第58話 慈海荘でバーベキュー
来週に迫った誕生日イベントをどうするか。俺は色々案を練っていた。
平日だから近場で計画をたてるしかないな。
定番だけれど豪華ディナーを食べて、夜景を見ながらプレゼントを渡す。
いやもう少し捻って、プラネタリウムに行くのもいいな。コニカミ☆ルタでは『R18大人プラネタリウム』なんてプログラムもあるんだよなー。
などという下心満点な考えは微塵も顔に出さずに、食後のコーヒーを飲みながら一人窓際の席で寛いでいたら、佑がやってきた。
「臣、今週末のバーベキューのことなんだけどさ」
「今週末?」
「あ、やっぱ忘れてる」
「えっと、あ!」
そうだった。忘れていた!
毎年この時期に、若手有志でバーベキューをやっていたんだった。葉山の『
入社した頃から、そこで合コンも兼ねたバーベキュー大会をやっていたんだよな。
当然ながら、佑が幹事。で、俺は肉を焼く担当として駆り出されていたのだ。
今年で『
はいはいと聞きながら、里桜に言わなきゃと考えて、ふと美鈴さんはどうするのかなと気になった。
「なあ、佑」
顔を近づけて耳元で囁く。
「美鈴さんはどうするって?」
佑の顔が照れくさそうになった。
「実は、来てくれるって言ってる」
「え! それは良かったじゃん」
「ああ」
ものすごく素直に喜びがあふれ出た佑。これは順調そうだなと俺も嬉しくなった。
「でもまだ、お試し期間だからな。正式に付き合っているわけでは無いんだ」
少し顔を引き締めてそう続けた。
二人で顔を突き合わせて、内緒話を続ける。
「……そうか。でも美鈴さん、来てくれるって言っているんだろ」
「まあな」
「それって、一歩先へ進めようって気持ちの表れだと思うぜ」
「そう思うか!」
「ああ。だって、みんなの前で一緒にいる姿を見られてもいいって思っているってことは、公認の仲になってもいいって思っているんじゃないかな」
「だといいんだけどな」
「前進あるのみだぜ。自然体で行けば大丈夫!」
「臣……やっぱ持つべきは優しい友だな」
嬉しそうにそう笑うと、さらに声を潜めて聞いてきた。
当日は車をレンタルして食材を詰めていくこと、そこに一緒に朝比奈姉妹を乗せて行きたいと思っているけれど、迷っていることを。
「それは……里桜に聞いてみる。里桜、美鈴さんと姉妹だってみんなにバレるの嫌がっていたみたいだからな……なんて言うかな」
「やっぱりそうか……無理ならいいんだ。それだったら臣は里桜ちゃんと一緒に来てくれ。美鈴さんもどんな返事になるかわからないからな。いざとなったら岩橋にでも手伝ってもらうから大丈夫」
「とりあえず聞いてみるから待っていてくれよ。今日の夜また連絡する」
二人で「OK!」と目で確認し合った。
「あなたたち二人、そういう仲なのかしら? キスでもしそうなくらい顔が近いんだけど」
いきなり背中から声が降ってきて、二人で同時に飛び上がる。
めちゃくちゃ会いたく無い顔がそこにあった。
「全く、誤解されたくなかったら、
「別にバーベキューの相談していただけだし。当日はマーヤも手伝ってくれよ」
佑が冷静にそう切り返した。
ああ、こいつも来るのか。バーベキュー。面倒くさいことにならないといいんだけどな。でもまあ、こいつにこそ、出会いが必要そうだからな。がんばって彼氏を見つけてくれ。
俺の気持ちが駄々洩れた視線を感じたのか、酒井が不愉快そうな表情になった。
「朝比奈さんも行くの?」
「多分」
「多分って、あらあら、さっそく暗礁に乗り上げているの? いい気味」
「な、何? お前ら何かあったのかよ?」
佑が驚いたように俺たちの顔を見比べている。
「「別に」」
これ以上突っ込まない方が良いと判断した佑、心得たように口を閉ざした。
が、不思議そうに呟いた。
「マーヤってこんなキャラだったっけ?」
「コホン! シゲのお手伝いならするわよ、もちろん。なんなら食材調達、一緒に行ってあげましょうか」
「いや、それはもう大丈夫だから」
「そう、じゃあ、当日……」
「あ、ありがとう。当日のテーブルセッティングとか頼むな」
「了解! じゃあ一緒に行く?」
「いや、それはもうこいつに頼んでいるし」
佑が俺をくいッと指さして、助けを求めるような視線になった。
俺は慌てて頷く。
「あら、そう。じゃあ現地でね」
酒井は佑にはにっこりとしながらも、俺にはフンという顔を向けて去って行った。
ふうー。事なきを得て良かったぜ。
何かを感じたような佑。酒井の背中を唖然とした顔で見送っていた。
家へ帰ってからのいつものLine電話タイム。里桜に週末のバーベキューのことと、車の件を伝えた。里桜の顔がパアッと輝いた後、一瞬強張った。それは微小な表情の変化だったけれど、俺は逃さないぜ。
大丈夫かなと不安に思っていると、
「じんさん、バーベキュー楽しみです。後、ドライブですね! すず姉ちゃんと重原さんと一緒に。お姉ちゃんには私からも話してみますね。ちょっと待っていてください」
そう言ってLineを一度切りかけるのを慌てて留める。
「あ、あのさ、里桜。無理しなくていいからな。美鈴さんと姉妹だということ、みんなに知られたくなかったら……」
「じんさん、ありがとうございます。大丈夫です。じんさんのお陰で、私も前を向けたんです。それに、すず姉ちゃんとも話せて。だから、お姉ちゃんと一緒に行かれるの久しぶりで嬉しいです。ただ……」
「ただ?」
「あ、ごめんなさい。大丈夫です」
里桜はいつもの笑顔に戻って一旦Lineを切った。
さっき一瞬とは言え、顔を強張らせたからな。心配だ。でも、大丈夫という里桜の言葉を信じて待とう。
もし四人で行かれたら、どんなに楽しいドライブになるだろう。
俺の心配は杞憂に終わり、その夜四人でのドライブが確定した。
P.S 更新滞ってすみませんでした。ゆっくり更新ですが、もう少しだけおつき合いいただけたら嬉しいです(*´▽`*) 作者より
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