第18話ー片鱗

龍弦は立て掛けてあった木刀を手に取り、軽く振って手招きをする。


それを見て楓は薙刀を上段に上げ、

石突の部分を前に出し構えた。


「では……参りますっ!」



いやに静かな立ち上がりだった。


龍弦はどこでも打って来なさい。という様な自然体の構えで立っていた。


楓は龍弦のその構えにまったくと言って良いほど隙を見つけられないでいた。


(全然隙がない…でも攻めていかないと成長出来ないっ!)


「…行きます」


次の瞬間、楓の姿が掻き消えた。

そしていきなり龍弦の足元に薙刀が伸びてくる。


「ふむふむ、中々の速度じゃ。だが…ホレ!」


龍弦は脚に当たる直前に薙刀の柄に木刀を当てそっと受け流す。


「なら!これで!八重違い燕!」

上段からのフェイントで下段足払いの二連撃…


「おー、コレもなかなか…ほっほ。」


楓は自分の位置を変え、緩急を加え、フェイントをし、様々な角度から攻撃をする。

上段、下段、上段から中段への変化技…



その全てを龍弦はいなし、受け流す。



1人の門下生がレイルに声を掛ける。


「どうだ?少年…いや、レイル坊ちゃんでいいか?凄いだろう?あの楓嬢ちゃんはこの摩利支天流に入れるだけの実力がある天才少女なんだ」



「へぇー、やっぱり凄い人だったんですね…

僕とよりちょっと年上?なだけなのに…」



「だよなぁ…あれでまだ12歳だぜ!?

ここに居る大半の門下生は

今の嬢ちゃんの動きを追えてなかったはずだぜ?

ほんと、将来が楽しみな逸材だな!」



それを聞いて確かに全然見えないな。と思い、

龍弦と楓の試合を集中して見ている時、徐々に違和感に気付いていく。


(……あれ?なんで?

だんだん動きが見える様になって来たんだけど、、、

それに2人になんか煙?オーラ?

みたいなのが身体の周りから出てる…)




そうしているうちに龍弦が楓の背後を取り、

首に木刀を添えて


「これで一本じゃ。」


門下生達は皆驚いていた


「お、おい、今の誰か見えたかよ?老師の動きがまったく見えなかった…

どうやって背後を取ったんだ…」



(え?みんな見えなかったの?

弦爺は緩急を付けながら楓の視線を外して普通に背後にまわっただけに見えたんだけど…)



「互いに礼!」


「ありがとうございましたっ!」


………

……


「あーっ!やっぱり一本も当たらなかった!

悔しーっ!」



「ほっ!まだまだじゃわい、楓は目に頼りすぎるきらいがあるでの、もっと気配を読むのじゃ!

攻めに関してはまずまずと言ったところかの、このまま伸ばすと良い。」


その言葉を聞き、一転。楓は真面目な顔で


「はい!ありがとうございます!もっと精進致します!」


その返事に満足したのかレイルに顔を向け感想を聞く。



「どうじゃ?レイル。

この国の武術は凄いじゃろ…?!」


「…とは言っても殆ど見えとるか分からんだろうがの。」



龍弦の最後の方の呟きは聞こえなかったが、

レイルは素直に感じた事を伝えた。



「ハイ!とても凄かったです!

楓の初速も速かったですが、次の二連撃やフェイントを織り交ぜた上下段の打ち分けも凄かったです!!

とくに凄かったのが弦爺の最後のあの足運び…

あれはまるで踊りの様な滑らかな……「ちょっ!

ちょっと待て!!

レイルや!お主今の試合が見えたのか!?」



「え?あ、…はい。

最初は辛うじて見えていたんですけど、

だんだんと見えて来て、最後の方ははっきりと見えてました。」



龍弦と楓はレイルの言葉に顎が外れんばかりに驚いていた。



(こやつ…楓のみならず儂の動きまで眼で追えていたのか。さっきの動きは単純だが、

儂の極意の1つじゃぞ?

それを一目で見抜くとは……まだはっきりはせんがもしかすると儂の全てを受け継ぐ事ができるかもしれんのう

……………よし。少し手解きしてみるかの!)



龍弦はレイルの才能の片鱗を感じ取るのだった。

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