死後(仮)

@kusurinametaro

一話完結

あれ?ここはどこだ?

僕は死んでなかったのか?

目の前に一人の人、男性か女性かはわからない。

白しかない部屋にぽつんと立っている。

こちらに気付くと不気味なほどの静寂を破って口を開いた。

「やっと、起きましたか。随分待たされました。」

状況が呑み込めない。

自分は確かに死んだはずだ。あの状況では、万が一にも助からないだろう。

とするとここは死後の世界?そんな馬鹿な話はないだろう。

どちらもありえないが、どちらかが起こってしまっている。

「まだ、意識がはっきりしませんか?」

咄嗟に「大丈夫です」と言ってしまった。

なにも大丈夫なことはないのだが。

それを見透かしたように相手は言葉を続けた。

「ここは、死んだ人が行き着く”選択”の部屋。私の存在を人間にわかりやすく説明すると神です。」

自分が神だって?一瞬だがつい馬鹿にしたように笑ってしまった。

不味い、怒らせてしまっただろうか。

「全く、信じていませんね。では、こうしましょう。」

僕の体は宙に浮いた。手品とは思えない。何か僕の知らない技術があるのだろうか。

「これで信じられましたか?それとも今度は槍でも降らせましょうか?」

信じてはいないが、それ以上相手の気分を害するのは得策ではないだろう。

僕は咄嗟に否定した。

「いいえ、充分です。あなたが神様であることを理解しました。

先ほどの無礼な態度をお詫びいたします。」

「わかればよいのです。突然理解することが出来ないのは無理からぬことです。」

案外、自称神様は寛大らしい。

多少の無礼は許してもらえるかもしれない。

「先ほど、ここを”選択”の場所と仰いましたが、何を”選択”するのですか?」

「ここでは、生まれ変わるか、それとも消えるかを選べます。生まれ変わる選択肢がない場合は、この場所を経由せずそのまま消滅となります。意思確認ですね。」

生まれ変わりだと?自分に?よくこの自称神はそんなことが言えたな。神は全てをお見通しではないのか。

今度は、表情に出ることがないように声を出した。

「すみません。生まれ変わるかどうかを判断するために質問をお願いできませんでしょうか。」

「はい。もちろん。何が聞きたいですか?でも、生まれ変わる際に記憶は引き継げませんよ。ここで話したことも当然忘れます。

あ、あとお願いも聞くことが出来ません。美男美女だとか、頭脳明晰だとか、両親が資産家とか多いんですよね、昔から。」

「わかりました。では、質問をさせていただきます。なぜ世界は平等ではないのでしょうか。」

もし仮に神が万能で全ての事象をコントロールできるのだとすれば、納得できないことがいくつもある。

その最たるものがこれだ。社会は、世界は全く平等でない。生まれながらにして差がはっきりとある。もしも平等だというやつがいるならば、全員嘘つきだ。

「以前、受験、テストだけは平等だ。」などというやつがいたがあれも嘘だ。義務教育が仮に生まれた国にあったとして、きちんと全員が通えているといえるのか?それをだれか確認したのか?子供だって親に働かせられている場合だってあるんだ。勉強時間だって平等ではないし、教育に欠けられる費用だって平等でない。

一体なにが平等なのか。この世にただの一つだって平等はありはしない。

ここで「この世界は平等です」などいう欺瞞に満ちた答えが返ってくるのであれば、断じて神ではない。

「平等でない理由ですか?むしろ、平等である必要がありますか?」

は?こいつは一体何を言っているんだ。生まれのせいで理不尽な目にあるやつがどれだけいると思っているんだ?

生まれてすぐ死ぬやつだっている。こんな理不尽なことあるか?

「生まれによって人生を左右されていることは客観的な事実です。その問題については対処されないのですか?」

「問題といいますが、いったい何が問題なのですか?」

‥‥

神には話が通じないのかもしれない。

これ以上この問答を繰り返しても不毛だ。

今まで神について考えたことは何度もある。

もし仮に神がいるのだとしたら、

1.悪意を持って管理をしている。人間が理不尽な目にあって苦しんでいるのをただ楽しんで眺めている。

2.力はあるが、人間に無関心。ただ傍観しているだけで無勧奨。

3.無力で、何もコントロールできない。

のどれかだろうと考えていた。

目の前のこいつが神なのだとしたら、無関心か無力のどちらか、あるいはその両方だろう。

「すみませんでした。あの、加えてお教え頂きたいのですが、この世界は神様がコントロールされてらっしゃるのでしょうか?

だとすれば、どこまでコントロールすることが可能なのでしょうか?」

「はぁ‥、全てをコントロールことは可能です。ですが、それをすることに意味はありません。今は、死んだ生物を新しい生命に循環させているにすぎません」

「今は?昔は違ったのですか?」

「先代は、いろいろなことを、本当にいろんなことをされていたみたいですね」

「先代というと、神様は交代制なんですか?寿命や任期のようなものが?」

「交代制というか‥

神は誰かに殺されることでしか死なず、殺したものが神になります。」

「ということは?」

「はい。私は先代を殺しました。」

その言葉は冷たく、突き放すように聞こえた。

どうして?は気になるが相手を怒らせてしまうかもしれない。

聞き方は考えなければ

「神様は簡単に死んでしまうものなのでしょうか。」

「簡単なものですよ。人間とそう大差ありません。首をはねられれば死にますし、はねられなくても首をしばらく締められれば死にます。

まぁ、人間よりかは長く耐えられるかもしれませんが」

それを聞いたとき、男の気持ちは決定した。

男のポケットにはナイフが入っていた。

それは常に持ち歩いていたもので、死んだときも当然のように持っていた。

これ以上長く話して感づかれてもやっかいだ。

この距離であれば、全く問題はないだろう。

ナイフを見ずに取り出し一瞬で仕留める。

そうして男は神になった。

新しい神はまずこの世から生まれによる不平等を取り除いた。

国の単位を排除して、子は両親ではなく、世界皆で平等に育てるようにした。

それが社会のためになると信じて。

結果は何も変わらなかった。ただ単純に強者が弱者を虐げる構造は維持された。

スタートラインが一定になったことで強者・弱者が変化しただけだった。

強者が、弱者を助けるのは稀で、弱者は苦しみもがき続けた。

弱者があまりに飢えて死ぬので、今後はそれらが起こることがないように今までよりもたくさんの食料を作れる技術を与えた。

人間の数が増えるだけで構造に変化はなかった。

結局のところ、人の欲望は尽きることがなかったのだ。

富めるものはより富を求めた。

この世から苦しみが取り除かれることはついにはなかった。

そうしてる内に、神はこの世界に嫌気がさした。

「この世界は必要ない。」

世界を終わらせることを決意した。

せめて苦しみがないように私も含めて一瞬で消滅させる。

目を覚ますと元の白い部屋だった。

今までのは夢だったのか‥

「どうでしたか?

神様になった気分は?」

男は沈黙で返した。

それが答えだった。

神様は深くため息をはき。

遠くを見つめながら「それではまだ私が続けるしかありませんね」と呟いた。

「これからどうしますか?

生まれ変わりますか?」

「いいえ、もう充分です。」

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