傍から見れば、女の子がカートに手を添えているだけのように見えるだろう。だが、次の瞬間。


「うおっ」


彼女は、かなりの力でカートの方向を変える。俺はその動きに合わせるのに精一杯だった。すると彼女は、野菜コーナーでカートを止めさせ、


「にんじん」


と呟いた。俺が何のことかさっぱり分からず混乱していると、


「に·ん·じ·ん!早く取って!」


と彼女は小声で言った。慌てた俺が、言われた通りにんじんを取ると、


「違う!もっと赤色が濃いやつで、表面の凹凸が少ないやつ!あと、茎の切り口の軸ができるだけ小さいやつね!」


何を言ってるかさっぱり分からないなりに、できるだけ彼女の言っているものに近いと思われるものを手に取ると彼女は、いいんじゃない、と言って、再びカートを掴んだ。

 俺がカートを進め始めると、さっきの行動について、彼女から説明があった。


「子どもより、父親が商品を選んだ方が自然でしょ?だから、私が言ったものを、あなたが取って。選び方はちゃんと指示するから」


そう彼女は言うと、またカートを止めたさせた。


「玉ねぎ」


と言われたので、俺が玉ねぎを見ると、


「硬めで太ってて、首はシュッと細くなってるやつ。表面の皮が乾燥していて、傷が無いやつ。できるだけ重みがある方がいいわ」


と言われ、またそれに近いであろう玉ねぎを手に取る。そんな調子で買い物を進めていき、こんにゃくコーナーに来た。


「しらたきと糸こん。どちらがお好き?」


…え、何が違うの?


「違いがわからない」


と、苦笑いしながら答えると、


「まあ物自体はどちらも同じよ。ただ、一般に、しらたきの方が細いことが多いわ。ってことでしらたき」


と彼女は言った。俺に聞いた意味はあったのだろうか。まぁいいやと俺が体勢を直し、彼女も再びカートを掴もうとした時、


(ドンッ)


60歳ぐらいのおばさんが彼女にぶつかり、彼女は膝をついた。


「あらら、ごめんなさいお嬢ちゃん。膝痛くなかった? ...って、あらぁ、ずいぶん可愛いわね~。お父さんとお買い物?」


とおばさんが彼女の膝をさすりながら聞くと、


「うん!」


と彼女は答えたのだが、その瞬間、俺は彼女を抱きしめたい!! と思った...!! だって...声が...声が...!!可愛すぎる!! マジで!! 彼女は普通の子どもと思わせるために、先程までの大人びた声を封印し、ロリ声をつくっていたのだが、その声が最高に可愛い!!


「いつもお父さんがご飯作ってくれるの?」


とおばさんが聞くと、彼女は、


「うん。とぉってもおいしいご飯作ってくれるんだよ。ねぇ~パパ?」


と、振り向いた彼女を見て驚いた。なんと、彼女は、ロリ顔まで作っていたのだ!!


(その顔と声で「ねぇ~パパ?」とか言わないで!! 可愛すぎる~!! 死んでしまう~!!! うぉぉ~!!!!)


「う、う、うん。そ、そうだねぇ」


と俺がなんとか答えると、おばさんは、


「すみませんねぇ。よく周りを見てなくて」


と言った。


「い、いえいえ、大丈夫です」


と俺が答えると、おばさんはにっこり笑って、じゃあね、と彼女に手を振った。彼女はこれまた最高にかわいい笑みを浮かべ、控えめに手を振り返した。すると以前の顔と声に戻った彼女が、


「お見苦しいものを見せて失礼。気持ち悪くなかった?」


と聞いたので、


「気持ち悪い?! 逆!! 最高だった。マジで可愛かった!!」


と俺が興奮して言うと、彼女は、


「気持ち悪いのはあなたの方だったわね。それなら良かった。あなたがロリコンで助かったわ」


と言った。頬が少し赤く見える。


「ロリコンじゃなくてもあれは全人類共通で可愛いってなると思うよ?」


と俺は言ったのだが、お得意の無視が発動され、レジまでカートを引っ張られた。


「そういえば、お金はあるのよね?」


そりゃあもちろん。犯罪者にはなりたくない。


「うん。千円」


すると彼女は、こう言った。


「たったそれだけでこの量が買えるとでも思った?本当、もう少し勉強しなさいよ。色々と」


あれ。足りないの?

 すると彼女は、肩に掛けていた小さな白いバックを開けた。彼女は周りに見えないよう隠していたのだが、俺はその中に入っていたものを見てしまった。大量の一万円札の札束を。


「これ使って」


と、そのうち1枚の一万円札が渡された。


「いや、でも...」


さすがに子供からお金をもらうのは抵抗がある。


「いいから。これは私の食費でもあるの」


しかし、真剣な顔でこう言われてしまい、会計が次だったこともあって、俺はやむなく受け取った。


 会計を済ませ、店から出ると、俺は右手に買い物袋を持ち、左手で彼女の手を握った。正確には、彼女の「手袋」を握った。


「さっき、お金ごめん。家にならいくらでもあるから、後で返すね」


「その必要は無いわ。さっきの買い物は、私が買いたいものを強要して買わせたんだから、支払いの義務は本来私にあるの。それに、お金なら沢山あるし」


「そうはいかないよ。俺のプライドが許さない。だいたい、いくら持ってるの?」


「基本的にいつも100万は持つようにしてるわ」


「ひゃ、100万?! そ、そんな大金、持ち歩いちゃダメだよ!! てか、どこのお嬢様だよ!! やっぱり、家に帰った方がいいんじゃないの?!?!」


「あまり大きな声を出さないで! 金目当ての輩が来るかも知れないでしょ!」


「確かに! ごめん!」


なんて話をしている内に、無事家に着いた。

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